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「バッテリーⅣ」あさのあつこ

2016-10-10 16:46:55 | 小説


今回ご紹介するのは「バッテリーⅣ」(著:あさのあつこ)です。

-----内容-----
「戸村の声がかすれて、低くなる。『永倉、おまえ、やめるか?』身体が震えた。ずっと考えていたことだった……」
強豪校・横手との練習試合で敗れた巧。
キャッチャーとして球を捕り切れなかった豪は、部活でも巧を避け続ける。
同じ頃、中途半端に終わった試合の再開申し入れのため、横手の門脇と瑞垣が新田に現れるが!?
3歳の巧を描いた文庫だけの書き下ろし短編「空を仰いで」収録。

-----感想-----
※「バッテリー」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「バッテリーⅡ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「バッテリーⅢ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

物語の始まりは10月の最後の日。
横手二中との試合は既に終わっていました。
横手二中との練習試合から1ヶ月以上経っているとあり、原田巧の断片的な回想から、どうやら試合に敗れたことが分かりました。
さらに巧と永倉豪は横手との練習試合の日から1ヶ月以上、ほとんど口をきかなくなっていて、また二人ともレギュラーから外されていて、これらに驚かされました。
二人に何があったのか気になりました。

横手との練習試合は巧の初めての挫折になっていました。
「あのマウンドを思い出す度に怖い。自分の球に自分の力が乗らない。力のない球は、当たり前のように打ち返され、内野の間を抜けてセンターに、ライトに、あるいはショートのグラブの先を掠めて転がった。マウンドに立ちながら、何をどうすればいいのかわからない。際限なく惑う。悪寒を覚えた。それほどに怖かった。マウンドで自分の力を見失うことも、怖いと感じたことも、生まれて初めてのことだった。」
巧が打ち込まれる展開になったのも、常に傲岸不遜で自信の塊である巧がマウンドで怖くなったのもかなり驚きです。

やがて横手二中との試合がどんなものだったのかが明らかになっていきます。
横手二中の選手でよく出てくるのは中学野球界で最強のバッターである四番の門脇秀吾と、その幼馴染にして五番の瑞垣俊二。
バッターとしての実力は門脇のほうが遥かに上ですが、瑞垣は非常に癖のある人間で性格がねじ曲がっていて、巧のことを終始「姫さん」と呼んだり、飄々としながらからかい口調で相手をイラつかせることを色々言ってきます。
バッターボックスに立った時にはキャッチャーの豪に揺さぶりをかけてきました。
瑞垣は「おまえじゃ、姫さんのキャッチャーは務まらん」と言っていました。
瑞垣の揺さぶりからバッテリーのリズムが崩れ、打ち込まれる展開になってしまいました。

豪は「巧と野球をやりたいから」と辞めた塾にまた通うようになっていました。
そして豪は巧のキャッチャーをやることを怖がっています。
瑞垣の揺さぶりがきっかけとなり、自分ではこの先巧の全力の球を捕れなくなるのではと考えていました。
「バッテリーⅢ」では豪では自分の全力の球を捕れないのではと思い手加減して投げた巧に激怒していた豪がこんなに弱気になるとは意外でした。
人間なのでちょっとしたきっかけで今までのリズムが崩れてしまうことはあります。

豪が巧を避ける中、吉貞伸弘、沢口文人、東谷啓太の三人が巧の家にやってきます。
吉貞がキャプテンの野々村と監督の戸村(通称オトムライ)から巧のキャッチャーをやるように言われたことを伝えます。
本来のキャッチャーである豪が巧のキャッチャーを拒否する以上、他の人間をキャッチャーにしないとチームが機能しないということですが、お調子者でありなおかつ自信家の吉貞以外の皆これには戸惑っていました。

東谷と沢口は新田スターズ時代からの豪の友達なのですが、豪以外の人間が巧のキャッチャーをやるのは嫌だと言う沢口に対し、東谷が言ったことは印象的でした。
「友達とかそんなの関係ない。たかが、野球じゃねえか。やめたからって、殺されるってもんじゃねえだろう。豪がやりたくないって言うたら、それでええ。みんな、それぞれ好きなことをしたらええんじゃ。おれら、別に野球をしとるから友達ってわけじゃねえだろう」
これはそのとおりだなと思います。
野球を辞めたからといって、豪が巧のキャッチャーを辞めたからといって、それで人生の何もかもが終わってしまうわけではありません。
そして東谷は豪が巧のキャッチャーを辞めたとしても野球を辞めたとしても友達であることに変わりはないと言っていてそこが良いと思いました。

東谷が巧に苦言を呈した場面も印象的でした。
「だいたい、原田はわがままなんじゃ。何もしゃべらんといて、わかれっていうのが無理なんじゃぞ。黙ってても気持ちは通じるなんて、全然だめ。はずれ。失格。流行らない。ダサい。迷惑」
後半は言いたい放題言っていますが、前半の「何もしゃべらんといて、わかれっていうのが無理なんじゃぞ」は的を射た意見だと思います。
思いは心の中で思っているだけではなく、声に出さなければ相手には伝わりません。
東谷のこの言葉で、巧はこの1ヶ月豪とろくに口をきいていないことを強く意識します。

ふいに思った。豪といて、豪にボールを投げることが、楽しかった。力一杯投げ込んだ球を力一杯受け止めてくれる。そういう人間に出会って初めて、投げることが楽しいのだと知った。
常に傲岸不遜で他人のことなど考えない巧がこれだけ豪という他人とのことに思いを馳せるのは珍しいです。
巧の他人のことを全然考えない性格が変わっていくきっかけになりそうな気がしました。

東谷と沢口が、豪を巧が待つ公園に連れて行こうとした時に東谷が次のように言っていました。
「原田って、ほんと、なんにもできんよな。おまえを呼びにくることもできんのじゃから、情けねえ。将来、苦労するぞ、豪」
また、原田とともに公園で三人を待つ吉貞が次のように言っていました。
「原田って、ほんま、なーんにもできんよな」
同じ言葉が短い間に二回も出てきたのが印象的です。

巧には野球以外のことは何もできないです。
そんな巧を助けてくれる東谷や沢口、吉貞の存在がどれほどありがたいものなのか、理解できる人になってほしいと思いました。
豪とのバッテリーがどうなっていくのか、5巻を読むのが楽しみです。


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