瀬崎祐の本棚

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交野が原  83号  (2017/09) 大阪

2017-09-03 17:15:58 | 「か行」で始まる詩誌
「U字溝」野崎有以。
亭主が膨らんだ餅が食いたいとぼやいている。U字溝の上で餅を焼くが、なかなか膨らまない。夫婦仲は好いのだか悪いのだか。意味があるのかないのか分からないような展開が痛快な作品。女は、

   八百屋の夫婦が気に入らないからこれから野菜は自分で作るだの
   米のとぎ汁と色が同じだから牛乳の宅配はやめるだの
   意味の分からないことをわめいて頭からきな粉をかぶった
   そのうち女が餅のように膨らんで
   飛んで行った
   アメリカへ行った

「転居」峯沢典子。
 もう荷物は送ってしまって、部屋には形のないものばかりが残っているようなのだ。それはこの部屋で流れた時間であるのかもしれない。空ろな心持ちが、この部屋を通り過ぎた人も淡くしていくようだ。

   雨が過ぎ 少しあいた窓から
   蟬の声が聞こえた
   もう誰のものでもない部屋からは
   目を凝らしても
   姿は見えなかった

「あるくひとは、だんだん顔を失っていく」相沢正一郎。 
 いつも違う角をまがったり、いつもと違う駅でおりてみたりする。すると、あるくことはすべてのことを忘れていく行為であるかのようなのだ。日常と非日常は同じ顔をしているようで、巧みに騙されて、いつしか引き返せなくなるのかもしれない。

   ・・・・・・きゅうくつな靴をぬいであるいているうちに、
   家をわすれ、名前をわすれ、歌さえわすれて、とう
   とうあなたは草のうえに横たわる--足の裏に彫ら
   れた皺皺の顔を見せて。
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