(前回からの続き)
前回書いたように、現時点(10月)の実質実効為替レートは1ドル71.46円です。これに対して名目上のレートは同122円前後。最近しばしば指摘しているところですが、両者の乖離は史上最大、つまり空前の超円安ドル高ということになります。
さらにいえば、同レートのドルが70円を下回るくらいにまで下がってきたのも同レートの記録がある範囲でははじめてのこと(最低は6月の67.8円・・・)。これは実体としてのドルの価値がここまで下がっていることの反映であり、1ドルの本当の価値はその程度くらいしかないことを意味しています。もちろんその主因は米FRBのQE(量的緩和策)によるドルの実質的な過剰散布でしょう。これによってドルの価値希薄化(インフレ)が急激に進んでいるということ。
こちらの記事を含めて何度も書いているように、アメリカ(FRB)は結局はこのQEに再度踏み切るしかないと見込んでいます。ということはこの先、上記ドル/円レートも下落方向に行く可能性が高いでしょう。そして名目レートのほうも―――いまでこそ「アベノミクス」(正確には日銀)が必死にドルを支えている感じですが―――実質レートに近いところに、つまり日米のファンダメンタルズやマーケットの実態を反映する水準に向かう、すなわち円高ドル安になっていくと予想されます。
で、上記状況においてドル/円がどれくらいになるのかをイメージするのは難しいですが、QE休止中のいまでさえ実質レートが70円を切るくらいだから、FRBがQEを再開したら1ドル60円とか同50円も十分にあり得ると考えています。そのとき日本のドル建てGDPは(円建て500兆円とすると)それぞれ8.3兆ドル、10兆ドルとなります。500兆円/1ドル50円で10兆ドル・・・日本の当面のドル建てGDP目標は10兆ドルあたり、と書いているのはこのへんを意識したからです。
1ドル50円の世界・・・。超円高と世間はいうでしょう。政府・日銀はこれ以上の円高を阻止するために為替介入をためらうな!なんて声も上がるかもしれません。ですが、わが国は・・・実質実効レートと大きな乖離がないのなら・・・為替に関しては基本的には何もする必要はない―――市場メカニズムに委ねたままでよいと考えます。これまたこちらの記事等で書いたように、すでにわが国は為替レートに大きく左右されない産業構造を築いているうえ、個人消費に代表される内需は原材料の値下がり(円高デフレ)の恩恵に浴するため、円高のマイナス面を差し引いてもトータルの日本のGDPは十分にプラス成長を成し遂げると推測しているためです。
レートについて付け加えるならば、ドル/円が極端なくらいに下がり過ぎることもないはずです。円高が進めば日本の投資家の多くはドル建て資産への投資を本格的に再開する(ドル買い円売りが起こる)でしょう。それに、どこかの時点で日本の経常収支の均衡点(これ以上円高ドル安に振れると、貿易黒字や所得収支の黒字の稼得が不可能となるレート)に達するだろうからです。
以上により、わが国は原則として為替レートにノータッチでよい、と考える次第です。ようするに「円安誘導」(日銀の「異次元緩和」)は無用、ということですね・・・