読書日和

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「キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇」石田衣良

2014-09-07 23:51:59 | 小説
今回ご紹介するのは「キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇」(著:石田衣良)です。

-----内容-----
誰にだって忘れられない夏の一日があるよな―。
高校時代のタカシには、たったひとりの兄タケルがいた。
スナイパーのような鋭く正確な拳をもつタケルは、みなからボスと慕われ、戦国状態だった池袋をまとめていく。
だが、そんな兄を悲劇が襲う。
タカシが仇を討ち、氷のキングになるまでの特別書き下ろし長編。

-----感想-----
この作品はシリーズ一作目の「池袋ウエストゲートパーク」から2年ほど遡った時代の話です。
真島誠と安藤崇は高校二年生で、季節は夏
夏休みになる直前から物語は始まっていきます。
語り手は池袋ウエストゲートパークシリーズと同じく誠が務めています。
まだ安藤崇はGボーイズ(ギャングボーイズ)のキングではなく、Gボーイズ自体存在していません。

マコトとタカシには忘れられない夏の終わりの一日があります。
そしてそれは同時にタカシのひとりきりの兄、安藤猛の命日でもあります。
この物語はタカシがどう兄のタケルの仇を討ち、池袋のキングになったのかの物語です。

マコトとタカシは都立豊島工業高校に通っています。
生徒の三分の一が学校をドロップアウトする不良の名門校で、喧嘩や他校との出入り(争いごと)は当たり前とありました

マコトとタカシが学校をサボって訪れた東急ハンズの裏にあるゲームセンター。
そこでは田宮さん(通称ミヤさん)という都立豊島工業高校卒の二つ上の先輩で、タカシの兄・タケルの友達がアルバイトで働いています。
この田宮さんとの会話で、タケルの人物像が明らかになってきます。
タケルはマコトたちの高校のボクシング部元主将で、ライト級で高校総体(インターハイ)2位になった実力者です。
今はときどきアルバイトをしながら、ふらふらしているとありました。

序盤はタカシについてちょっとひ弱なふうに語られていました。
けっして肉づきはよくない。薄い板のようなガキの背中。
やつの声は控え目なので、ゲーセンではひどくききにくい。
このちょっとひ弱な印象のタカシがどんなふうに池袋のキングになっていったのか、とても興味深かったです。

この夏、東京では繁華街ごとにチーマーのヘッドが巨大組織を作り始めていました。
池袋のチームはとなりの新宿と抗争を繰り返しています。
また、池袋は渋谷のチームと友好関係を結んでいて、新宿は練馬のチームとタッグを組んでいるとのことです。
まだGボーイズが結成される前、池袋には数十のチームがあり、それぞれがばらばらに活動していました。
それが街同士の抗争で危機に直面し、組織をしっかりと構成して対抗する必要が出てきました。
そしてそんな戦国時代の池袋をまとめようとしているのが、タカシの兄のタケルでした。
「池袋のノブナガ・オダ」という表現が印象的でした

またタカシについてさらに驚いたのが、
タカシは兄貴とは逆で、暴力沙汰の起こりそうな場所には絶対に近づかなかった。なんでもタカシはガキのころ喘息気味で、おふくろさんから激しい運動は禁じられていたそうだ。
とあったこと。
これも信じられないような話で、池袋のキングとのギャップに驚きました。

ここ二ヶ月ほど、池袋では「ノックアウト強盗」による事件が続いていました。
別名「KOキッド」とも呼ばれ、夜道を歩いていると、向こうから歩いてきたガキがすれ違いざまにいきなりパンチを放ち、相手の会社員や大学生をノックアウトし、財布から金だけ奪って去っていくという強盗事件で、これが五件も連続して起きていました。
そしてタケルはその犯人がタカシなのではないかと心配していました。
タケルがタカシにボクシングの技を教えていて、しかも最近タカシは夜になると出かけていたからです。
タケルはマコトにタカシの様子をそれとなく観察してくれないかと頼んできます。

「タカシの器は底がしれない。兄貴の欲目かもしれないが、ボクシングだって本気でやれば、あいつのほうが才能はある」
この言葉が示すように、兄は弟の才能に気づいていました。
しかしもしかするとその才能をノックアウト強盗に使っているかも知れず、不安を感じてもいます。

タケルとタカシには、安藤華英(はなえ)という病気がちのお母さんがいます。
マコトとタカシが入院している病院にお見舞いに行った時、華英がマコトにお願いをしてきました。
「タカシはほんとは誰よりもやさしくて、人の痛みがわかる子なの。だから、マコトくん、もしあの子が人の道をそれそうになったら、あなたに引きもどしてほしい。間違ったことをしたら、身体を張ってとめてあげてほしいの」
自分の死期が近いことを悟っている華英からマコトへの、遺言のようなお願いでした。
マコトはそれを引き受けます。

その頃、ノックアウト強盗の手口が変わりました。
本編でおなじみの池袋署少年課の刑事、吉岡からその話を聞き、新たな手口のタイミングから見てマコトはタカシへの疑いを持ちました。

一方街の抗争のほうは、埼玉から東京のチームを潰しにやってきている双子の板倉兄弟が派手に暴れていました。
埼玉ライノーズというチームを率いています。
兄のケイジはキックボクシングの使い手、弟のセイジは得物を使い、マコトたちの先輩の田宮さんが病院送りにされた相手をこの二人は病院送りにしていました。

そしてついに池袋ギャングボーイズ、Gボーイズが結成されます。
結成式の場所は西口公園、ウエストゲートパークです
Gボーイズの初代ボスには安藤猛が就任しました。

東口に西武、西口に東武、池袋にくることのないやつはそう覚えておくといい。だいたい世のなかは反対にできている。
これは何だか良い表現だと思いました

やがてノックアウト強盗、”KOキッド”の正体が分かります。
この頃、タカシもGボーイズのメンバーに入っていました。
そしてついに、タケルとのお別れの時が来ます。

おれの人生最大の後悔はあのときだ。あのとき、タケルを無理やりうちに誘っていれば、あんなことにはならなかったんじゃないか。おれとおふくろは何度もその話をした。

Gボーイズの初代ボス、タケルの死。
タカシはタケルの仇を討つことを決意します。
決着がつく頃には、池袋ギャングボーイズ、Gボーイズのキング・崇が誕生していました。

今回は「キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇」ということでタカシがキングになるまでの物語だったのですが、マコトの目線で語られていただけにマコトの物語でもありました。
池袋の絶対的な存在、キング・崇のただ一人の友達、真島誠。
二人が駆け抜けた高校時代の青春の物語、面白かったです

シリーズ11作目の「憎悪のパレード」ではかなり無理のある政治主張をマコトに語らせていて、読んでいて驚きました。
この作品は大丈夫なのかと少し心配だったのですが、幸いこの作品ではそういったことはありませんでした。
変に石田衣良さんの政治主張をマコトに語らせると作品が壊れてしまうので、やめておいたほうが良いのではと思います。


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