読書日和

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「居酒屋ぼったくり4 」秋川滝美

2015-10-18 16:26:33 | 小説
今回ご紹介するのは「居酒屋ぼったくり4」(著:秋川滝美)です。

-----内容-----
東京下町にひっそりとある、居酒屋「ぼったくり」。
名に似合わずお得なその店には、旨い酒と美味しい料理、そして今時珍しい義理人情がある―
旨いものと人々のふれあいを描いた短編連作小説、待望の第4巻!

-----感想-----
※「居酒屋ぼったくり」のレビューはこちら
※「居酒屋ぼったくり2」のレビューはこちら
※「居酒屋ぼったくり3」のレビューはこちら

今作は次の六編で構成されています。

意地っ張りなサヨリ
柔らかく包み込むもの
移ろいゆくものたち
茶がゆの甘さ
心地よい香り
辿ってきた道

「意地っ張りなサヨリ」
季節は春。
前作で閉鎖が決まり近々取り壊されると言われていた鉄鋼会社の社宅は取り壊しが始まっていました。
美音が「スーパー呉竹」に向かう途中工事現場を見ていると、「ぼったくり」常連客のリョウが声をかけてきて、ここを買ったのが大手のチェーンストアで跡地にはショッピングセンターが建設される可能性が高いことを教えてくれました。
大きなスーパーが入れば美音たちの商店街も影響を免れず、商店街存続の危機というわけです。
ちなみに建設関係の仕事をしている要もこのショッピングセンター建設に関わっています。
「ぼったくり」店主の美音に好意を寄せている要の胸中は気になるところです。
商店街存続の危機で、今作は冒頭から波乱含みの雰囲気でした。

「ぼったくり」の常連、シンゾウにはモモコという娘がいます。
モモコは美音よりも10歳ほど年上ですが、小さい頃から美音を妹のように可愛がってくれました。
結婚して町を出て、忙しくて滅多に実家に来ることもないモモコが実家に来てしかもしばらく滞在することになりました。
モモコにはどうやら悩みがあり、その悩みを聞いてやってくれないかと美音はシンゾウに頼まれます。

モモコは夫とトラブルになって帰ってきました。
夫の一族は皆医者で一つの病院に勤務していて、夫とモモコもそこで薬剤師をしています。
ただし夫は医学部を目指したものの叶わずに薬学部に転進していて、医者である一族への劣等感が強いようです。
こんなことなら何浪してでも医学部に行くべきだったと薬剤師を後悔しているようなことを言う夫に、同じ薬剤師でもあるモモコは激怒。
そして喧嘩になってモモコは実家に帰ってきました。

一方、要は仕事でだいぶストレスが溜まっているようで、「ぼったくり」に来てそのことを美音に言っていました。
要によると、相手のやり方に憤懣やるかたなく悪口を言いたくなっているとのことで、相手が一体どんなことをしたのか気になるところでした。
要はお腹の中が真っ黒(腹黒)で自分も「サヨリ」みたいだと言っていました。
魚の「サヨリ」は本当にお腹の中が真っ黒らしく、これは知りませんでした。


「柔らかく包み込むもの」
話の冒頭で「スーパー呉竹」がなくなるという衝撃のニュースが入ってきます。
美音の妹、馨(かおる)が八百源店主のヒロシとシンゾウが話しているのを聞き付けたのでした。
「スーパー呉竹」は美音もよく買い出しに行っていて、「ぼったくり」への影響は免れません。
シンゾウは「スーパー呉竹」の経営者は新しいショッピングセンターに大手スーパーが入ることを知って、この町に見切りをつけたのではと言っていました。
馨は商店街のお店も同じように閉店になってしまうのではと心配します。
商店街に危機が迫ります。
そんな時、初めて見る客が「ぼったくり」にやってきます。
見た目は普通ですが不審な雰囲気を持つ20代後半~30歳くらいの男でした。
男はやけに商店街にある加藤精肉店のことを聞き出したがっていて、店内に居た常連のシンゾウとウメは男の正体は「聞き合わせ」ではないかと言っていました。
「聞き合わせ」とは結婚や就職にあたって、近所にその人の評判を聞きに行くことです。
加藤精肉店の店主、ヨシノリの長男ユキヒロが近々結婚するため、相手の親族がユキヒロの評判と店の評判を聞きに来ているのだろうとのことでした。

ユキヒロの彼女の名前はリカといい、大人しい子とのことです。
それで両親が忙しく立ち働く肉屋に嫁ぐことを心配し、リカの兄が聞き合わせに来たのでした。
そこまで探偵じみたことをする心境は分からなくはないです。


「移ろいゆくものたち」
この話ではショッピングセンターのオープンが延期になったとありました。
今作はどの話でもショッピングセンターの話題が出てきます。
オープンが延期とのことで、何が起きたのか気になるところでした。

人も町も着実に変わりつつあるのだ。恐れてばかりいても仕方がない。変化を受け入れ、自分にとっていいものにしていこう。この町の人たちと一緒ならきっとそれができる。

美音は胸中でこう言っていました。
大手流通グループによってショッピングセンターが建設され、町は転換点を迎えています。
そんな中、美音のこの考えはとても良いと思いました。
町が変わっていくことを受け止め、その変わっていく町を自分にとって暮らしやすいものにしていくのはとても前向きだと思います。


「茶がゆの甘さ」
「移ろいゆくものたち」の話の中でお店のオーブントースターが壊れてしまったため、美音は新しいものを買いに電器屋に出掛けます。
美音は駅から出ているバスに乗り遅れてしまうのですが、何と要も電器屋に行こうとして車で駅まで来ていて、美音も一緒に電器屋まで乗せていってもらうことになります。
偶然にしてはタイミングが良すぎて、要は美音が来るのを期待して待っていたのではと思いました。

その後、要の母親が具合が悪くなったらしく、慌てて家に戻ることになった要に美音も付いて行くことになります。
要が母親を連れて病院に行っている間留守番をしていた美音は台所に出ていたものから母親が「茶がゆ」を作ろうとしていたことに気付き、代わりに作ってあげます。
米の研ぎは旨味が失せてしまわないために少し濁りが残るくらいが良いとあり、これは知りませんでした。
また、茶がゆを作るのは西の人とあり、たしかに私は食べたことがないなと思いました。
和歌山、京都、奈良は有名な茶がゆどころとのことです。


「心地よい香り」
美音はタミというおばあさんがやっているクリーニング屋に行きます。
タミはこのシリーズで初登場でした。
後日、タミとウメがぼったくりに来ます。
タミは夏バテしてしまったようで、ウメはタミに体力の付くものを食べさせようと考えました。
タミが食べたがっているのは「ビーフステーキ」で、さすがの美音も「うわーここはステーキハウスじゃない!」と白旗を上げそうになっていました(笑)
しかし実際に作ってあげるのが美音の凄いところです。
バターの香りが立ち上るビーフステーキはかなり美味しそうで、読んでいて凄く食べたくなりました。


「辿ってきた道」
「魚辰(うおたつ)」の三代目店主ミチヤにはコウイチという高校三年生の息子がいます。
父と息子が進路を巡って対立。
「大学に行け」というミチヤに対し、「魚屋を継ぐのに、大学の勉強なんて必要ないだろ!」と猛反発します。
美音はコウイチの母のセイコにコウイチの相談に乗ってほしいと頼まれます。
コウイチが小さかった頃よく遊んでくれていた美音の話ならコウイチも聞くかも知れないとのことでした。
そしてそれはコウイチが大学に行くように話を持って行ってほしいという意味でもありました。

美音自身は、人づきあいを知るために父によって大学に送り込まれました。
居酒屋にやってくるたくさんの客を相手にするために、知識と人づきあいの術を身に付けてこいとのことでした。
これからは料理人も大学ぐらい出ておかないと通用しない。なぜなら、客の大半が大卒になってくるからだ。お前は、料理をするのに大学の勉強なんていらないと思っているだろう。だが、客が見てきた世界をまったく知らないというのは、接客の上ではハンデだ。
美音の父のこの言葉は印象的でした。
こんな考え方もあるのかと思いました。
たしかに同じ世界を知っていればお客さんの話もより親身に聞けると思います。

シリーズも第4巻になり、美音と要は果たして恋人になるのか、ショッピングセンターがオープンしたらどうなるのか、気になるところです。
第5巻を楽しみに待ちたいと思います。


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