読書日和

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「かわいそうだね?」綿矢りさ

2012-04-22 21:08:26 | 小説
今回ご紹介するのは「かわいそうだね?」(著:綿矢りさ)です。

-----内容-----
同情は美しい、それとも卑しい?
美人の親友のこと、本当に好き?
彼氏が元カノを居候させだしたり、美人の親友にいつも隣に並ばれたり、女ってほんとに厄介。
デビューから10年、綿矢りさが繰り広げる愛しくて滑稽でブラックな”女子”の世界!
誰もが心に押し込めている本音がこぼれる瞬間をとらえた二篇を収録。

-----感想-----
やはり綿矢さんの小説は、読み手の心を揺らしてくるなと思います。
グラグラというよりはズドンッ!と強烈に打ち込んでくる感じで、読んでいてとても動揺することがあります。
しかし不思議と読む手は止まらず、どんどん作品に引き込まれていく、そんな感じです。

まずは表題作の「かわいそうだね?」について。
主人公は樹理恵という28歳の百貨店の服飾ブランドで働く女性です。
彼女には隆大(りゅうだい)という彼氏がいるのですが。。。
なんとこの隆大が、とある事情により元彼女であるアキヨを隆大の家に居候させると言い出したのです
当然樹理恵はこれに猛反発。
隆大と樹理恵は喧嘩になります。

「いや、愛しているのはもちろん君だけ。アキヨを愛しているわけではないけれど、あいつはいま、俺しか頼れる人間がいない。おかしなことを言ってると分かってる。けど、ごめん」
「理由はどうであれ、私は元彼女を自分の家に居候させようとしている男性とは、これ以上付き合えない」
「おれがアキヨを助けるのをどうしても許せないのなら、申し訳ないけれど、おれは樹理恵と別れる」

こんな感じで、険悪ムードの話し合いが行われたのですが、最後は樹理恵が折れて、居候を認めることになりました。
これは彼氏の家に元彼女が居候していることで思い悩む、樹理恵の心の葛藤を描いた物語。
本当に心の迷い、怒り、時としてアキヨへの同情などの「揺れ動く気持ち」が丁寧に描かれていて、読んでいて私も一緒にムカッとしたり切なくなったりしました。
そんな男とは別れてしまえば良いのにと職場の後輩からアドバイスされたりもしましたが、これがそうもいかないようです。
樹理恵は隆大のことが好きで、上の会話では「これ以上付き合えない」と突き放したものの、どうしても別れるという決断は出来ませんでした。
別れるくらいなら…と妥協する形で居候を認めた樹理恵の弱さにリアリティがありました。

にしてもこの隆大という男は決して悪い男ではなく性格も良いのですが、とんでもない決断をしたものだなと思います。
こちらも思い悩んだ末に、元彼女を居候させるという結論になったようです。
何というか、性格の良さが裏目に出た決断のように思います。
どうしても見捨てられなかったようですが、現彼女の気持ちを考えるとこの決断は大問題ですね

この作品の見せ場はやはり、隆大の家に乗り込んでの修羅場ですね。
恋愛の葛藤を描いた展開だからいずれそうなるんだろうなと思いました。
この修羅場は結構怖くてページを捲るのが躊躇われました
樹理恵が強い決意を持って隆大の家の前にやって来た場面など、この次のページから愛憎劇が始まるのかと怖くなりました。
とても張り詰めた空気で、読んでいるほうもドキドキしました。
問題の居候している「アキヨ」、この女もかなりの曲者でしたね。
最後は樹理恵の怒りが大爆発です。
衝撃の修羅場で怖い展開なのですが、綿矢さんの文章は「読ませる」力があるので、かなり興味深く読んでいくことができました。
主要登場人物3人それぞれの駄目な部分が描き出されていて、なかなか生々しい心の迷いや駆け引きのある物語だったなと思います。


続いて、「亜美ちゃんは美人」という作品。
私が強烈に引き込まれたのはこちらの作品でした。
心の機敏を丁寧に細かく捉えていて、まるで「蹴りたい背中」を初めて読んだときのような、ものすごく心に訴えてくるものがありました。
これは素晴らしい良作だと思います

さかきちゃんは美人。でも亜美ちゃんはもっと美人。さかきちゃんは目を閉じて心のなかでつぶやく。亜美、たぶん私、あなたのことがきらいだよ。

さかきちゃんと亜美ちゃんという、二人の女の子を中心に進んでいく物語。
冒頭の舞台は高校の入学式。
式のとき、さかきちゃんのすぐ前に亜美ちゃんがいて、その亜美ちゃんが話しかけてきたのをきっかけに、友達になっていった二人。
さかきちゃんは美人だけれど、亜美ちゃんはもっと美人。
亜美ちゃんと並んでいると、注目を集めるのはいつも亜美ちゃんで、さかきちゃんは霞んでしまいます。
さかきちゃんはそんな亜美ちゃんのことが嫉ましく、好きになれません。
でも亜美ちゃんのほうはさかきちゃんが大好きで、他のどの友達よりも、さかきちゃんのことを大事に思っています。
この二人の「温度差」がとても印象的で心に迫るものがありました。
亜美ちゃんに話しかけられてもどこかそっけないところがあるさかきちゃんに対して、常に嬉しそうにさかきちゃんに話しかけていく亜美ちゃん。
亜美ちゃんに悪気はないのだけれど、さかきちゃんは複雑な心境なんだよ。。。
友達というより、「友達を演じている」に近い状態なのではと思いました。

そんな二人が、ついにやっと本当の「友達」になれたのは、大学生になってからでした。
二人は別々の大学に進んだものの、さかきちゃんのことが大好きな亜美ちゃんは、さかきちゃんの大学にやってきて一緒のサークルに入ろうとしました。
大学のサークルではそういうことも可能なようです。
ここでも亜美ちゃんのことが疎ましかったさかきちゃんですが、仕方なく、一緒に山岳同好会に入ることにしました。
さかきちゃんの心境に転機が訪れたのは、大学二年生の夏休み、山岳同好会のみんなで霧が峰に登ったときのこと。
ここでさかきちゃんは同好会の先輩から呼び出され、告白を受けます。
その直後、さかきちゃんは自分の気持ちの変化に気付きました。

あ、そうか、と自分の気持ちの変化に気づいて、さかきちゃんは恥ずかしくなった。
自分自身が満たされれば、亜美への嫉妬もなくなるんだ。

これは醜い、醜いんだけれど、でもそのとおりです。
自分が満たされたことで、ようやく嫉妬の気持ちから開放されたさかきちゃん。
さかきちゃんと先輩が恋人になったことを涙を流して感激してくれた亜美ちゃんの描写を見たとき、私はさかきちゃんが嫉妬の気持ちから開放されていて本当に良かったと思いました。
せっかく喜んでくれているのに、「この女…」と嫉妬の気持ちがあって疎ましく思われたままでは、あまりに切ないではないですか。

ついに本当の友達、親友になった二人の最後の舞台は、社会人になってからです。
なんとここでは予想外にも、亜美ちゃんの人生に暗い影が待っていました。
およそ亜美ちゃんには似つかわしくない、とんでもなく悪そうな男に惚れてしまい、しかも結婚まで考えていて、それまで歩んできた人生とは全く違う方向に行こうとしていました。
しかもその男、とても乱暴な態度とぞんざいな言葉使いで、とても亜美ちゃんのことを好きそうには見えないのです。
なぜ亜美ちゃんはそんな男に惚れてしまったのか?
親友として二人の結婚を止めるべきではないのか?
高校の友達や大学の友達と話し合いながら、さかきちゃんは考えます。
最後の展開は読んでいて胸が苦しかったですが、でも圧倒的に引き込まれる物語で、一行一行切迫した心境で読んでいきました。
本当に綿矢さんの文章は、心を揺らします。

きっとあれで良かったんだろうと思います。
さかきちゃんは親友として亜美ちゃんのために考え、そしてある場面で全てを悟り、答えを出しました。
高校時代は嫉妬心から亜美ちゃんのことが疎ましかったさかきちゃんが、最後は大好きになってくれていたのが、私はとても嬉しかったです


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6 コメント

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Unknown (ビオラ)
2012-04-25 17:23:42
綿矢さんの作品って、読んだことないけど、登場人物は、綿矢さん世代に近い範囲の人が多そうですね。
10代から30代くらいの幅でしょうか。

「かわいそうだね?」の方では、私が樹里恵なら、即刻別れると思うのですが、別れないところが、面白い展開に結び付いて行くんですよね。イライラしそうで、展開に揺さぶられて行きそうです^^;

「亜美ちゃんは美人」
よくあるような、女子特有の気持ちの揺れですよね。仲良い2人が一緒にいすぎると、このような関係って、ありがちな気がします。
でも、お互い長い付き合いの間に、色んな経験して、精神的に成長して行くので、色んな感情の経験を積んだ末に、素晴らしい友人関係が築けたなら、それは、素晴らしいこと。このような題材の話は、若い女子に多く読まれると思うので、できるだけ爽やかな結末が嬉しいですね^^

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ビオラさんへ (はまかぜ)
2012-04-25 21:32:14
そうですね、10代から30代くらいの人が多いです。

「かわいそうだね?」は、イライラする場面もあったり笑える場面もあったりで、なかなか面白い話でした。
隆大の中途半端な態度はイライラする人が多いと思います(笑)

「亜美ちゃんは美人」は複雑な心がよく描かれていました。
それでも長い付き合いを経て、ついに本当の友人関係になっていったのが良かったです^^
これは綿矢さんの作品の中でもかなりの良作だと思います
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面白かったです! (latifa)
2014-02-15 15:46:02
はまかぜさん、こんにちは。
これ、期待以上に両方とも面白かったです。

>自分自身が満たされれば、亜美への嫉妬もなくなるんだ。
私もここの部分は、ガーンと響きました。

表題作は、わたしならどうしただろう?と色々考えてしまいました。

身近なテーマを、とても興味深く、引き込まれ度マックスで書かれた本でしたね。
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latifaさんへ (はまかぜ)
2014-02-15 19:59:21
こんにちは!
亜美への嫉妬の部分は、まさに「ガーン」でしたね。
綿矢さんらしい心理描写だと思いました。

ほんとテーマは身近なんですけど、素晴らしく繊細な心理描写で読み応えがありましたね
綿矢さん史上屈指の良作だと思います
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共感できる作品 (りゅうちゃん)
2014-12-22 16:32:28
こんにちは。

女性同士の嫉妬というのはこういうものなのか。
それを知るだけでも読む価値があります。
逆に、男性読者こそ読む価値があったのかも。

ただ、綿矢は「まだ本気出してない」部分があると私は考えます。
だとすれば、この作品を手放しで評価することが出来ません。
「代表作は次回作」です。

ファンの方のブログに、こうしたことを書くのは心苦しいのですが、正直な感想です。
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りゅうちゃんさんへ (はまかぜ)
2014-12-22 22:15:32
こんにちは。
この作品の後、4つ単行本が出ているのですが、いずれも「かわいそうだね?」ほどの完成度ではなかったなと思います。
私の場合は、「まだ本気出してない」というより、本気を出そうにも上手く行かずに苦戦している印象を受けます。
「蹴りたい背中」の時、テンポの良さが良いなと思ったのですが、本人はそれを変えたいと思っていたらしく、そこから試行錯誤して今に至っています。
この「かわいそうだね?」はテンポの良さに頼らずとも心に訴える高い文章表現力を発揮していて、これがひとつの形なのではと思います。

綿矢さんであればいずれ必ず「蹴りたい背中」を大きく上回る傑作を出す時が来ると感じています。
私を読書好きにしてくれた作家さんでもあるので、今後も注目していきたいと思います。
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