読書日和

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「細雪(中)」谷崎潤一郎

2016-12-24 17:55:15 | 小説


今回ご紹介するのは「細雪(中)」(著:谷崎潤一郎)です。

-----内容-----
今年のうちに何とか極まらんと、来年は厄やさかいにな。
良縁への期待も込め、雪子は東京に転居した本家にひととき移るが、内気な娘(とう)さんに気忙しい都会はなじまない。

神戸の大水害で一命をとりとめた妙子は、救命時の思わぬ顚末があきらかになり、幸子夫婦は新たな悩みの種を抱える。
それでも花見や舞の会を重ね、日々は流れていく。

-----感想-----
※「細雪(上)」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

冒頭、妙子が将来的に結婚を考えている奥畑啓三郎に悪い噂があることが明らかになり、幸子と貞之助は結婚に反対する気持ちになっています。
その奥畑が分家を訪問してきて幸子が応対するのですが、幸子は奥畑を見ながら「気のせいか、顔つきや物の云い方にも何処となく真率を欠いたところがある」と心の中で語っていました。
私も奥畑のような調子のいい図々しい話し方をする人に良い印象は持たないです。

冒頭からしばらくは妙子の話が進んでいきます。
人形を作りながら洋裁の学校にも通い、舞も続け、かなり活動しています。
さらにはだらしない奥畑に頼らず、むしろ自分が奥畑を養っていけるだけの職業を持てるよう、洋裁の腕を高めるために洋行(西洋に行くこと)したいと考えています。
結婚を考えている相手のためなら、この時代の主流である「良家の女が職業婦人になるのは恥ずかしいこと」という風潮と対決することも辞さない覚悟、さらには奥畑の駄目さを十分分かった上でそれでも大目に見てあげようという気持ち、これらが凄いなと思いました。

7月5日、大水害が起こり、最も被害の激しい地域にある洋裁学院に出かけていた妙子が安否不明になります。
その際、板倉という写真屋に助けられ何とか死なずに済みました。

雪子が二ヶ月半ぶりに東京から戻ってきます。
雪子は東京の環境には馴染めないと感じていて、渋谷の本家から大阪の蘆屋(あしや)にある分家に少しの間でも戻れるのを常に心待ちにしています。
その少し後、妙子が舞を指導してもらっている山村のおさく師匠の容体が悪くなり、亡くなってしまいます。
また、支那事変(現在で言う日中戦争のこと)の影響で隣家のシュトルツ家の主人が行っている商売が上手くいかなくなり、シュトルツ家がドイツに帰ることになります。
9歳になる悦子とローゼマリー、ペータア、フリッツの遊ぶ様子、特に悦子とローゼマリーのほのぼのとして楽しい掛け合いがもう見られなくなるのは寂しいと思いました。
妙子の災難、おさく師匠の死、シュトルツ家のドイツへの帰国と矢継ぎ早に事件を経て、日々は進んでいきます。

横浜港から出るエムプレス・オブ・カナダという客船に乗って日本を発つシュトルツ家を見送るため、雪子と悦子は横浜港に行きます。
その数日後、幸子も久しぶりに本家に会うために上京して雪子たちと合流します。
幸子は東京について、「空気がカサカサひからびていて住みよい土地とは思えない」と胸中で語っていました。
さらに「道行く人の顔つきも冷たく白っちゃけているように見える」と感じていて、東京への心境が3ページに渡って凄く丁寧に描写されていました。
心境を丁寧に描写するのがこの作品の特徴だと思います。

鶴子は今年38歳になり、今まで年齢の分からなかった幸子はどうやら36歳くらいになるようです。
東京に来た幸子は鶴子とも久しぶりにじっくり話す機会がありました。
鶴子は今まで電話や手紙で登場するだけだったので、人物がはっきりと登場したのはこの時が始めてだったと思います。
四姉妹の中で一番昔気質で、さらに一番おっとりしているとのことです。

そんなある日、幸子が渋谷の本家に何日か泊まった後に宿にしている浜屋という旅館に、奥畑から幸子宛の手紙が来ます。
その手紙は写真屋の板倉と妙子が恋仲なのではという手紙で、奥畑は二人が付き合っているのではと疑っていました。
ただし大水害で板倉が助けに来た際の妙子の心境から、「その大水害のさらに前から既に二人は付き合っている」という奥畑の疑念とは食い違っていることが読んでいて分かりました。
手紙の内容に驚いた幸子は悦子を連れて大急ぎで蘆屋に帰ります。
次々と事件が起き、今作はなかなか慌ただしいです。
ちなみに板倉と妙子が付き合っているのではという疑念に怒り心頭の奥畑ですが、自分自身はあちこちで女遊びばかりしています。
つまり奥畑は自分が浮気をするのは良いが妙子が他の男と付き合うのは嫌と考えていて、身勝手な人だなと思いました。

物語の中盤でヨーロッパに戦争が迫りつつあることが書かれていました。
これは第二次世界大戦のことで、昭和初期が舞台なので物語の所々に戦争のことが出てきます。
「時局柄」「時局への遠慮」といった言葉がたまに登場して、戦争で緊張状態にある社会情勢に遠慮し、舞の会などの華やかな催し事が徐々に縮小していっていました。

妙子はこの年で28歳になります。
職業婦人になることにも洋行することにも本家が反対の意思を明確にし、さらには亡き父が「将来妙子のために使ってくれ」と本家に預からせたお金を渡すことにも難色を示したことに対し、妙子は激怒します。
またこの頃、妙子の行儀の悪さが目に余るようになっていて、幸子は心の中で大分不快に思っていました。
幸子の板倉を見る目の鋭さには驚かされました。
奥畑と妙子のことも、板倉と妙子のことも幸子の予想が当たっていて、鋭い人だと思います。

妙子の奔放すぎて身勝手な行動に対し、幸子は怒り心頭になります。
「あたしも今度と云う今度は、あんじょうこいさんに裏切られた云う気イして、考えると腹が立つねんわ」
「いつかの新聞の事件から始めて、どれぐらいあたし等は迷惑してるか」
幸子がこれだけ不快感を露にしているのは初めて見て、妙子の身勝手さがかなり問題視されるようになってきました。

やがて妙子が東京の本家に話をしに行くと言います。
婦人洋服店を出したい(職業婦人になりたい)という思いと亡き父から本家が預かっているお金のことを話すとのことで、どちらも本家は難色を示しているためどんな展開になるのか気になりました。
「細雪(上)」では雪子のお見合いが話の中心にあったのに対し、「細雪(中)」は妙子の身の回りのことが話の中心になっていました。

また今作ではある人物が耳の手術の失敗により亡くなってしまいます。
しかも院長は手術の失敗が気まずく患者が苦しみ出してからは極力患者の前に姿を現さないように逃げ回っていて、これは現代ではあり得ない酷い対応です。
現代なら医療ミスによる裁判になると思いました。

「細雪」の丁寧な心理描写には読んでいて引き込まれる面白さがあります。
時には何ページかにも及ぶ心理描写の中で、最初に考えていたこととは逆のことを途中から考え出したりもしていて、その考えの揺れぶりが人間らしくて良いと思いました。
未だ良縁に恵まれない雪子と奔放すぎて何かと問題を起こす妙子がどうなっていくのか、「細雪(下)」を読むのが楽しみです。

※「細雪(下)」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。


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