読書日和

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「バッテリーⅥ」あさのあつこ

2016-10-22 21:25:39 | 小説


今回ご紹介するのは「バッテリーⅥ」(著:あさのあつこ)です。

-----内容-----
「おれはピッチャーです。だから、誰にも負けません」
いよいよ、巧たち新田東中は、強豪・横手二中との再試合の日を迎えようとしていた。
試合を前に、両校それぞれの思いが揺れる。
巧と豪を案じる海音寺、天才の門脇に対する感情をもてあます瑞垣、ひたすら巧を求める門脇。
そして、巧と豪のバッテリーが選んだ道とは。
いずれは……、だけどその時まで――巧、次の一球をここへ。
大人気シリーズ、感動の完結巻!

-----感想-----
※「バッテリー」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「バッテリーⅡ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「バッテリーⅢ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「バッテリーⅣ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「バッテリーⅤ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

冒頭は新田東中学校の卒業式の日。
原田巧と野球部の前キャプテン、海音寺一希が体育館の裏手で話しているところから物語が始まりました。
三年生の海音寺は卒業していきますが、横手二中との試合という最後の大一番が残っています。

海音寺は巧が瑞垣俊二に「本気なら相手します」と言ったことを引き合いに出し、「巧自身はどうなのか」と聞いてきました。
全国一の天才バッター・門脇秀吾に対し、どう思っているのかを聞いていました。
海音寺は巧が門脇に負けると思っています。

「門脇はおまえの上をいく。能力の差じゃのうて、本気だからだ。おまえに対して本気だからな。あいつは、おまえのこと対戦相手のエースピッチャーとして見てるわけじゃない。そういうんじゃなくて、おまえ個人を見てる。門脇を相手チームの打者としてしか見てないおまえとは、ちがう。

新田東中野球部を引っ張ってきた、傲慢極まりない巧に対しても面倒見の良い海音寺がこんな風に考えているとは意外でした。
本気度の差で門脇が勝つと見ているようです。
巧はこの意見が不服で結構不機嫌になっていました。

3月の最終日曜日にある横手二中との試合まであと10日になります。
海音寺と野球部監督の戸村(通称オトムライ)が話をしていて、戸村から「原田も永倉も、おまえにあずける。好きに使え」という驚きの発言がありました。
また、「今の巧では門脇に負ける」と言う海音寺に対し、戸村は「負けるとは思わない」と言っていました。
傲慢な巧とたびたび衝突してきた戸村ですがピッチャーとしての巧についてはかなり信頼しているようです。
海音寺は二人になかなか言葉にするのが難しいことを伝えようとし、奮戦していくことになります。

ちなみに吉貞も巧と話している時に海音寺と同じことを言っていました。
「おまえは、だいたい他人に対して冷たすぎるんじゃ。つーか、興味がなさすぎる。そういうのだめだよ」
「何がだめなんだよ」
「門脇さんに勝てないぜ」
「おまえみたいにな、バッターが誰でも関係ないやなんてすましてるのと、真剣度がちがう。マジ度がちがう。どんな勝負だって、思い入れの強え方が勝つんじゃ」
吉貞は普段は休む暇もなく喋りたいことを喋っているお調子者なのですがたまに鋭いことを言います。
この鋭さは監督の戸村も目の当たりにしたことがあります。

「感情の蕩揺(とうよう)」という言葉が出てきました。
蕩揺は「ゆり動かすこと。また、ゆれ動くこと」という意味で、なかなか見かけない言葉です。
このシリーズは児童書なのにたまに難しい言葉が出てくるのが印象的です。

門脇と瑞垣が新田東中との試合に向けて練習している場面がありました。
門脇の家の裏庭にある打撃練習用のネットを前に、瑞垣がボールを放り、門脇がバッティングをしています。
瑞垣は門脇のことを忌々しく思っているので、その精神状態でよく門脇のバッティング練習に協力しているなと思いました。
また、瑞垣が心境を吐露していました。

羨ましいんだよ、秀吾。ばかみたいに、おまえが羨ましくて堪らない。認める。いっそ、本当にばかだったらよかった。自分が搦めとられていることさえ自覚できないほど愚かなら、かえって楽なのにな。中途半端なんだよな。中途半端な実力、中途半端な自負心、中途半端な愚かさ……始末に負えない。我ながらうんざりする。

常にひねくれたことや相手の心を乱すことばかり言っていて本心を見せない瑞垣が自分自身に対し「我ながらうんざりする」と言っているのが印象的でした。
小さい頃から一緒に過ごしてきた天才バッター・門脇秀吾への羨望、そこから沸き起こるひねくれた言動、そしてそんな自分自身への自己嫌悪もあるようです。

豪が自転車を運転し、巧が後ろに乗っての家への帰り道、色々と話していました。
巧が何も知らないことについての会話が面白かったです。
「二ケツって、ケーサツに見つかったら注意されるよな」
「そうか?」
「知らんかったか?」
「うん」
「おまえは、知らんことが多すぎるな」

「門脇さんのことが気になるんか?」
「気にはならない。どんな人なんだろうって思っただけだ」
「そういうのを気になるっていうんじゃ」
「へぇ、そうなんだ」
「おまえって、ほんまなんにも知らんよな」
「悪かったな」

前巻までにも似たような場面がありました。
特にバッテリーⅣでは東谷、沢口、吉貞が口々に「原田って、ほんと、なんにもできんよな」と言っていたのが印象に残っています。
巧は野球以外のことへの興味が薄く、よく苦言を呈されます。
門脇について「打者として凄い」と言う巧に対し、それ意外の部分の凄さについて豪が語ります。

「打者としてすごいのは、わかっとる。そんなこと、誰でもわかることじゃ。おれが、門脇さんのことすげえなって思うのは……おまえに対して本気になれるってことで……だってな……ほら、門脇さんてもう全国区じゃろ。なのに、わざわざ試合をするんだぞ。無名の年下の新人のために、必死になってる。そういうの、すごくねえか」

豪も海音寺や吉貞と同じく、門脇の巧への本気度の凄さに気付いていました。
同時にその本気度の凄さは、海音寺が巧にも門脇に対して持ってほしいと思っていることでもあります。
この時ついに巧は、門脇がどれくらい本気で向かってくるかを認識した上で、その門脇にどう対峙するか気持ちの整理がついたようでした。

練習を重ね、横手二中は全国大会ベスト4に入った最盛期の状態に戻ってきていました。
瑞垣はこれなら勝てると思っています。
そしてそんなことを考えながら海音寺と電話で話しているのですが、この二人の電話は瑞垣が得意のひねくれた言葉でかき回しているように見えて、必ず海音寺のペースになります。
瑞垣が自分のペースにできない相手は珍しいです。
海音寺は新田東中の取りまとめ役として、瑞垣は横手二中の取りまとめ役として、試合の日に向けて奔走しています。

物語の最終章、ついに横手二中との試合が始まります。
巧の投げる渾身の球は門脇を抑えることができるのか、気になるところでした。
横手二中の指揮を執る瑞垣は単なるひねくれ者ではない洞察力の鋭さを見せていました。
この試合の後、海音寺や門脇、瑞垣など中学校を卒業した者達は高校生になり、それぞれの道に進んでいきます。
巧や豪は二年生になり、新田東中の中心選手として公式大会に臨んでいくことになります。
紆余曲折を経て、卒業生にとっても巧や豪のような在校生にとっても門出となるこの試合が無事に開催できて良かったです。
それぞれが門出の先の青春を謳歌していってほしいと思いました。


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