読書日和

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「幻想温泉郷」堀川アサコ

2017-03-11 23:57:26 | 小説


今回ご紹介するのは「幻想温泉郷」(著:堀川アサコ)です。

-----内容-----
探し物が得意なアズサは夏休みに帰郷し、元バイト先を訪れる。
この世とあの世をつなぐ登天郵便局では、死者が成仏せずに消える事件が頻発!
彼らは生前”罪を洗い流す温泉”を訪れていた。
懐かしい同僚たちから頼まれたアズサは温泉の在り処を探すが……。
大ヒット『幻想郵便局』の続編を文庫書下ろしで!

-----感想-----
幻想シリーズの第5作目であり、第1作目「幻想郵便局」の続編となります。
最初からこちらを読んでも十分楽しめる内容になっていました。

二年前に登天(とうてん)郵便局のアルバイトをした安倍アズサは故郷を離れて無事にお菓子の専門商社に就職し、夏になると新幹線に乗って故郷に戻り、登天郵便局の様子を見に行っています。
登天郵便局はこの世とあの世をつなぐ郵便局で、亡くなった人は登天郵便局の裏庭から、次の世へと旅立ちます。
冒頭、アズサが登天郵便局に行くとこの郵便局で働く四人、パンチパーマでおねえ言葉を使う青木さん、この山一帯の地主でかなり高齢のおじいさんである登天さん、ナマハゲのように目鼻立ちが濃く大柄で赤ら顔の赤井局長、ツキノワグマのように大柄で筋骨隆々な鬼塚さんが次々と登場しました。
登天さんは亡くなった人が郵便窓口に差し出した手紙をいつも局舎の前で焚火をして燃やしています。
手紙やはがきにつづられたお客さんの気持ちは煙になって空に上り、やがて明け方の夢になって宛先の人へと届き、これが「夢枕に立つ」と言われている現象とのことです。

亡くなって登天郵便局を訪れた人は功徳(くどく)通帳を差し出します。
功徳通帳を機械に入れると、その人が生きているうちにした善行と悪行が全て書き出され、極楽に行くか地獄に行くかが判断されます。
そしてその人は登天郵便局の裏庭にある「地獄極楽門」をくぐり、次の世へと旅立ち成仏します。
ところが最近登天郵便局では、功徳通帳に善行だけしか印字されずさらに地獄極楽門をくぐる前に消えてしまう人が頻発しています。
これは「成仏違反」で、天国にも地獄にも行かず、怨霊のようにこの世にも留まらず、姿だけが消えてしまった状態です。
鬼塚がその人達を消える前に捕まえて聞き出してみると、「罪を洗い流す温泉があり、その温泉につかれば犯した罪が全て帳消しになる」とのことでした。
生前に何かしら悪いことをしていて、死後の裁きから逃れるためにその温泉に行ったようです。
このまま成仏違反が頻発するようだと登天郵便局にもペナルティがあり、郵便局取り潰しの可能性があるというまずい状況になっています。
そこで丁度良いタイミングで登天郵便局に来たアズサが頼まれてその温泉を探すことになりました。

赤井局長、青木さん、アズサの三人で、青木さんとアズサの目の前で成仏違反をした其田隆俊(享年92歳)の家に行きます。
家では孫娘の其田千香が遺品整理をしていて、催眠術の使い手である赤井局長が千香にアズサを親友と思い込ませたことによって、アズサが親友として遺品整理を手伝いながら、其田隆俊が行った温泉がどこなのかを突き止めることになりました。
其田隆俊は大の温泉郷フリークで、色々な温泉に行っていました。
その中で、枯エ之(かれえの)温泉という都市伝説を持つ温泉の存在が浮かび上がってきました。
枯エ之温泉がある枯エ之村ではその昔大量殺人があり村人が死に絶えたという伝説があります。
枯エ之温泉は迷ヶ岳(まよいがたけ)の登山口にあり、其田隆俊もその登山口に行ったことがあり、写真が残っています。
ところが、枯エ之温泉に興味を持ったテレビの怪奇特番の人達はその場所を見つけることができませんでした。
また其田隆俊の息子で千香の父親の俊男の知り合いが、この春に枯エ之村にワラビを採りに出掛けたのですが、どうしても行きつかなかったとのことです。
その場所にたどり着ける人とたどり着けない人がいるのかもと思いました。

アズサは登天郵便局に行く時と、登天郵便局と同じく狗山(いぬやま)にある狗山神社に行く時と、立て続けに中年の男の人に遭遇します。
やせて顔が長く背が高く、アズサはその人のことを内心でゴボウさんと名付けていました。

赤井局長が登天郵便局に、ベガ・吉村という老齢の女性占い師を呼びます。
その占いでは枯エ之温泉が「罪を洗い流す温泉」と出ていました。

また、アズサが心の中でゴボウさんと名付けた男は狗山神社にお百度参りをしていました。
その熱心さに感心した狗山神社の祭神、狗山比売(いぬやまひめのみこと)が登天郵便局にやってきて、アズサにゴボウさんの願いが叶うのを手伝うように言ってきます。
ゴボウさんの名前は藤原省吾といい、お百度参りで願っていたのは何と「銀行強盗の成功」でした。
グルメライターをしていたゴボウさんは糖尿病を患いもはやその道では働けなくなり、さらに借金もかさみ妻にも出て行かれ、現状を打開するには銀行強盗をするしかないと思い至りました。
グルメライターとは違う分野で、糖尿病の治療をしつつ静かに働く道もあるのですが、いきなり犯罪路線に舵を切ってしまいました。
犯罪の手伝いはできないと嫌がるアズサですが、狗山比売に脅されて仕方なく手伝うことになりました。
狗山比売は見た目は世にも美しい少女なのですが「幻想郵便局」では大暴れした恐ろしい神です。

アズサとゴボウさんは首吊り自殺をしようとしている男性に遭遇して助けます。
男の名前は生田宙(そら)といい、婚約者が他の男と浮気をして妊娠までして婚約解消になり、そのショックから死のうとしていました。
助けた生田は元より死のうとしていた身だったため、銀行強盗時の逃走用のクルマの運転手を頼むことになりました。
三人は狗山神社で、狗山比売に行員の役をやってもらって銀行強盗の練習をします。
この時の練習の様子が面白かったです。
生田が「いっそ、神さまにも(銀行に)来てもらうとか」と言うと、狗山比売とアズサがそれぞれ次のように言っていました。
「それは良き……」
「駄目ですよ!銀行強盗をする神さまなんて、どこの世界に居るんですか!」
たしかにそんな神様は聞いたことがないです

やがて銀行強盗決行の日を迎えるのですが意外な結末が待っていました。
そしてこの銀行強盗がきっかけとなり、意外な形で枯エ之温泉の手がかりを得ることになります。
アズサが手がかりを登天郵便局に持っていくと、登天さんが「これは不審なエンティティのしわざでしょう。枯エ之温泉には何かが、居るのです」と言っていました。
エンティティは「物理的な実体をともなわない存在」のことで、幽霊や妖怪の類のことです。
アズサは今度は枯エ之温泉の場所を突き止めようとします。

アズサがスマートフォンで「枯エ之温泉」でネット検索をすると、『大学生、枯エ之温泉で失踪』という奇妙な動画が出てきました。
10年前に投稿されていて、動画には4人の若い男女が映っており、撮影者を入れると5人になります。
その動画に映っていた一人の女性の顔がどう見てもアズサなのです。
しかし10年前のアズサは小学校卒業か中学校入学かの年齢のはずです。
私はこれを見て、いずれアズサが枯エ之温泉に導かれ、そして二度と帰れなくなるような猟奇的な目に遭うのではという嫌な予感がしました。
また、枯エ之温泉については幻想シリーズで何度か登場している楠本観光グループの大奥さま、楠本タマエから新たな手がかりを得ます。

ゴボウさんは再婚前の昔の奥さんとよりを戻し仕事に就き、アズサは生田の協力のもと枯エ之温泉のことを調べていきます。
元々新聞記者をしている生田は枯エ之温泉の場所も突き止めて、ついに二人は枯エ之温泉に行くことになります。
動画の5人の名前も判明して、高村佳輝(たかむらよしき)、林崎舜(はやしざきしゅん)、林崎多香美、野々村美紅(みく)、三上怜央(れお)です。

枯エ之温泉に着き、アズサは「枯エ之温泉が、どうして罪を洗い流すのか」を考えます。
これが最大の謎です。
また、ベガ・吉村の占いにあった「枯エ之温泉の問題が出てきた理由は、不毛の地を取り仕切る者が、ことわりにはずれた恋をしたから。死者の恋です。邪恋です。相手の女性の身が危ない」という言葉が思い出されました。
もしかしてこの女性はアズサのことなのではと思いました。

罪にも「明らかに罪なもの」と「そうではないもの」があるのが興味深かったです。
本人が罪だと思っていても実際には罪ではないものもあり、その場合は罪ではないため枯エ之温泉に入っても元々持っていた罪の意識は消えないです。

アズサは「枯エ之温泉は良い温泉なのか悪い温泉なのか」、そして「枯エ之村は良い村なのか悪い村なのか」に思いを馳せます。
一見穏やかに見える枯エ之村ですが不穏な雰囲気が漂っていました。
そしてその矢先、事件が起きました。
そこからはさらに別の事件が起き、いよいよ不穏な展開になっていきました。
枯エ之村に来て最初の辺りで描写されていた「うす暗がりの中には、人が入れるほどの大きな丸い壺が、整然と並べてある」は、やはり……と思いました。

終盤は動画の5人の高村佳輝、林崎舜、林崎多香美、野々村美紅、三上怜央が大きく関わってきます。
ベガ・吉村の占いにあった「不毛の地を取り仕切る者」の正体も明らかになります。
またベガ・吉村は終盤で物凄い大活躍を見せていました。
どう見ても単なる占い師ではない超人的な立ち居振舞いに笑ってしまいました。
そして意外なその正体が明らかになりどうりで超人的だと納得しました。


今作も幻想シリーズの特徴のミステリー、ホラー、ファンタジーの三つの要素が合わさった独特な面白い作品になっていました。
そして笑える場面が結構ありこれが良かったです
またこのシリーズの続編が出たら読んでみたいと思います


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