(前回からの続き)
日銀の黒田総裁が「順調」と評価した「2014年の夏」は、わが国の実体経済の側からすれば、コストプッシュ型の(悪い)インフレに苦しめられていたため、順調どころか国民とりわけ家計にとっては「悲惨」な時期だった・・・というのが、わたしの個人的な見立てです。これに対し、世界的な原油安と円高の後押しで輸入原材料の円建て価格が下落傾向にある「現在」のほうが、日本経済にとっては2014年当時などよりずっと望ましい環境といえそうです。このあたりを示唆するデータとして前回、今年上半期の貿易収支が2010年下半期以来5年半ぶりの黒字になった様子をご紹介しました。
これに加え、経常収支のほうも改善に向かっていることも確認されました。8日に財務省より発表された今年上半期の経常収支は10兆6256億円の黒字と、上半期としてはリーマンショック前の2007年以来、9年ぶりの高水準に達したとのこと。そのおもな要因は、貿易収支と同じく輸入額の大幅な減少(約31兆円;前年同期比17.2%減)。原粗油で同38.2%、LNGで同46.4%も減ったことが大きく効いています。これは上記のとおり逆オイルショックと、円建てエネルギー価格を引き下げてくれる円高のおかげです。まあ所得収支の黒字幅こそ減りました(9兆6129億円;前年同期比7.9%減)が、その減分を貿易黒字の増分で補填できているので、トータルの国際収支にとっては大した問題ではないでしょう。ということで、マクロ面から見たいまの日本経済は、明らかに2014年中よりも望ましい状況にあるわけです。
・・・ちなみに黒田日銀が「あのころはよかった」的に(?)回顧した2014年夏を含む同年上半期のわが国の経常収支は・・・たった(!)4153億円の黒字と、財務省HPに記録がある1996年以降の半期単位では過去最低の黒字幅にまで落ち込みました。その理由もまた当然ながら原油高&円安にともなう円建て輸入額の膨張で、こちらは同年以降の半期単位では過去最悪(約42兆円)をマークしています・・・
対GDP比率では世界最大級の財政赤字を抱える日本にとって、経常収支こそは絶対に黒字でなくてはならない!といっても過言ではないほどの重要指標と考えています。その観点からすれば、経常黒字は多ければ多いほど好ましいし、これを増やす政策はあっても、減らす政策など、常識的にはあり得ないはずです、財政・金融を少しでも知っている人にとっては。にもかかわらず・・・
・・・いかがでしょうか。ここにあげたわずかなデータだけでも、黒田日銀がバブルの側に立つあまり、どれほどこの国の実体経済をないがしろにしてきたか、が分かるように感じられるのですが・・・。もちろんいうまでもありませんが、2014年夏を上記のような「冷夏」にしたのは、ほかならぬ日銀の「異次元緩和」という名の円安誘導ですからね・・・