読書日和

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「バッテリーⅤ」あさのあつこ

2016-10-15 13:47:27 | 小説


今回ご紹介するのは「バッテリーⅤ」(著:あさのあつこ)です。

-----内容-----
「おれは、おまえの球を捕るためにいるんだ。ずっとそうすると決めたんじゃ」
天才スラッガー門脇のいる横手二中との再試合に向け、動きはじめる巧と豪。
バッテリーはいまだにぎこちないが、豪との関わりを通じて、巧にも変化が表れつつあってーー。
横手の幼なじみバッテリーを描いた、文庫だけの書き下ろし短編「THE OTHER BATTERY」収録。

-----感想-----
※「バッテリー」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「バッテリーⅡ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「バッテリーⅢ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「バッテリーⅣ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

冒頭の季節は冬。
二学期末のテストが終わったところから物語が始まるので12月初旬のようです。
永倉豪が原田巧の球を受けています。
ついにこのバッテリーが復活する時が来ました。

そこから時間は流れ、三月になります。
巧はこの頃、豪を掴みあぐねています。
豪が巧の全力で投げた球を受けても笑わなくなっていました。
以前の豪は全力投球の球を受けると満足げにフッと笑みを浮かべていたのですがそれがなくっています。
巧はそれに気が付いていて、「捕ることが苦痛でもあるかのように、口元を固く結んで、表情を崩さない」と胸中で述懐していました。

母の真紀子が高熱で入院し、巧と父の広と祖父の洋三、弟の青波の四人で朝食を食べている時、広が進路のことを巧に聞いてきました。
巧はこういうのを聞かれるのをかなり嫌がっていました。
自分の将来は、自分で決める。自分以外の者に決定権はないはずだ。決めれば、報告する。それまで待っていてほしい。
大人は、いつも性急だ。性急で、無遠慮だ。無遠慮に踏み込んできて、決定権を無視する。

この気持ちは何となく分かります。
まだ分からないものを性急に聞かれるのは嫌な気分になるものです。
ただ巧の場合はかなり素っ気ない対応をしていて、広が会社に行った後洋三が巧を諭していました。
「あまり、人を疎むな」
「もう少し話をしてみろや。親父だけじゃない、もう少し他人と話をしてみろ。おまえが思うとる以上に、おもろいやつは、ぎょうさんおるぞ。」
「バッテリー」シリーズを通して問題となっている"他人を理解しようとしない"巧の性格についてのことがここでも出てきました。

野球部は新キャプテンの野々村が持ち前の寛容さで上手くチームを引っ張り日々練習しています。
ある日、元キャプテンの海音寺一希がグラウンドにやってきます。
横手二中との再試合の日が決まったので伝えに来ました。
三月の最終日曜日に再び戦うことになります。

せっかく豪がキャッチャーとして戻ってきたのですが、今度は巧の調子がおかしくなってしまいます。
投げた球がストライクゾーンを大きく外れてしまい、自分の球をコントロールできなくなることがあります。
今までの巧なら豪がミットを構えた場所にピッタリと投げ込むことができていました。
ただし狙いどおりのコースにびしっと決まることもあり、しかも今までよりもずっと威力のある球になっています。

豪は巧と「友達」の会話をしたいと思っています。
ただしそんな話をしても巧はまともには受け答えてくれませんでした。
「おれは、ただ……たまには、フツーの話をするのもええかなって……女の子じゃなくても、マンガでもドラマでもガッコのことだってええ、別にどうでもいいけど、話してておもしろいみたいな、フツーの話、そういうのもええかなって……」
これに対し、巧は次のように言っていました。
「そういうの友達とやれよ。東谷とか沢口とか、おまえ、いっぱい友達いるだろうが」
巧のこの言葉から、巧は豪を友達と思っていないことが分かりました。
これは結構ショックでした。

豪が次のように考える場面がありました。
「野球さえなかったら、案外、いい友達になれたんじゃないか。もしかして、親友なんてのになれたかもしれない。さっきみたいに、ふざけながら愉快に時を過ごすことだって、できたかもしれない。」
しかしそのすぐ後、巧の嫌な対応を見て次のようにも考えていました。
「友達になんて、絶対なりたくない。なれもしないだろう。傲慢で、わがままで、究極の自己チュウで、一方的に命令されることも管理されることも大嫌いなくせに、平気で他人を振り回す。信じられないくらい嫌なやつだ。」
この豪の葛藤が興味深かったです。
友達になりたいと思う時もあればなりたくないと思う時もあるというのは、巧の性格と立ち居振舞いをよく言い表していると思います。
たまに良い面を見せることもありますが、基本的には傲慢で嫌な奴です。

横手の「レッドチェック」というファミリーレストランで海音寺と瑞垣が会う場面があります。
新田東中と横手二中の再試合はこの二人が準備を進めています。
瑞垣は「横手二中や新田東という学校の存在抜きにして、おれ達の仕切るおれ達の試合をやろうや」と提案していて、海音寺もこれに魅力を感じ、学校の関与無しで試合をやるべく準備を進めていました。
ファミレスで会った後二人が川原で話をしていると、門脇がやってきて合流します。
しかも瑞垣と門脇が喧嘩になります。
以前も瑞垣の発言が原因で喧嘩になったことがありますが今回はその時よりも緊迫した展開になりました。

東谷、沢口、吉貞、巧の四人がバーガーショップでハンバーガーを食べている時、東谷が巧に苦言を呈します。
「原田、おまえ、そういうこと考えたことあるか。豪におまえのキャッチャー以外のこと、許したことあるか。おまえら、野球から離れても一緒にいられるんか。カノジョがどうしたとか、昨日こんなことしたとか、そういうこと話して笑ったりして……そういうのないから、豪は、しんどいんじゃないんか。おまえ、いつも、あいつのこと振り回して……おまえは、すげえよ。すごいと思う。だから好きにやればいい。けど、豪まで連れていくな。引っ張り回すな」
この時の会話の最後、言い過ぎたと思った東谷は「うん、ごめん、原田のこと悪う言う気は、なかったんじゃ」と謝りますが、巧が意外なことを言います。

「いや、たぶん言い過ぎたのはおれだと思う。悪かったな」

巧が謝りました。
他の人に対して謝る巧の姿は初めて見ました。
さらに豪について、次のように言っていました。

「けどな、あんまり豪を過小評価するなよな。あいつは、おれなんかに振り回されて、チームが見えなくなるほど、チャチなやつじゃないぜ」

この言葉は印象的でした。
まず人前で「おれなんかに」などと言う巧は初めて見ました。
さらに豪について凄い奴だと心のなかで思ったことはありますが、それを声に出して他の人に言うのは初めて見ました。
巧が今までとは変わり始めていることが分かりました。

横手二月との試合の日が近付き、段々と春の陽気になってきます。
巧が空を見た時の春についての描写が良かったです。

花曇というのだろうか。薄い雲が、一面に空をおおっている。やはり甘やかな匂いが漂う。春は色と香りの季節なのだ。
桜、桃、チューリップなど、たしかに春は色と香りの季節だなと思います。

知らなくていいのだろうか。
むかつくと言い捨てた豪を、知らなくていいのだろうか。突然に、自分につきつけられた激しい感情を、むかつきを、嫌悪をちゃんと知らなくていいのだろうか。

マウンドから豪にボールを投げながら、巧が豪の気持ちに思いを馳せていました。
今までの巧にはなかった考えです。
一巻からずっと問題になっていた"他人を理解しようとしない"という巧の性格に、ついに変化が現れるようになりました。

門脇と瑞垣が新田東中に来て、巧がバッティングピッチャーをして瑞垣が打席に立つ場面があるのですが、その時に瑞垣がいつものように相手を動揺させるようなことばかり言って場を掻き乱そうとします。
しかしその仕返しとばかりに巧に良いように遊ばれた瑞垣が大激怒。
大荒れの展開となります。
そしてついに瑞垣が巧のことを「姫さん」と呼ぶのをやめ、原田と読んでいました。
もう「姫さん」と呼ぶ余裕はなくなっていました。

その日の帰り道、東谷、沢口、良貞、巧、豪の五人でバーガーショップに寄ります。
そこでは東谷が憧れの海音寺について「おれ、海音寺さんみたいなショートになりたい」と言ったり、良貞が「東谷くんには無理なんじゃない」とからかったりと、他愛もない会話が繰り広げられました。
その様子を見ながら、巧は胸中で次のように思っていました。
「重いなと感じる。こうして、他人といることが、何気ない会話を交わすことが、心を配ってもらうことが重い。ここにこうして座っているより、一人、走っている時間の方が性に合っているとも思う。それでも座っているのは、一人で走っていてはわからないことを知りたかったからだ。」
今までの巧は「一人で走っていてはわからないこと」を知ろうともしていませんでしたが、今は知ろうとしています。
他人の気持ちを考えられるようになった分、人としても野球選手としても成長しています。
間近に迫った横手二中との試合でどんな球を投げるのか、中学野球界一のバッター、門脇を打ち取れるのか、最終巻となる六巻を楽しみにしています。


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