読書日和

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「細雪(上)」谷崎潤一郎

2016-12-17 19:26:36 | 小説


今回ご紹介するのは「細雪(上)」(著:谷崎潤一郎)です。

-----内容-----
あたしかて見合いするのんは嫌やないねん。
幸子夫婦の気がかりは、美しい亡母の面影を残しながら、いまだ良縁に恵まれぬ三女雪子と、幼なじみとの色恋沙汰で新聞を賑わせた、奔放な四女妙子の行く末だった。
船場の旧家・蒔岡家の四姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子。
昭和初期の喧噪をよそに流れる関西上流社会の日々――。

-----感想-----
昨年読んだ三浦しをんさんの「あの家に暮らす四人の女」、そして今年読んだ綿矢りささんの「手のひらの京」で、それぞれ本の帯の紹介文に現代版「細雪」、綿矢版「細雪」とあり、どちらも「細雪」(著:谷崎潤一郎)の名前が出てきたことで興味を持ちました。
それだけ女性姉妹や女性四人組を主人公にした作品を紹介する際にその方面の代表作として名前が出てくるような作品なら読んでみようかなと思い、今回読んでみました。

幸子と妙子が雪子のお見合いを相談するところから物語が始まります。
相手は瀬越という41歳の男です。
蒔岡家は四姉妹の父が健在だった時代には大阪の船場で商売をやっていて、全盛時代は大いに栄えたものの現在は衰退しているとのことです。
鶴子と結婚し養子になった辰雄は銀行員をしていて、父から家督を譲り受けた後はお店の経営は継がず、四姉妹や親戚の反対を押し切って蒔岡の店を売却しました。
これが三女の雪子の感情をかなり害したようで、辰雄と雪子はぎくしゃくとした間柄になっています。
また、雪子は内気で大人しい性格なのですが意外と頑固なところがあり、お見合いで既に話が進んでいて今さら破談にはしずらい局面でも一度「嫌だ」という意思を固めると、周りが「こんな良い縁はないのだから」と言っても意思を曲げはしないようです。

蒔岡家には本家と分家があり、本家は辰雄と鶴子の夫婦、分家は辰雄と同じく養子に来た貞之助(ていのすけ)と幸子の夫婦です。
まだ結婚していない雪子と妙子は本家と分家の間を行き来しながら暮らしていたのですが、辰雄が蒔岡の店を売却したのがきっかけで本家を敬遠するようになり、序盤からほぼ分家のほうに身を寄せていました。
特に雪子は辰雄とぎくしゃくしていて、本家には近づきたくないようです。
この時代は良家の女性が社会に出て働くことに難色を示される傾向が強くあり、家族の長に養われるのが当然のようでした。

四姉妹の四女妙子は25、6歳で、幸子などからは「こいさん」と呼ばれています。
最初なぜ「たえこ」なのに「こいさん」という愛称なのか気になりましたが、読み進めていくと「こいさん」は「小娘(こいと)さん」のことで、大阪の家庭では末の娘をそう呼んでいるとありました。
妙子は人形作りの芸術才能があり、夙川(しゅくがわ)にアパートを借りて純日本人形やフランス人形など色々な人形を作っています。
これも本家の辰雄が「妙子が職業婦人めいて来ることには不賛成」とあり、当時の時代背景がよく表れていました。
良家の女性が職業を持つのは貧乏なためにやむを得ずする恥ずかしいことと考えられていたとのことです。

この作品は一つ一つの文章が結構長くなっているのが印象的でした。
読点(、)を付けて文章を区切りながらもその文章は続き、何行も続いてから句点(。)が付くことが多かったです。
ただし読みずらくはなく、独特な書き方をする作家さんだなと思いました。

序盤から雪子の結婚が大問題になっていました。
妙子には結婚を考えている人がいるのですが、雪子より先に末娘の妙子が結婚するのはこの時代ではまずいと考えられていて、まずは何とかして雪子に良い縁をと、幸子と貞之助の夫婦が奔走していました。

雪子は幸子の子の悦子という7歳の子に慕われています。
感情を表に出さず心の中でどう思っているのかがなかなか分からない雪子ですが、子供に慕われているのはその心根に優しさがあるからだと思いました。
幸子は蒔岡全盛時代に育ったためどこか子供っぽいところがあり、堪え性がなく二人の妹にたしなめられることがあるとありました。
また貞之助は雪子の見合いの段取りがなかなか進まない時に「鶴子も幸子も世間知らずで悠長に考えるところがある」と語っていました。
ちなみに幸子は派手で華やかな顔立ちで、雪子は昔の箱入り娘という楚々とした顔立ちとのことです。
谷崎潤一郎さんは心理描写が上手く、周りから派手な顔立ちと言われて内心喜ぶ幸子と、その幸子を妻に持つことを喜ぶ貞之助の様子が、重厚な文章でありながら微笑ましく描かれていました。

雪子は凄く華奢で、病弱に見られることがあります。
昔のお見合いは病弱に見えれば病院で健康診断を受けさせたりしていたらしく、瀬越とのお見合いが進んでいく中で雪子も病院に行く場面がありました。
レントゲン写真まで撮っていて、この辺りはやはり現代とは違うなと思います。

お正月が近づいた年末のある日、幸子の口三味線に合わせて妙子が舞をする場面がありました。
その場面が舞の様子が鮮明に思い浮かぶような描写で印象に残りました。
昔の良家の娘さんは舞を習っていれば自然に家で舞うことがあるのかと思いました。

次の年の春になると幸子、貞之助、悦子、雪子、妙子の五人で京都にお花見に行きます。
幸子が特に京都の桜が好きなようです。
京都に行くと何箇所も桜を見て回るのですが、その中で「平安神宮の神苑の桜は京都で一番美しい」とあり、これは一度見てみたいなと思いました。

なかなか直接登場しなかった本家の鶴子がこの段階になり幸子との電話という形で登場し、37歳とありました。
電話では銀行に勤める辰雄が東京の丸の内支店長に栄転することになり、近々本家は上本町の家を引き払い、一家を挙げて東京に移住することになったとのことでした。
鶴子は父が最後を迎えた場所でもあるその家を引き払わなければならないことに感傷的になっていました。

やがて父の妹(叔母)が幸子のもとを訪ねてきて、雪子と妙子も本家に付き従い東京に行くべきだと言っていました。
叔母は辰雄について、「名古屋の旧家に生れた人で、考え方が非常に律儀なので、今度のような場合に二人が本家へ附いて来ないで大阪に居残ると云うのは、世間体が悪く、むずかしく云えば兄としての体面に関すると思っているらしい」と言っていました。
二人が本家に付いてきてくれずに分家に残るのでは世間体が悪いということで、なかなか難儀なことだと思いました。

既に物語の最初からは一年以上経っていて、月日が流れていきました。
雪子がいなくなったストレスで悦子が体調を崩したりもしていました。

この作品では雪子のお見合いが物語の大きな柱になっていて、東京に行ってもまたお見合いで大阪に戻ってきます。
雪子はかなり若く見えるようで、実際には31、2歳のようなのですが、24、5歳に見えるとありました。
雪子と妙子がスズランというお店で西洋菓子を買っている時、雪子のお見合い相手の人も偶然そのお店に居てバッタリ遭遇する場面がありました。
この時、お見合い相手の人が妙子がいるのに何の断りも入れず「如何です、お差支えなかったらあちらでお茶でも差上げたいと存じますが」とお茶に誘おうとしていたのには違和感を持ちました。
マナーとして一緒にいる人にもまず挨拶をしてからにすべきだと思います。
たぶん雪子はこういうところをよく見る人だと思います。

文章は古風ながらも心理描写が丁寧で上手く、引き付けられる面白さがありました。
「細雪(上)」では雪子の結婚は決まりませんでしたが、これが「細雪(中)」ではどうなるのか気になるところです。
そして四姉妹それぞれがどんな日々を送っていくのか、続きを読むのが楽しみです

※「細雪(中)」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「細雪(下)」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。


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2 コメント

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Unknown (ビオラ)
2016-12-25 01:17:39
関西上流社会の日々・・・と言う事で、気になるスポットがいくつか登場しました。
大阪の船場→日本有数の問屋街で、私も何度か行った事あります。
夙川→芦屋~夙川は、高級住宅街と言うイメージ。
フランス人形→大阪時代の紅茶の先生のお母様が、ビスクドール作家でした。
平安神宮→お正月によく行きました。勿論桜の時期にも。パワースポットですね~。

色々思い出しました~

昭和初期・・・、先日その頃の話を父から聞いて興味深かったです。裕福なお家も、商売が上手く軌道に乗っているお家も、やがて戦争により、色々状況が変わって行ったと言う話を聞きました。
この物語は、上中下ですかね。
大変な時代に書かれていたのでしょうか。
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ビオラさんへ (はまかぜ)
2016-12-26 12:46:44
ビオラさんは作中に登場するものや場所と結構縁があるのですね
船場は名前だけ聞いたことがあり、日本有数の問屋街ならかなり賑やかなのだろうなと思います。

さらにちょうど昭和初期の話を聞いていたとは凄い偶然ですね。
物語は上中下で構成されています。
細雪は戦争終結後に出版されました。
戦中は当局の監視もあり作家活動をするのは大変だったようです。
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