瀬崎祐の本棚

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詩集「メモの重し」 武西良和 (2023/09) 土曜美術社出版販売

2023-09-29 17:36:24 | 詩集
105頁に43編を収める。

作品は春夏秋冬の4つの章に分けられていて、それぞれのその季節の農作業や山河の風物から材を得たものとなっている。たとえば、春になり動きが活発になってきた蟻たち、振り上げた鋤のの先にいたテントウムシ、スモモの接ぎ木作業、サツマイモのツルの切れ端を溝に埋める作業、などなど。そのような生活とともにある詩である。

詩集タイトルにもなっている「メモの重し」。知り合いの死を伝えてくれた電話の内容をメモ書きしたのだ。そのメモが飛んでしまわないように、昨日抜いた細いニンジンをその上に置いたのだ。それは硬い土地での収穫物だったので痩せていたのだ。

   それでも手頃で
   ある程度の大きさがあり
   メモの重しにはちょうど良く
   ポツンという擬音とともに
   そこに置く

食べものとしてみた時には貧相なニンジンなのだろうが、大事な言葉の重しとしてはちょうど良い意味を持つものだったのだろう。そういうことって確かにあるだろうなあ。

「時間のひも」。梨の栽培はかなり難しいときいたことがある。しっかりと果実を実らせるためには枝の剪定や誘引も必要とのこと。話者は塊になっているひもを引き出して梨の枝を誘引していく。で、大きな塊だったひもがなくなっていき、ひもは転がり続ける時間だと思うのだ。

   一息いれてからまた新しい
   塊を持ってきて
   この木の時間に継ぎ足してやろう
   接ぎ木するように

そうか、枝を伸ばし新しい芽をつけるということは、その木の時間がそれだけ伸びるということだったのだ。なるほど。これは私(瀬崎)にとっては新しい着眼点だった。

最後に4行詩「畑」を全行紹介しておく。なにも付け加える必要がない、好い詩である。
 
   蒔いた種子が
   芽生えぬ
   小石混じりに希望(ゆめ)が
   乾いていく

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