愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 61 ドラマの中の漢詩 39 『宮廷女官―若曦』-27

2017-12-30 11:16:51 | 漢詩を読む
話をドラマに戻します。雍正帝は、山と積まれた書類を前に、毎日その処理に追われている。傍近くで政務の手援けをしているのは、怡親王(第十三皇子)である。

若曦も帝の傍近くに仕えていて、お茶の用意をするなど、執務に追われる帝の緊張を和らげるよう心を砕いています。また若曦には、かつてと同様、義姉妹の契りをした玉檀が手伝いをしています。

帝は、常々、緊張した険しい表情であるが、若曦と接している際には顔が綻び、笑顔が見える。若曦に対していると、心が休まるようであり、またかつて約束したように、真心で接していることがくみ取れます。

怡親王の娘・承歓は、若曦に懐いていて、よく訪ねて来て一緒に遊ぶ。その様子を見た帝は、「私の子供を産んだ笑顔の君が見たい、それが私の幸せだ」と。最近の帝の接し方に真心を感じ取った若曦は、自分が“張暁”であることを忘れてしまっているかのようである。

そんなある朝、帝が執務中に片方の肩に違和感のあること訴えた。傍に居合わせた怡親王は、帝が「不要だ」というのを押しきって、医者の手配をする。「恐らく就寝の際、何らかの姿勢で肩が押さえられたのであろう」との診断。二人はお互い顔を見合わせて、素知らぬふり。

母の徳太妃の危篤の知らせを受け、皇帝として正装し、“今度こそは”と期待を込めて母を見舞った。母が発した言葉は、「何よりも後悔しているのは、反逆者を世に産み落としたことよ。私の息子はただ一人、十四皇子、お前ではない」と。

母に息子として認められなかったことばかりか、皇太后に就くことも拒まれた。帝の心の傷の深さは計り知れない。特に、皇太后の件は、即位の正当性について、世に示しがつかず、敵対勢力に格好の疑問の口実を与えることを意味する。

廉親王(第八皇子)は、帝位争いとしては“決着が着いた“と、冷静に現実を受け止めているが、臣下や仲間、特に第九皇子は、まだ諦めていない。帝は気が休まることはなく、廉親王らへの攻撃は、日増しに強くなっていきます。

帝は、かつて怡親王を10年間もの軟禁生活に追いやり、自分も自重せざるを得なくなった原因が、廉親王一派の策謀によると確信しており、“この怨みは、決して忘れるものではない”と事あるごとに、険しい表情で口にする。

非常に衝撃的なことが起こった。若曦は、義妹・玉檀が極刑の‘蒸刑’に処せられる現場を目撃したのである。“第九皇子が宮廷に送り込んだ密偵”であったことが判明したというのである。若曦のショックは並みではなく、倒れ込む。

怡親王と巧慧は、“懐妊中です、子供のためにも体を大事に”と、介抱しています。巧慧は、廉親王の側福晋・若蘭が病気で亡くなったのを機に、帝の計らいで若曦に仕えるようになっています。

若曦は、機を見て、玉檀の件で第九皇子を責めます。第九皇子は、“自分の手先になれたことだけでも幸運だ”と、うそぶき、強がる。しかし実は、深い悲しみに駆られて苦しんでいる。

第九皇子は、“その恨みを晴らさずにおれるか”と、重大なことを廉親王の嫡福晋・明慧に耳打ちします。第十三皇子の軟禁、第四皇子を自重に追いやった画策には、若曦の第八皇子への警告が基になっている と。

警告とは、かつて若曦が第八皇子に対して、“第四皇子に注意を”、“隆科多(ロンコド)や年羮尭(ネン コウギョウ)にも“と、情報を提供したことを言っている。

明慧は、若曦の居宅を訪ね、その旨を話し、「私たちの受けた痛みはあなたにも味わってもらう」と、第九皇子の言伝を告げて帰っていった。そこで若曦は、“すべての発端”は自分にあったのだと、自責の念に駆られていきます。

衝撃を受けた若曦は身体がふらつき、巧慧と怡親王に助けられつつ「私のせいよ、私が悪いんだわ」と口ずさむ。下腹部に激痛を覚えて、腹を抱えながら座り込み、「子供が….」と絞り出すように言うと、長衣に鮮血が広がった。

明慧が関わったことを知ると、帝は、廉親王を呼びよせて、「三日以内に離縁せよ」と勅命する。“勅命に背けば、一族郎党皆殺しに逢う”、と 意を決した明慧は、離縁状を認め、廉親王に無理に押印させる。

明慧は、「私の想い人は永遠に親王だけです」と言い残して、八王府に戻るが、そこで住まいに火を点けて自害した。火の手が上がって、駆けつけた廉親王には何ら手の施しようはなかった。

第九、十及び十四皇子は、それぞれ遠地に追いやられています。怡親王と若曦は、兄弟皇子たちをこれ以上陥れることのないよう諫めますが、帝は聞き入れません。そこで若曦はついに覚悟を決めます。

酒瓶を携えた若曦は執務室に飛び入り、一気に酒を飲み干して、怡親王に向かって、「私が警告したせいで、廉親王は第四皇子を陥れる策を考え、あなたを巻き添えにしてしまった。許して!」と、深々と頭をさげます。

また、帝に向かい、「子供も私が死なせたのも同然。仕掛けたのは廉親王たちだけれど、その発端は私よ。」「第八皇子たちにあんな真似をさせたのは、あなたの最愛の人よ。恨む相手が違っていたのよ」と。

帝は、拳を硬くして、顔色を変え、「黙れっ!」、「出ていけ!….、失せろっ!」と。独りになった帝は、やり場のない怒りを香炉にぶつけ、思いっきり蹴り倒した。

若曦は、体調も勝れない中で、かつて第十四皇子が、“もし皇宮を出たいのなら助けになる”と言ったことを思い出す。そこで我が身を第十四皇子の元に預けることを決意して、怡親王を介して第十四皇子に伝えます。

都から離れて恂勤郡(ジュンキングン)王となっている第十四皇子は、朝議の後、「先帝から指示された婚姻の許可が欲しい」と言って、雍正帝に聖旨を提示した。確かにそれは、今は亡き康熙帝のもので、“若曦を側福晋に”という聖旨であった。

第十四皇子が、大将軍王として華々しい活躍をしていた頃、西域討伐の功績として先帝が与えた褒美のようであった。雍正帝は、動揺を悟られぬように、拳に力をいれて、“沙汰を待つように”と告げた。

聖旨があったとは若曦も予想外であったが、「嫁ぐと言っても形だけよ。第十四皇子もわかっている」と、心配する怡親王に声をかけて、安心させます。

恂勤郡王の元に“嫁入り”した若曦と郡王は、いかにも仲睦まじい生活を送っているように見えた。そんなある夜、泥酔した群王は、若曦の部屋に現れ、皇位への未練を嘆きつつ、賀鋳(ガチュウ)の詞「六州歌頭」を詠んだ。

“血気盛んな若かりし日、同志と契りを結ぶ、
正義を貫き、不条理に怒りを燃やす、….。“

大将軍王として、華々しく活躍していた若き頃を思い出していたに違いない。若曦は、酔い潰れた郡王にそっと布団を掛けてやった。

賀鋳の「六州歌頭」については、後半の一部を既に紹介しました(閑話休題49、’17.09.06投稿)。今回は、その最初の部分に当たります。該当する数句の原文、読み下し文及び現代語訳を以下に挙げてあります。ご参照ください。(第28,29,30,31,32,33,34話)

xxxxxx
 六州歌頭   賀鋳
少年侠氣,  少年の 侠氣,
交結五都雄。交り結ぶ 五都の雄。
肝膽洞,   肝胆 洞(つらぬ)き,
毛髮聳。   毛髮 聳(そばだ)つ。
立談中,    立談の 中,
生死同,   生死を同(とも)にし,
一諾千金重。 一諾は千金の重み。
註]
五都:五つの都市、ここでは各地の大都市。唐代では、京都(長安)、河南(洛陽)、鳳翔(宝鶏市?)、江陵および太原
立談:立ち話、ちょっとした話
一諾千金:四字成語で“一度承諾したことは、千金より重い”。その故事は、既に紹介しました(閑話休題39、2017.5.20投稿)。
<現代語訳> 
若いときは男気をもって、
各地の英雄豪傑と交わりを結んで来た。
お互いに心を打ち明けあい、気心は互いに通じ合い、
毛髪がそばだつほどに、意気盛んであった。
ちょっとした話の中でも、
生死をともにし、
一度承諾したことは千金より重く、信義を貫き通してきた。
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