読書日和

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「将棋ボーイズ」小山田桐子

2014-10-04 23:59:08 | 小説
今回ご紹介するのは「将棋ボーイズ」(著:小山田桐子)です。

-----内容-----
勉強も運動も苦手な歩は、なんとなく将棋部に入部する。
そこには、亡父の願いと周りの期待に悩む天才・倉持がいた。
そんな時、県大会の団体戦のメンバーが呼び上げられる。
落ちこぼれと本気になれないエースが、タッグを組んで奇跡を起こす!?
僕らの未来を決めるのは、大人でも偏差値でもない―
実在の将棋部をモデルにした絶対感動の青春小説!!

-----感想-----
私がこの小説に興味を持ったのは、文庫本の帯に三浦しをんさんの推薦の言葉があったからです。
「読み終わりたくない!
この将棋部の奮闘と友情を、いつまでも見ていたい!
そう感じたほどの、傑作青春小説です! 作家 三浦しをん」
と書かれていました。
私は三浦しをんさんの作品のファンなので、その人が推薦しているなら面白いのかなと思い手に取ってみました。
どちらも1976年生まれの早稲田大学卒業なので、二人には何かしらの縁があるのかも知れませんね。

岩手県にある私立岩北高校の将棋部は、全国大会の常連校。
この高校に入学した栗原歩は、「初心者歓迎」の言葉に勇気を得て、将棋部へ入部します。
将棋部には歩と同じく一年生の新入部員、倉持謙太郎がいます。
倉持は中学生の時から全国大会で何度も優勝している将棋の世界ではかなり名の知れた人物です。
物語は歩の目線で語られる章と倉持の目線で語られる章が交互に展開されていきます。

私は将棋のルールを知らないので面白く読めるのか疑問があったのですが、そこは大丈夫でした。
ルールを知らない人が呼んでも問題なく楽しめる内容でした
将棋の戦法について、簡単に解説があったりもしました。

将棋の戦法は居飛車と振り飛車に大きく分けられる。
縦横に広く動き、攻めの要となる飛車を、そのままの位置に置いて戦うか、横に振って戦うかで、そのスタイルは大きく変わってくるのだ。
飛車は敵陣に向けた大砲のようなものだ。
それをどこに置くかで戦の組み立て方は自ずと異なる。
また、振り飛車にも三間飛車(さんげんびしゃ)、四間飛車(しけんびしゃ)、中飛車(なかびしゃ)とあり、飛車を振る場所によっても全然違う。


プロ棋士・近藤正和が開発した「ゴキゲン中飛車」という戦法も興味深かったです。
このユニークな名前は、近藤正和がいつもニコニコしていてゴキゲン流と呼ばれていたことに由来しています。
受けの戦法である中飛車ですが、ゴキゲン中飛車は果敢に攻め込む戦法であり、様々な対策が編み出され今でも人気があるとのことです。

歩と倉持以外の一年生では、安達祐介、町山太陽(ハルヒ)、梶浩太などがいます。
帯には五人の紹介が以下のように書かれていました。

栗原歩……自分に自信がもてない落ちこぼれ。
倉持謙太郎……いつもクールな絶対的エース。
安達祐介……面倒見がよく、みんなのオカン的存在。
町山ハルヒ……天真爛漫でチームのムードメーカー。
梶浩太……空気が読めず、部で浮いた存在。

序盤で早くも全国大会に向けた戦いが始まります。
最初にあるのは5月の岩手県将棋選手権。
この大会は8月に行われる全国高等学校総合文化祭将棋選手権全国大会の予選でもあり、団体戦の1位、個人戦の1位2位が全国大会に進むことができます。
ただし全国大会で団体戦、個人戦を同日に行う関係上、個人戦で全国出場を決めた選手は、団体戦に出られない規定になっています。
倉持は個人戦に出れば優勝間違いなしの実力者ですが、この規定があるため、顧問の本郷先生の要請を受けて団体戦に絞って出場することになります。
しかし倉持の「いいですよ」という返事があっさりしすぎていたため、「いいですよって、どうでもいいですよってことじゃないだろうな」と突っ込まれていました。
私はこれを見て浜崎あゆみさんの「Boys & Girls」の歌詞「”イイヒト”って言われたって ”ドウデモイイヒト”みたい」が思い浮かびました。

展開は凄く早く、あっという間に全国大会を迎えます。
全国大会で対戦することになるライバル校の中では、特にN高対策に力を入れていました。
「東大進学率の高さでも知られるN高は、屈指の将棋強豪校であり、岩北高校の全国優勝を幾度となく阻んできた相手でもあった」とありました。
このことから、N高というのは灘高校のことで、灘高校の将棋部をモデルにしているのではと思いました。
ちなみに私立岩北高校の将棋部のほうは私立岩手高校の将棋部をモデルにしているようです。

冬になると三年生の追い出し会がありました。
これは卒業式の前日、予行練習のために登校してきた三年生を迎え、トーナメント形式の最後の大会を開くというものです。
そして卒業生を送り出した3月の半ばには春合宿が行われました。
この合宿では梶の無遠慮で相手の気持ちを考えない物言いで不協和音が生まれることになりました。
梶は実力はあるのですが、態度に問題があります。

プロ棋士になるためには21歳の誕生日までにプロの養成機関である奨励会の初段にならなければならない厳しい壁がありますが、アマチュアの世界にも壁があります。
それが三段と四段の間の壁で、三段まではセンスがあり、定跡(最善の一手のこと)を熱心に勉強している人なら比較的順調に上がっていけますが、そこから四段に上がれる人は限られてきます。
ちなみに倉持は六段、祐介は三段、ハルヒは二段で、梶は四段です。
そこで三段や二段の祐介やハルヒを「自分より弱い人」と口に出して言ってしまうのが梶という人です。

この合宿の頃になってもなかなか上達しない歩は、倉持のアドバイスで戦法を「居飛車」から「振り飛車」に変えることになります。
倉持に対して雲の上の人のように感じている歩は、そのアドバイスにも全幅の信頼を置いていました。
ちなみに合宿では倉持の偏った食事の摂り方(おかずを食べずにご飯ばかり食べる)を注意する祐介が「おかんタイプ」、梶は「空気の読めない親戚タイプ」などと評されていました。

天才の倉持にも悩みがあります。
それは勝つことに対して貪欲になれず、本気になれないということ。
合宿に来て部員達を指導してくれた中越というプロ棋士にそこを指摘されていました。

人間、苦手な相手を意志や理性で好きになるのは難しい。
梶への述懐で出てきたこの言葉はそのとおりだと思いました。
団体戦なので仲が良いほうがチームの団結も上がって良いのですが、なかなかそう上手くはいきません。

二年生の時は、倉持が敗れる場面があったのですが、展開は淡々としたものでした。
倉持に勝った相手もそれ以降出てくることはなかったです。
この辺りは話の作りが軽めで、濃密な物語を好む人は物足りないと感じるかも知れません。
私は高校生の青春物語なので軽くても良いかなと思います。
また、歩の成長はゆっくりで、なかなか活躍を見せる場面は来ません。

最後の年となる三年生では、倉持が史上初の四冠達成に挑むかどうかで考えることになります。
倉持はこれまでに全国高校将棋選手権団体戦、全国高校将棋竜王戦、全国高校将棋新人大会の三つのタイトルを獲得していました。
残る高校公式戦タイトルは全国高校将棋選手権の個人戦での優勝です。
そのタイトルを獲得すれば史上初の四冠達成となります。
倉持がどういう決断をするのかはとても気になりました。

羽生善治名人は直感を大事にしているという。直感とは単なる当てずっぽうではなく、努力し、培った経験から生み出されるものだからだ。
物語の終盤、ついに歩も努力の成果が現れてきます。
羽生名人のレベルと比べるのはおこがましいけれど、自分なりに「直感力」がついてきていると心の中で言っていました。

そして最後、3月に行われる全国学生将棋選手権で歩の地道な努力が実る時が来ました。
これは高校生とかではなく、「学生」であれば参加できる大会です。
学生ならみんな参加できるとはいえ、やはり大学生が強く、団体戦の優勝も超難関大学が占めています。
倉持や歩達は高校生活最後の団体戦として試合に臨んでいきます。

この作品は天才・倉持の悩みと、初心者・歩の一歩一歩の成長という、二つの物語がありました。
あまりに実力が違う二人が団体戦で肩を並べる日は来るのかと思ったのですが、最後に見ることができて良かったです。
将棋の青春物語、楽しめました


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