伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

キャベツ

2007-12-16 20:16:34 | 小説
 父親が死んで母親が働きに出るようになって中2にして主婦の役割をすることになった少年が大学生になったときの高校生の妹・妹の友だちなどとの人間関係を描いた小説。
 主人公が飄々と主婦の役割をこなしてしまったがために仕事から帰ると何もしなくなった母親、食器の後片付けしかしない妹に囲まれながら、それでも特段恨みがましくも思わず友だちと遊びにも行かずに家事をこなし続けるお兄ちゃんという設定。子供は泣いていいけど大きくなった女の子は泣いちゃいけない、それはご飯を作らなきゃいけないからという母親の言葉(11~12頁)を糧に泣かないように決め、妹を怒らないことに決めた(42~43頁)主人公は、淡々とその役割をこなしていきます。これ、女の子に都合よすぎの優しい兄願望を絵に描いたようで、ちょっと読んでいて気恥ずかしい感じ。まあ、そういう感じを持つ男性読者には、妹の友人の美人のかこちゃんとのロマンスでサービスしてなだめ、妹側で読む女性読者には勝ち気の妹と大金持ちのぶっ飛んだおばあちゃんのコンビに爽快感を持たせて、そのあたりは作者の読者あしらいがうまいというか気を遣っている感じはしますけどね。
 父親が死んでもおばあちゃんの持っているマンション(いくつも持っているマンションのうち一番小さいやつ:149~150頁)住まいで、おばあちゃんの世話になればそもそも母親が働かなくちゃ生活できないわけでもない設定なもので悲壮感もなく、いろいろな意味で現実的でない設定ですが、だから安心して読めるほわっとした小品になっているといえるのでしょうね。


石井睦美 講談社 2007年10月31日発行
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肝心の子供

2007-12-15 21:46:49 | 小説
 ブッダの青年時代、ブッダの息子ラーフラの青年時代、その息子のティッサ・メッテイヤの青年時代を描いた小説。
 ブッダ自身のその後には関心を向けず、幼くしてブッダに見捨てられた息子、その息子にまた幼くして見捨てられた孫が、しかし特に父親を恨むこともなく淡々と独自の道を歩む姿を追っています。この3代の男たち、特にそう育てられたわけでもないのに、殺生は嫌いで獣にも虫にもさらには器や道具にも命があると考え、しかし人間関係には執着がなく簡単に家族を捨て去るところが共通点。
 これを軸に、他方に隣国の武力に走る野心家のマガダ国王に親子間の相克の悲劇を演じさせることで、ブッダ親子の執着心のなさを際だたせています。
 しかし、そのブッダ親子も栄達の姿は描かれず、どちらかといえばラーフラ、ティッサ・メッテイヤと次第に落ちぶれていく様が描かれ、その先にラストの解放された心象風景があるとはいえ、生き方については考え込んでしまいます。3代を見てティッサ・メッテイヤが一番無我の境地で(無我夢中というべきか)極楽に近づいたという評価なんでしょうかねえ。
 少し一文が長めの古いのか新しいのかちょっと不思議な感じの文章。その文体と相まって、軽い非日常感に浸れます。


磯憲一郎 河出書房新社 2007年11月30日発行
初出「文藝」2007年冬号 第44回文藝賞
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社員10人までの小さな会社の資金繰りがよくわかる本

2007-12-13 09:20:53 | 実用書・ビジネス書
 小規模会社の経営者が投資や借入等の判断をする際の会計上のポイントを解説した本。お金の借り方の本じゃなくてどうお金をやりくりするかの本です。
 利益が出ることとお金があることは違う(減価償却とか、在庫とか、売掛金回収と仕入代金支払の期間のズレとかが原因になるわけですが)とか、バランスシートの右側はお金をどうやって調達してきたがで左側はお金がどういう状態にあるかとか、設備投資のための借金の返済は減価償却の範囲内、お金が入ってくるのは銀行からと得意先(売上先)からの2つしかないとか、簡単に言い切っていく説明がわかりやすく小気味よい。
 税金は払った方が経営上もプラスという指摘は、税理士としての建前論にも見えますが、節税と称して不必要に経費を使って利益を減らす行為を戒めているのは、自営業者としては日頃の実感としても納得します。節税対策とか言って言い寄ってくる人たちっていかにも怪しげだし。
 会計の本にしては、とても読みやすい。
 あくまでも会計の視点からの指摘ですので、経営者からは会計のことばかり考えてたら経営判断にならないと言いたくなるでしょうけどね。


税理士法人上坂会計編 明日香出版社 2007年11月30日発行
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司法通訳だけが知っている日本の中国人社会

2007-12-12 08:12:07 | ノンフィクション
 研修生・実習生という形で実質的には低賃金単純労働者として来日している中国人たちの実情と送り出し側の中国の実情などをレポートした本。
 著者は日本人ルポライターで、司法通訳もしている中国人組合活動家の話を聞いてそれをまとめたもの。経験談の多くは、司法通訳としてのものではなく、中国人労働者の日本での受け入れ組織としての組合を作りそこでの活動によるもの。主人公とも言える中国人の立場は、基本的には中国人労働者の権利を守るための代理人・活動家ですが、日本人経営者側寄りの行動もしてみたり、ちょっと微妙。司法通訳としての経験談も、事件について独自の立場で調べたり説得したり、通訳としての仕事をかなりはみ出しています。司法通訳が本業ではなくて、組合活動家がたまたま司法通訳もしているという感じだからなんでしょうね。まあ、中国語でしゃべってたら被疑者・被告人と何話してるのかわからないんですが、本当に日本語訳しない部分でこういう話してるとしたら、法律家業界としてみれば困りものです。
 都市と農村で激しい格差のある中国人社会、研修生・実習生から中間搾取する違法・合法の送り出し組織、労働基準法も最低賃金法も無視して低賃金長時間労働させる日本の経営者たち、夢と日本の現実の落差に失踪したり犯罪組織に飲み込まれていく来日中国人たち。やるせない現実が綴られています。
 ちょっとストーリーというか本の流れはごちゃごちゃしている感じですが、一つ一つのエピソードは興味深く読めると思います。


森田靖郎 祥伝社新書 2007年11月5日発行
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ネット君臨

2007-12-11 07:36:41 | ノンフィクション
 ネットでの集団中傷やいじめ、児童ポルノの氾濫などのインターネットの負の側面をレポートした毎日新聞の連載の単行本化。
 タイトルや書き手側の意識はわりと大仰ですが、提言していることは、プロバイダーや掲示板管理者にログ(通信記録)の保存を義務づける、児童ポルノは単純所持も禁止、ネットが子どもの非行やいじめの温床にならないようにリテラシー教育を充実と、意外におとなしめ。
 匿名性などをめぐる議論は、構えた議論同士でかみ合わないありがちなパターン。あえてそれをやって、取材班は被害者の視点で見て欲しいだけだと言ってシンパシーを買おうとしてるのかも知れませんが。匿名だろうが実名だろうが、ネットだろうがオフラインだろうが、弱い者いじめや嫌がらせはやめるべきだし見ていていやらしい。それを何か大上段の議論でネットの自由だとか内部告発だとか実情にあわない例で正当化しようとするのは見苦しい。他方、新聞や週刊誌もよくやる警察に挙げられたら書きたい放題のメディアスクラムを棚に上げて「祭り」をネット特有であるかのように言うのも白々しい。ただネットの匿名性を必要なことと言いながら、相手が政治家や権力者ならともかく市井の一般人の実名を暴いて喜んでいる姿にはネット特有の嫌らしさを感じます。せめて匿名性が必要と論じるのなら他人の匿名性も尊重すべきだと、それは最低限のルールだと、私は思うんですが。


毎日新聞取材班 毎日新聞社 2007年10月20日発行
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欧州連合 統治の論理とゆくえ

2007-12-09 15:15:15 | 人文・社会科学系
 市場統合、単一通貨を始め国境を越えた統合をめざす歴史的実験のさなかのEUについて、統合や意思決定の実情、歴史等を解説した本。
 各国の利害と国民感情を抱えながらEUが合意を作っていく枠組みには、国際社会のあり方を考える上でも、通常の組織論としても大変興味を持ちます。合意形成の枠組み自体が、当初は理論でつくられ、交渉での妥協により種々の段階・例外が作られていく様は、理論的にはスッキリしませんが、実務的には納得できる、そういう世界です。理論を貫くとわかりやすいけど、きっと合意できずに、連合自体が崩壊していくのでしょう。
 拡大の過程で、加盟の条件として民主主義、法の支配、人権を含むコペンハーゲン基準の達成を求め、加盟が認められない場合にも同様の基準を要求しつつ欧州経済領域協定(EEA)等を通じて域内市場への参加を認める等の交渉を進め、それによって周辺の国を同一の価値を持つ国に変えていくというEUの戦略には、平和の確保のために軍事ではなく経済・外交を優先する着実さ・したたかさを感じます。こういうことが大人の政治だと思うんです。
 共産主義が崩壊し、北欧の高福祉社会も今ひとつ元気がない状況で、自由競争・弱肉強食に突き進むアメリカとそれに追随する日本という色あせた国際情勢の下で、ねばり強く人権の尊重を主張し続けるEUの姿勢には共感を覚えます。もちろん、うまくいかない現実も多々ありますが。
 欧州議会の事務局の所在地が「ルクセンブルク(ドイツ)」となっている(26頁)のは、たぶん単純なミスでしょう(ルクセンブルクはドイツの植民地と主張したい訳じゃないでしょう)が、岩波新書にしてはお粗末。


庄司克宏 岩波新書 2007年10月19日発行
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インド、チョーラ朝の美術

2007-12-07 21:51:04 | 人文・社会科学系
 南インドの古代王朝チョーラ朝時代の寺院建築と彫像についての解説書。
 石造りの巨大な門や塔とその側面等に彫り込まれた彫像に圧倒されます。美術研究書としてはもう少しカラー写真が欲しいと感じますし、解説も美術的な部分より、その前提としての王朝の歴史やヒンドゥー神話が大部分を占めています。
 ヒンドゥー教で民衆の信仰を集めるシヴァ神の像でも両性具有のアルダナーリー(右半身が男性のシヴァ、左半身が妻のパールヴァティ)の形をとるものや踊るシヴァ神ナタラージャの像がチョーラ朝時代の美術の中心をなしていることや、男女が一体となる姿が生命の誕生を意味し、またシヴァの恐ろしい踊りが宇宙を創造したというヒンドゥー神話などの解説に興味を引かれました。
 でもやはりヒンドゥー美術では、キリスト教や仏教系の美術では見られない豊満でありつつ優美な人間らしい神像がとても魅力的です。ギリシャ彫刻やルネサンスのような、しかしオリエンタルな表現が10世紀のインドで発展していたことに思いをはせるのは、ちょっとぜいたくな時間。まあ、私が高校生の時から古代インドに憧れてたからでもありましょうが。


袋井由布子 東信堂世界美術双書 2007年8月20日発行
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真夜中に戸をたたく キング牧師説教集

2007-12-03 22:33:16 | 人文・社会科学系
 1950年代~60年代のアメリカの公民権運動(黒人解放運動)の指導者だったマーティン・ルーサー・キング2世の説教集。
 日本語版では2003年発行の「私には夢がある」の続編。「私には夢がある」の方がキング牧師の指導した非暴力抵抗運動を語る説教・講演が比較的多かったのに対して、この本ではキリスト者としての生き方や信仰告白的な説教が多いように感じられます。
 その中でも「あなたの敵を愛せよ」と「アメリカの夢」は、運動的にも優れた説教だと感じます。「あなたの敵を愛せよ」で、敵をも愛すべき理由としてキング牧師が語ったのは、憎しみには憎しみをという考えは憎悪の連鎖・憎悪の悲劇を招く、破滅を避けるためには憎悪の連鎖を断ちきる強さが必要である、憎悪は憎悪の心を持つ人の人格を歪める、そして愛こそが/愛だけが人を/敵を変える力を持つこと(82~87頁)。この苦しくも美しい論理とともに、被抑圧者が抑圧に対処する方法としては、憎悪ではなく愛を持ってしかし譲歩せずに非暴力抵抗運動を行うことこそが唯一の方法でありまた現実的であるという認識が、このキング牧師の説教を裏打ちしていることは見逃せません。「アメリカの夢」では非暴力抵抗運動と愛を語った上で、キング牧師が1963年に行った「私には夢がある」の説教の後、その黒人と白人の共存の夢が度々悪夢に変わり粉砕されたことを告白しながら、しかし、なお「私には今朝、まだ夢がある」と聴衆に語りかけるキング牧師の言葉(135~137頁)の悲痛さ、せつなさとたくましさに感じ入りました。
 説教を続けて読むとどうしても同じエピソードが何度か使われていることに目が行きますし、全体としては、キリスト教会的な関心での編集が目につきますが、それでもなお素朴な感動に打たれる1冊だと思いました。


原題:A Knock at Midnight
クレイボーン・カーソン、ピーター・ホロラン編 訳:梶原寿
日本キリスト教団出版局 2007年9月10日発行 (原書は1998年)
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構想力

2007-12-01 00:30:00 | 実用書・ビジネス書
 将棋の永世名人の筆者が、先をイメージし見通す力としての構想力というか大局観を育てることについて論じた本。
 どちらかというと「構想力」を論じている部分よりも、勝負師として長く生き残り続けることの方法論と読むべきところの方が多く、まあ一種の勝負師の1人としてはそちらの方が得るところが多かったと思います。
 定跡から外れる勇気がないとトップには立てない(73~74頁)、攻め崩すために敢えて相手に攻めさせることも必要(99~101頁)、相手に怖さを感じさせられることが重要(136~139頁)、嫉妬は可能性の表れ(157~159頁)など含蓄のある言葉が並んでいます。
 相手の立場で構想しろ(相手のためにではなく、相手から見たらどう攻められるのがいやかとか、相手から評価すれば自分の手はどう見えるかとか)ということが繰り返し言われていて、なるほどと思いました。


谷川浩司 角川oneテーマ21 2007年10月10日発行
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