読書日和

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「憤死」綿矢りさ

2013-03-23 18:07:36 | 小説
今回ご紹介するのは「憤死」(著:綿矢りさ)です。

-----内容-----
命をかけてた恋が、終わっちゃったの!
おとな
トイレの懺悔室
憤死
人生ゲーム
各紙で話題!心の闇へ誘う4つの物語。
新たな魅力あふれる著者初の連作短編集。

-----感想-----
というわけで、先日書店で平積みされているのを見かけて手に取ったこの作品。
綿矢りささん初の連作短編集とのことで、どんな内容なのかとても興味を持ちました。

まずは「おとな」。
これはわずか5ページの作品で、「ショートショート」という形態をとっていました。
そういえばショートショートを読むのは高校の国語の授業以来な気がします。
短編集は比較的読むことがあっても、ショートショートは滅多に読む機会がないんですよね。
「りさちゃん」という子が出てくることから、ひょっとすると綿矢さん自身を投影した作品なのかも知れません。

「トイレの懺悔室」。
これもまた新鮮な作品でした。
綿矢さんの小説では滅多にない、男子が主人公の作品だったからです。
6年前に読んだ、「インストール」の文庫版に収録されていた「You can keep it.」以来だと思います。
物語は小学校6年生の夏から始まり、「地蔵盆」という、主に関西地方で行われる子どもが主役の縁日を振り返るところから始まります。
その頃は主人公の「おれ」と、「達也」、「ゆうすけ」、「ロク」の4人でよく遊んでいました。
やがて物語は進み、社会人になり上京していた「おれ」が小学校の同窓会で当時の3人と再会、多いに盛り上がります。
そして作品の終盤は、恩田陸さんの「六番目の小夜子」を彷彿とさせるような、ぞっとする展開になりました。
ミステリアスホラーという感じで、これまでの綿矢さんにはないタッチでの書き方でした。
まさかの再終盤、あの後一体どうなってしまったんだろうという感じの終わり方です。

「憤死」。
これは表題作にもなっていて、自殺未遂をした小中学校時代の友達「佳穂」と「私」を巡る物語。
佳穂はとんでもなく高慢ちきな子で、小中学校時代は「私」を家来のように扱い、学校でも自分の思うがまま、我がままに振る舞ってきました。
そんな子が社会人になって自殺未遂をするようになるとは…と意外に思う「私」でしたが。。。
命をかけていた恋が終わっってしまい、そのショックから自殺未遂に走ってしまったようです。
ただしタイトルの「憤死」は激しい憤りで死んでしまうということなので、失恋のショックでの自殺未遂とはギャップがあるんですよね。
「憤死」とはどういうことか、なかなか興味深かったです。

「人生ゲーム」。
これも「トイレの懺悔室」と同じく、男子が主人公の物語。
「おれ」、「コウキ」、「ナオフミ」の小学6年生の三人組が「人生ゲーム」で遊んでいたある日。
高校1年生のコウキのお兄さんが三人に話しかけてきます。
「いいか、人生はこれからなにかと大変だぞ。ゲームみたいにかんたんじゃない。リフジンでナットクのいかないことばっかり起こる」
その時はこの言葉を真に受けていない三人でしたが…やがてこの言葉が三人に襲い掛かってきます。
次々と降りかかる災厄を前に、一人、また一人と消えていき、最後に残された「おれ」。
それでも自分の人生を精一杯生きてきた「おれ」が、人生の晩年に見たものとは…
これも怖さのある物語で、しかも小学校6年から人生の晩年までを描いた、非常にスパンの長い物語でした。

それにしてもこの短編集で綿矢さんはかなり色々なことに挑戦しているなと思います。
4つとも心の闇を含んだ物語ですが、ショートショートであったりかなり怖いラストになっていたり、バラエティに富んだ物語たちでした。
小学校6年から人生の晩年までを描くというのも今までにはないことでした。
綿矢さんファンの私としては「かわいそうだね?」で見せてくれた、読み手の心を揺らす感性に強く訴える表現力を大事にしつつ、新たな境地を見出して行ってほしいなと思います


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