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「プロカウンセラーの共感の技術」杉原保史

2016-10-09 21:03:17 | 心理学・実用書


今回ご紹介するのは「プロカウンセラーの共感の技術」(著:杉原保史)です。

-----内容&感想-----
以前読んだ「プロカウンセラーの聞く技術」(著:東山紘久)「プロカウンセラーのコミュニケーション術」(著:東山紘久)からの流れで本作を読んでみました。
杉原保史氏は学生時代から東山紘久氏に指導してもらっていたとのことで、本作は前二作の著者の教え子が書いた本となります。
教え子のほうも臨床心理士であり心の専門家です。
人に「共感」するという、言葉だけだと簡単そうですが実際には非常に奥が深いことについて様々な例を挙げながら書いていました。

P3「感受性には、相手の気持ちを感じる感受性と、自分の心を感じる感受性とがあります。前者が強いとストレスになることがあり、後者が目立つと勝手解釈になってしまいます。」
本書の「序」として京都大学名誉教授・東山紘久氏が寄せた言葉の中にこれが書かれていました。
私の場合は相手の気持ちを感じる感受性が強いため指摘のようにストレスになることがあります。
また勝手な解釈で突っ走る人を見たこともあり、なるほどそれは自分の心を感じる感受性が強いのかと思いました。
「両者のバランスがよいと、共感性が相手にも自分にも心地よいものになります」とも書いてありました。

P19「究極的には、私たちは一人ひとり別々の存在であり、決して誰にも分かることなどできない独自の存在です。私たちはみな一人なのです」
これはそのとおりだと思います。
その人のことはその人にしか分からないですし、他の人がその人のことを完全に理解するのは無理です。
これを受け止めた上で、理解したい人がいるのであれば、完全には理解できないその人をできる範囲で理解しようと努めるのが大事だと思います。

P28「男性、とりわけ働く世代の男性は、一般に、女性と比べて、心理相談やメンタルヘルスの相談に自発的に現れることが少ないということが知られています。
このことは、男性は人に気持ちを打ち明けない傾向が強いということであり、共感と馴染みが薄いことを示しています。」
これはたしかにそう思います。
分かりやすい例がカフェなどでの女性グループのおしゃべりで、カフェに行くと大抵いくつもの女性グループがおしゃべりを繰り広げています。
会話の内容が聞こえてくることもあり、家庭のことや仕事のことなどで結構深いことを話していることがよくあります。
聞き手の女性もかなり親身になって聞いていて、この本の題名にもなっている「共感」が素の状態でできている人が多いです。
男性グループがそんな話をしていることもありますが、頻度は圧倒的に女性グループのほうが多いです。
日常のカフェレベルで見ても女性のほうが圧倒的に深い会話をよくしているのですから、「男性は一般に女性と比べて、心理相談やメンタルヘルスの相談に自発的に現れることが少ない」というのも納得です。
そして「統計によれば、男性の自殺率は女性のおよそ二倍です。男性がもっと共感と親しむようになれば、男性もより自発的に相談するようになり、自殺率も下がることでしょう」とも書いてありました。
人に相談すること、おしゃべりをすることはストレスの解消にもなります。

P29「企業が学生に求める能力として一番に挙げているのは、たいてい「コミュニケーション能力」なのだそうです。他者とのコミュニケーション能力は、それほど重視されているのです。
だとすれば、ビジネスの世界においても”共感”はもっと重視されてよいはずです。共感はコミュニケーションの最も重要な要素だからです。共感を軽んじながら、しかしコミュニケーション能力は重視する、などということは考えにくいのです。もしそんなことがあるとすれば、それは、相手の気持ちを感じることなく言葉巧みに言いくるめたりごまかしたりする能力を重視しているのだと受け取られても仕方ありません。そんな能力では本当に信頼感のあるビジネスは進めていけないでしょう。
これは凄くそのとおりだと思います。
私は実際に、「共感を軽んじ、相手の気持ちを感じることなく言葉巧みに言いくるめたりごまかしたりし、しかもそれをコミュニケーション能力だとする」という話し方をする人を見たことがあります。
言っていることが物凄く薄っぺらく見え、嫌悪感を持ちました。
ほんと「共感を軽んじながら、しかしコミュニケーション能力は重視する」というのは本来成り立たないことだと思いますし、それはコミュニケーション能力ではなく、「一方通行の独りよがり論法」だと思います。
たしかにそんな能力では相手から信頼しては貰えないと思います。

P30「ビジネスの世界において共感が伴わないコミュニケーションが横行していることこそ、職場でのうつが増加している大きな要因だと私は思います。」
これも核心を突いた意見だなと思いました。
相手の感情を無視し、「その人がコミュニケーションと言い張る一方通行の独りよがり論法」をぶつけていれば、相手はうんざりし不信感を抱くか精神的にまいってしまう展開になると思います。

P31「情報の内容よりも、情報を発している人、あるいはシステムに対する信頼感が問題なのです。その人が、こちらの不安や心細さをしっかり見てくれており、共感してくれているということが分かるなら、人は相当な困難に立ち向かえるものです。」
同じ情報でも、聞き手の心情を考え、親身になって発信する人と、聞き手の心情は一切考えず事務的に淡々と発信する人では、聞き手が抱く印象はだいぶ違ってきます。
聞き手がどう思うかを考えず自分が発信したい情報の発信だけを淡々と行う人に対し、「この人を信頼しよう」という気にはならないと思います。

P43「「それは考えすぎだよ」と言いたくなる気持ちを感じても、その気持ちを感じたままにしておきます。放っておくのです。ただ放っておいて、相手の気持ちを受け取ることに注意を戻します。」
せっかく話し手が心配ごとを話し始めたのに聴き手が「それは考えすぎだよ」とその話を遮ってしまった場合を例にこれが書かれていました。
「話し手の側に立ってみれば、言いたいことを切り出したけれどもすぐに説得されて、まったく聴いてもらえなかった、ということになるでしょう。」ともありました。
私の場合は元々人の話を聞くのが好きなこともあり、比較的「「それは考えすぎだよ」と言いたくなる気持ちを感じても、その気持ちを感じたままにしておきます。放っておくのです。ただ放っておいて、相手の気持ちを受け取ることに注意を戻します。」ができているような気がします。
相手が話し始めてすぐに相手の話を遮るということはあまりないです。

P46「たとえ相手が「みんな私のことを嫌ってるんです」と暗く嘆いているとしても、「そんなことないよ」とか「思い違いだよ」とか「それはあなたが壁を作ってみんなを寄せ付けないせいじゃないの」とか、即座にあなたの意見を述べて相手を説得しようとしないことです。差しあたり、あなたの意見は脇に置いておいて、「どういうこと?詳しく話してみて」と促してみるのです。」
P43と同じで、すぐに自分の意見をぶつけようとしないでという意味で書かれています。
これは意外と難しく、相手が何か話し始めると反射的に「それは考えすぎ」「それは違う」などと相手の言葉を遮って自分の意見を言ってしまう場合が結構あると思います。
相手が悩みを話し始めた時は自分の意見を言うのは一番最後に回し、まずは相手の気持ちを受け取る意識を持つのが大事です。

P60「「受容」とは、ありのままを認めること。相手のありようをありのままに受け容れることです。」
これは「ありのままでいい」と現状肯定の価値判断をするのではなく、ただ「現状はこうなのだ」と力まず穏やかに認識するという意味とのことです。
例えば「もう学校に行きたくない」と登校拒否の気配を見せる子がいたとして、「それでいい」や「それは駄目だ」などと価値判断するのではなく、「そうか、この子は学校に行きたくないのだな」と現状を穏やかに認識することを「受容」と言うようです。

P65「共感は受容とセットで論じられることが多いですが、変化促進のパートナーでもあります。共感こそ、変化を促進する最大の力なのです。そもそも、共感できないような相手に、うまく変化を生み出せるものでしょうか?その可能性は低いでしょう。”共感してもらえた”という体験が、それ自体で変化をもたらすこともあります。それだけ共感には変化促進力があるのです。」
これは共感から変化促進につながるということです。
相手への共感なしに「その考えは間違っている。変化しなさい」などと言ってもあまり意味はないということだとも思います。

P68「「受容」「共感」「変化促進」、この三つは、相互に手を取り合ってらせん状に深まっていくものです。通常、受容と共感があって、変化の促進が可能になります。場合によっては、受容と共感があると、自然に変化が生じてくることもあります。」
受容と共感と変化促進は密接につながっているようです。
「受容と共感があって、変化の促進が可能になります。」が印象的で、P29の「共感を軽んじながら、しかしコミュニケーション能力は重視する、などということは考えにくい」が思い出されました。
やはり相手の心情を考えずに言いたいことだけ言ったのでは相手は不信感を抱くと思います。


「共感」について興味深いことがいくつも書いてありました。
「「この言葉には共感できないな」と感じたとして、その状態を客観的に認識できていることが既に共感のスタート地点に立っている」というのも印象的でした。
私は共感を軽んじた「一方通行の独りよがり論法」に走るのではなく、受容と共感を軸としたコミュニケーションができる人でありたいです。


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2 コメント

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Unknown (ビオラ)
2016-10-09 22:01:17
共感・・・、受容・・・、人とのコミュニケーションで、大切な要素ですね。

年齢を重ねるごとに、友人の大切さをつくづく感じる今日この頃。自分の身の周りも変化があるのと同じく、友人達の環境も日々色々変化があり、それぞれに、そんな近況をお話ししたり聞いたりです。
皆仕事や家事を頑張っている中、色々な環境変化があり、それに対応している話を色々聞きますが、共感しながら・・・と言う感じです。
そしてそれらを理解し応援していますし、自分も色々アドバイスいただいたりしています。

人とのつながりの深さにより、共感、受容のレベルも違ってくる事もあるかもしれませんが、どんな人の話もきちんと聞く姿勢は大切だと思います。

聞き上手と言う言葉がありますが、共感、受容において、ある意味聞き上手と言うのは、1つのポイントのような気がします。

人とつながる事によって、自分も成長できます。

人の発信される話は、きちんと向き合って、聞く姿勢が大切ですね~。
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ビオラさんへ (はまかぜ)
2016-10-10 15:19:00
年齢を重ねていくと友人達の環境も変化していきますね。
そして月日が流れても友人でいられるのは凄く良いと思います
聞き上手と言われる人は、共感、受容が自然とできている人だと思います。
そして相手の話をきちんと聞いてくれる人に対して、人は思いの丈を話してくれるものだと思います。
年齢を重ねていっても、その姿勢を忘れないようにしたいです。
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