非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本の経営者に欠けているもの

2015-11-13 23:41:37 | 雇用・経済

 ちょっと長くなりますが、前フリとして古典的なコピペを一つ。

 

メキシコの田舎町。海岸に小さなボートが停泊していた。メキシコ人の漁師が小さな網に魚をとってきた。その魚はなんとも生きがいい。それを見たアメリカ人旅行者は、「すばらしい魚だね。どれくらいの時間、漁をしていたの」 と尋ねた。

すると漁師は「そんなに長い時間じゃないよ」と答えた。

旅行者が 「もっと漁をしていたら、もっと魚が獲れたんだろうね。おしいなあ」と言うと、漁師は、自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だと言った。

「それじゃあ、あまった時間でいったい何をするの」と旅行者が聞くと、漁師は、「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊んで、女房とシエスタして。 夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」

すると旅行者はまじめな顔で漁師に向かってこう言った。

「ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した人間として、きみにアドバイスしよう。いいかい、きみは毎日、もっと長い時間、漁をするべきだ。 それであまった魚は売る。お金が貯まったら大きな漁船を買う。そうすると漁獲高は上がり、儲けも増える。その儲けで漁船を2隻、3隻と増やしていくんだ。やがて大漁船団ができるまでね。そうしたら仲介人に魚を売るのはやめだ。自前の水産品加工工場を建てて、そこに魚を入れる。その頃にはきみはこのちっぽけな村を出てメキソコシティに引っ越し、ロサンゼルス、ニューヨークへと進出していくだろう。きみはマンハッタンのオフィスビルから企業の指揮をとるんだ」

漁師は尋ねた。
「そうなるまでにどれくらいかかるのかね」

「二〇年、いやおそらく二五年でそこまでいくね」

「それからどうなるの」

「それから? そのときは本当にすごいことになるよ」

と旅行者はにんまりと笑い、

「今度は株を売却して、きみは億万長者になるのさ」

「それで?」

「そうしたら引退して、海岸近くの小さな村に住んで、日が高くなるまでゆっくり寝て、 日中は釣りをしたり、子どもと遊んだり、奥さんとシエスタして過ごして、夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって過ごすんだ。 どうだい。すばらしいだろう」

 

 この中に、日本の経営者に決定的に欠けている視点があるように思います。それはすなわち「株を売却して~億万長者になる~そうしたら引退して~」 という行ですね。これを実践している日本の経営者は、実に少ない。成功して億万長者になって悠々自適の日々を送ろうとするよりも、経営者の地位にしがみつく方を好むのが日本のオーナー社長ではないでしょうか。もちろん創業者として巨万の富を懐に入れはする一方で、働かずとも金持ちとして人生を楽しめるようになっても尚、社長業を続けたがるのが「日本的」と呼ばれるべきものではないかと私は思います。

 ある調査によると特殊詐欺に関わった人の2割弱は「金銭目的ではない」のだとか(参考)。働くのは金のためではない、「やりがい」なり「社会的貢献」なりの美辞麗句を優先する日本社会を端的に表わしていると言えそうです。会社経営もまた然り、必ずしも「金持ちになりたいから」ではなく、むしろ「社長として組織のトップに君臨すること」の方をこそ欲しているのが日本の経営者なのかも知れません。だからこそ、株式を売却して億万長者としての余生を送るより、業績が傾こうとも社長の座に固執しては従業員の締め上げに熱心になっている、そういう経営者が多いのではないでしょうか。

 

カレーのココイチ、創業家の鮮やかな引き際 超優良企業がハウス食品の傘下に入る意味(東洋経済)

そのココイチが、ハウス食品グループ本社の傘下に入る。言わずと知れた「バーモントカレー」「ジャワカレー」「こくまろカレー」などのカレー用ルウで首位の食品メーカーだ。壱番屋はハウス食品からすでに19.5%の出資を受けているが、ハウス食品のTOB(株式公開買い付け)を経て連結子会社となる。TOBが完了する見通しの12月1日にはハウス食品の出資比率は過半の51%まで高まる見込みで、一連の買収額は約300億円に上る。

(中略)

にもかかわらず、あえて悪く表現すると「ココイチがハウス食品に身売りした」という解釈もできるのが、今回の話である。これにはどのような背景があるのだろうか。謎を解くカギは創業者の宗次徳二さん本人と、その妻である直美さんが代表を務める有限会社ベストライフが併せて約22%の壱番屋株を保有する「創業家」にある。今回のTOBを経て、宗次家はその保有株をすべてハウス食品に売却することが決まっている。

宗次徳二さんは2002年に経営の一線を退いてからは、名古屋・栄に私財を投じて「宗次ホール」を開設。クラシック音楽の普及などのボランティア活動を進めており、株の売却資金はボランティア活動の原資に充てるそうだ。もともと壱番屋にハウス食品が資本参加するきっかけとなったのも、同じ事情だという。

創業家が経営に重大な発言権を持つ大株主でなくなってしまう。つまり、ココイチのビジネスモデルをつくりあげた創業家がいっさい身を引く、というのが重大なポイントである。

 

 ココイチのカレーはあまり好きにはなれませんけれど、ここで紹介されているのは好事例として他社にも見習って欲しいと思います。どうにも我が国では中小――というより弱小――企業が従業員の犠牲の上に延命している場合が多いわけですが、これは実に不幸なことです。ただ一人、「社長であり続けたい」という欲望を満たしている人を除いては、でしょうか。むしろ「弱い企業」は積極的に「強い企業」に自社を「売る」ことを考えて欲しいところです(ココイチは割と強い方、と言うのはさておき)。「会社を保持し続けたい」という中小経営者の欲望のために無理な経営を続けるよりも、大企業の一部に入った方が従業員のためにもなるケースは多いことでしょう。

 中小企業と大企業とでは単に賃金水準が違うだけではなく労務管理ひいては健康管理も違う、生活習慣病の割合も企業規模次第で大企業と中小企業との間には経済格差だけではなく健康格差さえもが歴然と存在するのが実態です。どうにも日本では「一国一城の主」であることが好まれるようですが、「より大きな企業の傘下に入る」というのも賢明な選択肢として、もっと検討されるべきではないでしょうかね(とりわけココイチのように、経営が悪化してからではなく高値で売れる頃合いを見計らっての身売りは最良の事例です)。中小企業同士が生き残りを賭けた過当競争を続けるよりも、積極的に大企業への集約化が進められる方が合理的でもあります。それは日本の経済界にとっても労働者にとっても良いことですから。

 

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2 コメント

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Unknown (nordhausen)
2015-11-15 11:01:13
>どうにも我が国では中小――というより弱小――企業が従業員の犠牲の上に延命している場合が多いわけですが、これは実に不幸なことです。

こういう問題こそ改善すべきでしょうね。実際、従業員を安く使い続けている上に、外国人研修生を酷使しているような企業が蔓延していますから。こういう企業は、大企業の傘下に入って賃金待遇などを見直すべきだと思います。
Unknown (非国民通信管理人)
2015-11-15 23:19:18
>nordhausenさん

 もっと早い段階から積極的に「会社を売ること」を考えて欲しいと思うんですよね。いずれは会社の業績に陰りが差すときもある、そうなっても会社を生き残らせるために従業員なり外国人研修生なりに違法な「働かせ方」を強要しているのが現状であるわけで、これを「後手後手」と言わずして……ですから。

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