非国民通信

ノーモア・コイズミ

それでも教えてエロい人

2009-05-31 22:12:47 | ニュース

性暴力ゲーム規制強化へ、与党が流通歯止め検討チーム(読売新聞)

 少女らをレイプして妊娠・中絶(←筆者注、やや誇張アリ)させる過程を疑似体験する日本製パソコンゲームソフトに、国際人権団体などが抗議を行っている問題で、自民党は29日、同種のゲームが多量に流通している状況に歯止めをかける方策を検討するチームを発足させた。

 公明党も今月中旬に検討チームを作っており、与党内で規制強化をめぐる議論が本格化しそうだ。

 自民党で29日に発足したのは「性暴力ゲームの規制に関する勉強会」。先進国のなかでも性暴力関係のゲームや児童ポルノへの規制が緩いと指摘されていることを踏まえ、関係省庁からヒアリングを実施。今後も会合を重ね、規制強化の必要性を検討していくことになった。

 出席した野田消費者相は「子どもを守るバリアが日本ではきわめてルーズだ」と指摘。座長の山谷えり子参院議員も「日本のコンテンツ産業をさらに発展させていくにも、こうしたゲームで信頼を損ねてはいけない」と話した。

 公明党も性暴力ゲームの問題を考える合同プロジェクトチームを今月中旬に発足。太田代表や国会議員らで秋葉原のゲームショップの視察を行い、有識者のヒアリングも行った。

 また、自民党の会合に出席した経済産業省幹部は、パソコンソフト業界の自主審査機関によるこれまでの対応として、〈1〉問題の性暴力ゲームの販売中止を流通関係企業へ要請し、国内で購買はほぼ不可能になった〈2〉「陵辱系」と呼ばれる性暴力もののゲームソフトは製造・販売を禁止する検討を行っている--と説明した。

 局所的に話題になっているこのニュースですが、なにしろ男性向けアダルトゲーム(以下、エロゲー)には知識のない人が圧倒的多数を占めることから、色々と的外れな批判や論議が続き、空回りしている印象も拭えません。もうちょっと批判の対象のことを「知った上で」評価して欲しいところです。

参考、今夜も教えてエロい人

 詳細は上記リンク先にて扱ったことですが、まず2月の段階でイギリスの議員が日本のエロゲー「レイプレイ」を取り上げて規制を要求しました。その後は小康状態かと思いきや、5月に入って国際人権団体による抗議があり、問題が再燃したわけです。そして山谷えり子など政府与党筋でも規制を検討、業界団体であるコンピュータソフトウェア倫理機構(以下、ソフ倫)がいち早く自主規制に走ると伝えられています(TBSによるトバシ記事らしいですが)。この辺までは「普通の」人でも知るところでしょうか。

 そこで、もう一つ知って欲しいことがあります。まず槍玉に上げられた「レイプレイ」というゲームは2006年4月の発売です。まるで生鮮食品のように発売直後のゲームしか店頭に並ばないこの業界では、まぁ入手困難ではないにせよ過去の作品です。そしてこのゲームを発売したメーカー、当該策を最後に、陵辱色のある作品は一切、発表していません。物議を醸すよりもずっと前から、自主的に凌辱系のタイトルの開発を中止しているわけです。それなのに今さら人権団体からの抗議を受けても困惑するばかりでしょう。何しろ3年前の話です。今頃になって「あんな真偽の疑わしいメールを裏も取らずに国会に持ち出すとは何事か、前原氏は責任を取って民主党代表を退くべきである」と批判されるようなものです。お前はいったい、いつの時代に生きているのか、と。

 人権団体の抗議よりも政府の規制よりも業界団体の自粛よりも先に、各メーカーが凌辱系タイトルの開発を取り止める、エロゲー業界ではよくあることです。なぜなら、それがファンの声だからです。アダルトビデオにヌードグラビア、官能小説や成年向け漫画とポルノも色々ありますが、そんな中でもエロゲーの際立った特徴は、その購買層が極めて性的に保守的である(参考)ということなのです。

 実際のところ「凌辱イラネ」という声が2ちゃんねるのエロゲー板や(あれば)大手メーカーの掲示板あたりでは完全に多数派だったりします。メーカーもそういう「お客様」を相手に商売するわけですから、売上を伸ばしていくに従って、自然と性表現も保守的で穏やかなものにシフトしていくのがエロゲー業界の常なのです。私などは前衛派ですから、「ファッキンなクソ野郎どもの声なんか気にするこっちゃねーですよ、このままもっと、イカレたクレイジーなエロを追い求めてくださいな」と、毎回アンケートに書くわけですが、どうしてもメーカーの規模が大きくなると、売れ筋の路線――陵辱色ナシ、男(主人公)一人が選り取り見取りの女の子とイチャイチャするだけのハーレム路線――にシフトしたきり、もう戻ってこなくなるのです。

 問題の発端になった「レイプレイ」の制作元がそうであったように、エロゲー業界では、売れれば売れるほど性表現は大人しくなる――父権的になる傾向にあります。だから抗議などせずとも、過激な性表現は広がらない、放っておいても同様の変化は期待できたはずなのです。それが無知ゆえに誤った対象に抗議しているのが実態でしょうか。人権団体(Equality Nowだそうで)の主張そのものは筋が通っているにせよ、なんとなく場違いな印象を拭えません。時期的なものも含めて、ですね。喩えるなら、今頃になってカナダ人を相手に「ブッシュ政権の存続を許していいのか?」と問いかけるのと同じくらい……

 問題の「レイプレイ」にしても、エロゲー購買層の主流派である「凌辱イラネ」という声に対応すべく「凌辱シーンをスキップできる」システムが組み込まれていました。それでもファンの評価は今一つでした。「嫌なら見なければいい」で済まされるものではなく、凌辱シーンが含まれていること自体に嫌気を感じるファンが多かったのです。だから開発元は次回作以降、陵辱色を完全に排除するに至ったわけですが、通常はこうした「ファンの声」によってもたらされる変化が、今回は人権団体や政府の「外圧」によってもたらされようとしています。

 規制の方向性自体は、エロゲー購買層多数派の望んできたものと変わらないように見えるのですが、日本の場合はサブカルを好む層、オタク層が極右と重なる傾向が強いわけで、そうした人々は排外主義や人権への憎悪から、今回の規制に反発しているようです。日頃の主張を忘れて、ですね。

 極右サイドからのエロゲー擁護の中には、エロゲーなどのアダルトメディアの存在が、ガス抜きとなって性犯罪を抑制している、というものがあります。日本の性犯罪は少ないじゃないか、と。ただ、例えば強姦件数を見ると、日本より強姦件数が少ない国は軒並みイスラム教国だったりします。つまりレイプも「誘惑した女性の罪」になる社会でこそ性犯罪は少ない、同様に「女性にも落ち度があったのではないか」と政治家ですら口にするような国だからこそ、日本の統計上の性犯罪は少ないのです。「ガス抜き」の影響は希望的観測に過ぎません。むしろ保守的なエロゲーの性道徳観が、日本的なるものを育てている可能性だって考えられるのではないでしょうか。

 私が保守的と呼ぶところのエロゲー、端的に言えば「ハーレム型」なのですが、売れているのはそういうものです。作中で性行為に及ぶ(権利がある)男性は主人公一人、そして主人公を待ちわびるヒロイン達、ヒロイン達が主人公以外の男から触れられることは厳禁です(大手がそれをやったら、「地雷」とか「鬱展開」と呼ばれ、マジで脅迫状が送りつけられる業界なのです)。ヒロイン達の性は男主人公の後宮に留め置かれ、それが男女双方にとっても幸福なものとして描かれる、それが売上ランキング上位を占める主流派エロゲーです。「凌辱系」を規制してこういう世界観を残すとしたら、山谷えりりんのような父権主義者には望ましいかもしれませんが、人権団体にはどうでしょうね?

 ともあれ「凌辱系」のエロゲーは、そう滅多に売上上位には来ません。業界団体からすれば、切り捨てても大した痛みのないジャンルです。右翼団体が押しかけてくる前に、映画「靖国」を自主的に上映中止にする映画館が相継いだ一件が思い出されますが(参考)、大して利益にならないもののために批判を被るリスクを冒すより、強制的な手段が取られる前に「自主的に」業界側で規制してしまおうと、どうもそういう方向で話が進んでいるとも聞きます。日本のサブカルには、カウンターカルチャーとしての側面なんて微塵も存在しないですから。

 そもそも、エロゲー業界なんてニッチな世界です。誰もロクに知らないからこそ危険視される、規制論議もスムーズに進むわけですが、そんな小さな業界の、その中でも「売れない」ジャンルを規制することの意味ってどうなのでしょうか? そりゃ、時にはフィクションが悪い影響を及ぼすこともある、「凌辱系」のエロゲーに全く問題がないわけでもないのでしょうけれど、そこまで重大なものでもないような気がします。むしろ「小さい」上に「知られていない」からこそ規制もかけやすい、表現規制の第一歩としての意味合いの方が大きくなるような……

 

 ←エロは力です

 

 ちなみに、業界団体は速やかに自主規制を決定しましたとさ。人権団体の抗議は決して受け容れないのが美しい国の流儀ですが、エロゲー業界だけは例外のようです。 → 意思決定の早さだけは超一流


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5 コメント

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Unknown (vey)
2009-06-01 03:57:23
たまに「よくこんな製品の審査を通したな」っていうタイトルもありますね(レイプレイみたいなソフト)。流石にその辺りは審査で今後積極的に蹴り落としてほしいです。一人の保守的なエロゲ愛好家として(笑)
右翼と左翼の話ではありませんが、ジャンルによっては先鋭化してる印象を受けます。倫理的な意味で自重してみてはどうかと、最近よく思います。

mixiでもこの話の記事についてコメントがたくさんあったのですが、双方とも主張が明後日の方向で面白かったです。
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Unknown (あぐりこら)
2009-06-01 21:20:31
> ジャンルによっては先鋭化してる印象を受けます。
先鋭化してますか?

俺は10年以上エロゲ野郎をやってますが、管理人さんの見解に賛成です。昔は色々「とんがった」作品があったものですが、姿を消して久しいです。
返信する
いっつも同じこと (ベースケ)
2009-06-01 21:59:17
やぁやぁやぁ、ども、エロの話に喰いつかない訳にいかない、ロックンロール非核三原則ベースケです。

さて、日本では必ず「内容」が問題視され、それを誰でも見ること買うことが出来る「状況」が問題視されますね。バッカみてーですマジで。コアなものは”コアな店”で堂々と身分証明書を提示して買えばいいのに。この際その内容がどれだけ鬼畜でも構わないと思います。それらは結局のところ「エンターテインメント」なのだから。
しかしこの問題は完全に、ひどく逆説的です。つまり

>「凌辱系」を規制してこういう世界観を残すとしたら、山谷えりりんのような父権主義者には望ましいかもしれませんが、人権団体にはどうでしょうね?

この部分ですよね。若い層にまで根強い男尊女卑的人権感覚を浮き彫りにする形となりました。まるでイスラム世界のようです(…ってこんな書き方するとマズイ?)。
皆、変な人たちに騙されず『私とあなたとは別の人間です』という言葉を噛みしめて欲しい。
返信する
Unknown (sutehun@エロばんざーい)
2009-06-01 22:06:02
エロくて悪いかとはいいません。
スケベで悪いかといいます。

それはともかく。
まあプレイしてると、シナリオライターやデザイナーの皆さんは後宮状態を演出するためにいろいろ腐心してるのかもねーとか思ったりもします。
ただ、練った設定がそっち方向にしか活かされてないっぽいシナリオもあったりして、それはそれでどうなんだろうなーとかなんとか。
あんまりぶっ飛んじゃうと商品売れなくなってサムイことに……って業界でもありますから、ビミョーにしかたないなーとか思ったり。いきなりHP畳んじゃうメーカーとかありますし。
客商売は辛いッス。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-06-01 23:17:54
>veyさん

 まぁ、veyさん辺りの感覚がエロゲー購買層の最大公約数的なものですよね。人権団体(+山谷えりりんと愉快な仲間達)の主張は、実はエロゲー購買層の声でもある。むしろエロゲー業界に求められるのは、規制に反対すること以前に、ファンの声を毅然として退けることなんでしょうな。

>あぐりこらさん

 とんがった作品は――まぁ「舌が肥えた」せいかもしれませんが、最近は少ないですね。キラリと光るものを感じさせた制作元も、売上を伸ばすにつれて表現が大人しくなったり。エロゲーなんですから「これはヤバイ」と我々の度肝をヌク作品がもっと出てきて欲しいですよ。

>ベースケさん

 そうなんですよね、ゾーニングで十分だと思うわけですが、どうにも偏った規制が為されようとしている、喩えるなら過激に反抗を叫ぶ様な音楽が規制され、ファミリー向けのアイドルの歌が残されるみたいな印象もあります。イスラム社会では「処女でない」という理由で離婚が認められるようですが、エロゲーマーはヒロインが「処女でない」という理由でメーカーに脅迫状を送りつける、こういう価値観が養われている辺りこそ、人権団体は問題視して欲しいと思いますね。

>sutehunさん

 購買層の好むハーレム状態を演出するために、色々と無理をしているシナリオや設定も多いですよね。義母(処女)とか。多くのエロゲー購買層が求めているのは、エロエロな女の子じゃなくて「女の子を独占する自分」みたいな印象も受けます。気に入ったメーカーには「自分達の描きたいエロを貫いてください」とかメッセージを送るわけですが、メーカーが存続するためには、そうも行かないようで……
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