今回ご紹介するのは「バッテリーⅡ」(著:あさのあつこ)です。
-----内容-----
「育ててもらわなくてもいい。誰の力を借りなくても、おれは最高のピッチャーになる。信じているのは自分の力だーー」
中学生になり野球部に入部した巧と豪。
2人を待っていたのは監督の徹底管理の下、流れ作業のように部活をこなす先輩部員達だった。
監督に歯向かう巧に対し、周囲は不満を募らせていく。
そしてついに、ある事件が起きて……!
各メディアが絶賛!
大人も子どもも夢中になる大人気作品!
-----感想-----
※「バッテリー」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
原田巧と永倉豪は新田東中学校に入学します。
二人ともすぐに野球部に入るのかと思いきや、巧が豪に「入部届を出すのを一週間ほど待て」と言ってきます。
「待ってどうするんじゃ」と聞く豪に「自主トレ」と答える巧。
巧がなぜすぐに野球部に入ろうとしないのか気になりました。
小学校時代に豪と同じ新田スターズに所属していて、二人と同じく新田東中学校に入学した東谷と沢口は既に入部しています。
巧は時々シリアスな雰囲気のまま冗談を言うことがあります。
今作ではそんな場面が何度かあり普段のふてぶてしい性格とのギャップが面白かったです。
巧の母、真紀子は巧の傲慢さに苛立っています。
「巧は、いつもこうなのよ。ひとりでなんでも決めて当たり前みたいな顔して。自分が決めたことに人が従うのが当たり前みたいな考え、いつまでも通用しないわよ」
そして同時に心配もしています。
巧の祖父、洋三と次のような会話をしていました。
「あの子、中学でちゃんとやっていけると思う?」
「ちゃんとって、どういう意味じゃ?」
「あの性格よ。今だって、ひとこと『頼むよ』って言えばすむことでしょ。それが言えないの。人に頼んだり、あやまったり、妥協したりってこと、全然できないのよ。あれで、中学生活なんてやっていける?それでなくても、いじめとかなんとか問題多いのに。巧みたいに変わった子、きっとつぶされちゃうわ」
さらに真紀子の言葉の中では次の言葉が印象的でした。
「自分に自信があるってことと、他人に協調しないってことは、ちがうでしょ」
巧は他人に協調するということも、「お願いします」と何かを頼むこともできません。
母の真紀子が懸念するこの性格が物語の後半で事件を起こすことになりました。
ただそんな巧でも、豪に対しては謝ることができるようです。
「悪かったな。ずいぶん、おそくなっちゃって」と言う場面があり、巧でもそんな言葉を言うことがあるのかと驚きました。
沢口、東谷、巧、豪の四人で話している時に出た「国語教師、小野薫子先生と巧が怪しい」という話は面白かったです。
小野小町にかけて「小町先生」と呼ばれる小野先生は24、5歳の美人先生で、沢口が「巧と小町は怪しい関係なのでは」と疑っていました。
普段ふてぶてしい態度の巧にしては珍しくふざけ口調の会話をしていたのが印象的です。
豪が巧のキャッチャーをやっていくことに不安を感じる場面がありました。
「おれは、ずっとあいつのキャッチャーをやっていけるんか。いつか、追いつけなくなる日がくるんじゃねえか」
ピッチャーとして圧倒的な実力を持つ巧に対し、いつかその球を捕れなくなるのではと不安を感じていました。
野球部の顧問は戸村(通称オトムライ)といい、風紀委員会の担当でもある非常に厳しい先生です。
ある朝、校門で行われた風紀委員会による服装検査に引っ掛かった巧は態度が悪いということで職員室に連れていかれます。
そこで戸村から尋問された巧は持ち前のプライドの高さからふてぶてしい態度を取ります。
小町先生から「戸村先生はきびしいから、へんにたてついたらあかんよ」と忠告されていたのですが全く聞く耳を持ちませんでした。
かつて新田高校で井岡洋三の指導のもと野球部で活動していた戸村は巧が井岡洋三の孫と知り驚きます。
戸村は「同じ市内に住みながら、十何年、ただの一度も会っていない。会いたいとは思わなかった」と胸中で語っていました。
洋三と過去に何かあったかもしれないと思いました。
ついに巧と豪も野球部に入部し、練習が始まります。
キャプテンは海音寺、副キャプテンは展西(のぶにし)といい、どちらも三年生です。
巧は戸村に指名され、一年生の身で練習初日からマウンドに上がりました。
そして巧はさっそく監督に逆らいます。
豪、沢口、東谷の三人は「試合に出してもらえなくなったらどうするんだ」と大人しくしているように巧を説得しますが全く聞き入れません。
巧の我の強さは筋金入りで、相手が野球部顧問であっても理にかなっていないと思うことは一切聞き入れないです。
「オトムライが出さないと言うなら試合に出なくていい」と言う巧に、ついに豪が激怒します。
「おまえは、自分さえよければ、まわりなんかどうでもええんだろう。ちっとは……ちっとはな、人のこと考えてみぃ」
「お前なんか、最低じゃ」
豪の激怒には巧も随分動揺したようで、豪に謝れと言う沢口と東谷に対し、「ばか。おまえらなに言ってんだ。野球は九人でやるもんなんだぞ。それを他人を頼りにしててどうすんだ。ばか、そんなんだから、他人に頼って、そんなんだから……」と支離滅裂なことを言っていました。
野球は九人でやるものであり、豪という頼りになるキャッチャーがいなければ巧はピッチャーとしてマウンドに立つことはできません。
巧の弟の青波は鋭くて、巧の雰囲気を見ただけで巧が豪と喧嘩したことに気づいていました。
巧はあくまで戸村や先輩に従わないです。
そして自分の力を徹底的に信じていて、「監督の戸村に逆らっても、自分の球は誰にも打たれないのだから、戸村も巧を試合に出す」と考えています。
ただしこの傲慢さを嫌う先輩陣もいて、やがて野球部内で事件が起こります。
シリーズ二作目の今作は巧の傲慢さがかなり際立っていました。
他人に協調することが全くできないこの性格ではトラブルが起きるのも無理はないです。
ただし起きた事件はやり方が非常に悪質で野球のスポーマン精神とはかけ離れたものでした。
さらにその後、野球部の存在自体を揺るがすような事件も起きてしまいます。
野球部がどうなっていくのか、そして他人に協調できない巧がこの先どうなっていくのか、続きが楽しみです。
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