読書日和

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「一瞬の風になれ 2 ヨウイ」佐藤多佳子

2014-05-28 23:59:59 | 小説
今回ご紹介するのは「一瞬の風になれ 2 ヨウイ」(著:佐藤多佳子)です。

-----内容-----
冬のオフシーズンを経て、高校2年生に進級した新二。
冬場のフォーム作りが実を結び、スピードは着実に伸びている。
天才肌の連も、合宿所から逃げ出した1年目と違い、徐々にたくましくなってきた。
新入部員も加わり、新たな布陣で、地区、県、南関東大会へと続く総体予選に挑むことになる。
新二や連の専門は、100mや200mのようなショートスプリント。
中でも、2人がやりがいを感じているのが4継(400mリレー)だ。
部長の守屋を中心に、南関東を目指してバトンワークの練習に取り組む新二たち。
部の新記録を打ち立てつつ予選に臨むのだが、そこで思わぬアクシデントが……。

-----感想-----
※第一部のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

第二部のスタート時はお正月明けの1月。
短距離は10月末から3月末までの5ヶ月間はまったく試合がなくて、鍛錬期と呼ばれるハードなトレーニング期間になります。
神谷新二や一ノ瀬連たち春野台高校陸上部の面々はオフシーズンを各自の課題に沿ったトレーニングをしながら過ごしています。

そして春が来て、もうすぐ高校二年生になる三月末。
横浜市内にある鷲谷高校と平塚市にある桜谷高校の三校での合同合宿がありました。
仙波一也に次ぐ鷲谷高校のNo.2、高梨正己とのやりとりは結構面白かったです(笑)
他校の生徒なのに、妙にフレンドリーに新二に話しかけてくるんですよね。

二年生になって、さっそく始まったインターハイ予選。
順調に地区予選を突破して迎えた県大会。
連の個人種目以外で春高が一番南関東に近い種目である400mリレーで決勝に残り、そこで6位以内に入れば南関東大会に行けるという大一番。
メンバーは1走が一年生の桃内、2走が連、3走が三年生で部長の守屋、4走が新二です。
この決勝の400mリレーの描写が凄く良かったです
第一部の時から通して、今までで一番良かったです
全速力で走って激戦を繰り広げているのがよく分かり、手に汗にぎる読み応えでした。
そして見事アンカーの新二が6位以内でゴールに飛び込んで、南関東大会への出場が決まり、歓喜に沸くリレーメンバー。
しかし、連の足に異変が…
サポートのメンバーに両側から抱えられ、片足を引きずってみんなのもとにやってくる連を見て、一気に凍りつく新二たち。
左太腿の裏側、ハムストリングスの肉離れです。
全治は約一ヶ月で、顧問の三輪先生は連の南関東大会出場を「無理」と決定を下しました。
ここで日頃はやる気やハングリーさをあまり見せない連が珍しく必死に食い下がります。
「無理に間に合わせたりしたら、怪我がもっとひどくなる。そんなことはさせられない」と言う三輪先生と、「個人の100mはいいからせめてリレーだけでも出たい」と言う連で意見が対立していました。

その後は迫り来る南関東大会に向けて怪我を回復させながら練習をしていく連ですが、異様な光景になっていました。
いつもは練習をやらなくて怒られていた連が、やりすぎるといって怒られているのです。
先生の目を盗んで本数を多く走ったり、ペースが速すぎたり。
連の南関東大会への執念は凄まじく、新二は以下のように心境を吐露していました。

今回の件は、正直、少し驚いている。連はあっさりした―あっさりしすぎの―性格だから、ここまで南関東の4継にこだわることが不思議な感じがする。医者や先生に逆らってまで我を通すような粘り強さやこだわりがあいつにあるなんて知らなかった。

やがてなぜ連が400mリレーにここまでの執念を見せたのかが分かりますが、最後は説得を受け入れ、出場を断念します。
どうしても出場すると言う連に三輪先生はかつてないほど大激怒して、ものすごい怒鳴り声に部員みんな集まってきてなかなか緊迫した場面でした
いつも勝手でマイペースな連でも、誰かのために走ろうとする時はこんなに熱くなるのかとも思いました。

エースの連を欠いての出場となった南関東大会の400mリレーは、残念ながら予選敗退。
三年生で部長の守屋が出る大きな大会はこれが最後で、陸上部にも代替わりの時が来ます。
守屋が指名した新部長は、なんと新二。

「おまえが先頭に立てば、みんなついてくるよ。一年以上ずっと見てきたが、神谷は、選手としても人間としても信頼できる。まじめでファイトがある。明るくてみんなに好かれる。後輩の面倒見がいい。人のことがよく見えていて、力になってやろうとする。そういうことが無理なく自然にやれてる。適任だ」

と新二のことを大絶賛していました。
思わぬ高評価に驚きつつも、守屋から部長を引き継ぐことに決めた新二。
この時守屋が天才スプリンターである一ノ瀬連について言っていたことが印象的でした。

「特に、部長になってからは、俺に何ができるんだろうって真剣に考えたね。ロング・スプリントでまだよかったけど、同じ短距離ブロックで、明らかに競技者として力が劣るわけだ。いくら俺が先輩でも、選手としては格が違う。こんな相手をどう扱うんだって」

連は後輩とはいえ、競技者としては明らかに守屋より格上で、やはりそこは常にハードボイルドで威風堂々な感じの守屋でも思うところがあったようです。
俺についてきてくれるのだろうか…と不安の気持ちがありました。

今作では新二の恋心についても描かれています。
同じ陸上部の同級生、谷口若菜に密かに想いを寄せる新二。
二人連れ立って新二の兄、神谷健一のサッカーの試合を見に静岡県の磐田に行った時はデートとも言えない単なる応援でしたが、初々しくて良いムードだったなと思います
ちなみに健一は高校を卒業して、ジュビロ磐田に入団してプロのサッカー選手になっています
まだサテライトと呼ばれる下部組織での試合ですが、やがてはトップチームで試合に出るのが目標です。

健一の試合を見て帰ってきてから、自分ももっと頑張りたいと思った新二。
顧問の三輪先生に頼んで、自分専用のハードな練習メニューを組んでくれと頼んだりしていました。
それをもとに、夏は日々の練習のほかに自主トレにも励んでいました。

努力したぶん、きっちり結果が出るわけじゃない。だけど、努力しなかったら、まったく結果は出ない。

新二の言っていたこの言葉は良いなと思いました。
やはり日々の努力が、良い結果につながっていくと思います。

そうして迎えた新人戦。
地区大会を突破し、三ツ沢競技場で行われる県大会に参戦です。
この県大会で新二は、100m個人準決勝で追い風参考とはいえ10秒91のタイムを叩き出します。
初めての10秒台です。
10秒台こそが連や仙波がいる世界で、ついに新二もその世界の入り口に立ったんだなと思いました。
決勝では不本意な走りになりましたがそれでも連、仙波、高梨以外には負けなくて、確かな成長を感じました。

第二部は新二にとってトップランナーへの過渡期といった印象を持ちました。
段々仙波や連との差が縮まってきています。
なので第二部は新二が力を付けてきて良い感じで終わるのかと思ったら、終わりませんでした。
予想外の展開が待っていました。
第二部の最終章のタイトルが「アスリートの命」で、嫌な予感はしていたんですよね。。。
新二の兄、健一に非常事態が発生します。
新二は取り乱した健一が放った言葉にショックを受けて、すごく沈んだ状態になって部長なのに部からも遠ざかってしまいます。
このまま重い雰囲気のまま終わってしまうのかなと思った最終盤、ようやく復活の時が来て、私は以下の場面が一番印象的でした。

谷口は、俺を見ても驚いた顔をしなかった。もう情報が行ってるんだろう。笑顔になった。自然な笑顔だった。信頼感にあふれていた。俺がそこにいることを少しも疑ったことのない、そんな落ちついた笑顔だった。

何が良いって、その場面がとてもリアルに思い浮かんでくるんです。
駆けつけた新二と、新二は来てくれるに違いないと信じて疑わなかった谷口若菜。
この場面を読んだ瞬間、泣きそうになりました

かくして、終盤に予想外の波乱のあった第二部。
それでも新二は必ずもう一度立ち直ってトップランナーへの道を進んでいくに違いないと思えるような、良い終わり方でした。
高校三年生、春野台高校陸上部最後の年になる第三部、どんな戦いを見せてくれるのか楽しみです


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ビオラ)
2014-06-02 23:47:02
部活を通じて、成長して行く姿が見えますね。
特に新二は、部長になって、色々な貴重な体験をして行くことになりましたね。

後半の新二の兄の健二さんに何が起こったんだろうって、すごく気になりましたが・・・、そこは「本を読んでください」って言われそうですね^0^

新二が心を立て直したところで、良い終わり方になって読者もスッキリして、次に進めますね^^¥
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ビオラさんへ (はまかぜ)
2014-06-03 12:13:59
新二の部長は驚きました。
ただ確かに性格的に部長に向いているだろうなと思います。
後輩の面倒見も良く、部を良い雰囲気にしてくれています(^_^)
健二さんの件については、本を読んでくださいということで(笑)
新二もてっきり順調に力を付けていくと思っていたので意外な展開になりました。
それでも第三部へとつながる良い感じの終わり方をしてくれて、最終学年でどんな戦いを見せてくれるのか楽しみになりました♪
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