読書日和

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「インストール」綿矢りさ

2007-03-10 18:33:15 | 小説
今日はかなり気合を入れて記事を書いています。
今回ご紹介するのは、「インストール」(著:綿矢りさ)です。
これは綿矢りささんのデビュー作です。
高校3年生という情緒不安定になりがちな時期を、登校拒否児となった主人公・朝子を通じて描いています。
朝子とマセた小学生の青木君が組んで、風俗チャットで一儲けするという話です。
この小説は不思議な魅力を持っています。
内容のほとんどに共感できるのです。

最初のページにこのような文があります。
「私、毎日みんなと同じ、こんな生活続けてていいのかなあ。みんなと同じ教室で同じ授業受けて、毎日。だってあたしには具体的な夢はないけど野望はあるわけ。きっと有名になるんだ。テレビに出たいわけじゃないけど。」

この文にはハッとしました。
高校生くらいのときは誰でも一度はこういうことを考えると思います。
具体的ではないけど何となく有名になった自分を想像する、そうありたいと願う、現実から目を背けたいという思いです。
僕も17~18歳くらいのときはそう思うことがありました。

この朝子の「嘆き」から始まる最初の6ページは、高校生の考えることを上手く捉えて書いてあり、読んでいて全てのことに納得してしまいます。
また、ものすごくテンポが良くて、面白可笑しく読み進められます。
綿矢さんの天性の才覚の成せる技だと思います。
綿矢さんは京都出身のようで、文章の言いまわしに関東とは一味違った独特な雰囲気を持っています。
文章と文章の間に切れ目がないというのか、とにかくテンポが良いのが特徴です。

高校生の、「沈黙を怖がる」「努力しているのを見せたくない」「ライバルに勉強させたくない」という考えを綿矢さんは的確に捉えています。
この3つ、全部そのとおりだと思います。
とにかく何か話をしていないと不安になる、何でも良いから沈黙から逃れたいという思いは、今の10代、20代なら思い当たる節があるはずです。
努力しているのを見せたくないのは、友達に自分が勉強していないと思わせたいという思いから来るものです。
中学や高校の定期テストのときなどを思い浮かべれば、意味がわかると思います。
ライバルに勉強させたくないというのは、努力しているのを見せたくないのと同じで、とにかく自分の身を守りたいのです。
友達が自分より高いところに行ってしまうのが怖くて、何とか阻止したい、でも友達にそれを悟られたくない、嫌われたくない、という複雑な思いがあります。
結局最終的には何も出来ないのですが…。
こういった思いを的確に見抜く綿矢さんはすごいと思います。
この小説を書いた当時綿矢さんの年齢は17歳です。
たとえ見抜いたとしても、普通は17歳でここまで書くのは無理だと思います。
でもそれができるのが綿矢さんなのだと思います。


青木君が朝子に風俗チャットのバイトを進める場面があるのですが、青木君のマセぶりに驚きました。
まだ12歳の小学生が、テレホンレディや風俗嬢を知っているのです。
青木君はメールを交換している女性がいて、その人の職業が風俗嬢みたいです。
これも今の世の中ならなくはないのではと思いました。
また、朝子と青木君がオンボロコンピュータを使って風俗チャットを始めてからの内容にも光るものがあります。
朝子が始めてお客さんを相手するときの文章がこうなっています。
「客が来たのだ。私は悠然と背筋を伸ばし、気分は博打女郎で、かかってきなさい、楽しませてあげるわ」

いかにも綿矢さんらしい言いまわしだと思います。
読んでいてオオッと思うような文で、次の展開に興味が向きます。
一つの文の中で情景描写と会話口調が一緒になっているのは今まで見たことがなくて、新鮮に感じました。

以下に綿矢さんの上手い言いまわしをご紹介します。
興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。
テンポの良さに時間を忘れて楽しめると思います。


「ぎらぎら煮えたぎって揺れ落ちる地獄の落陽」
「商売人よろしくあぐらをかいて座りなおして」
「沈、黙。」
「桜色の手切れ金達が次々宙を舞い廊下の上を滑る。」
「私に仕事を紹介してくれようとしている小学生の職安員」
「足の爪に塗られた赤いぺディキュアがその中で女泥棒の雰囲気を気取っていた。」
「正気というより、ピンぼけうつろですな。」
「気分は博打女郎で、かかってきなさい、楽しませてあげるわ。」
「小姑というより、もしかしたら、乙女なのかもしれなかった。」


※「インストール」再読感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。

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