非国民通信

ノーモア・コイズミ

Hey mr. porno star!

2008-05-29 23:32:39 | 編集雑記・小ネタ

 世の中にはとんでもないヨタや、根も葉もないデマ、都合良く塗り固められた大本営発表など、諸々の実態に即さない言説が満ちあふれているわけです。そしてそれはしばしば何らかの権威――政治家や御用学者、大手メディアの口からも語られ喧伝されるものですが、それがどれほど明白な偽りに満ちていても、往々にして有権者や視聴者はそれを信じ、その偽りは真実として許容されます。その話が信憑性、説得力、確かな裏付けを欠いていたとしても、そこに横たわる誤解や偏見が受け手と共有されている限り、どんないかがわしい話も容易く信用されてしまうわけです。

 たとえばそう、外国人犯罪の脅威とかモラルや規範意識の低下とか、実情に合致しない風説が絶えず流布されているわけですが、この風説の受容者である国民の間に誤解や偏見が十分に浸透していれば、いかに実態に即していなくとも信頼されてしまうものです。そしてこの国民と誤解や偏見を共有し、目の前にある現実ではなく思いこみに基づいて行動することを「国民の目線に立つ」と呼んでいるわけでもあります。さて、先日もあるオバハン(職業:国会議員)が大変に国民の目線に立った問題提起をされたとか。曰く「街中に氾濫している美少女アダルトアニメ雑誌やゲームは、小学生の少女をイメージしているものが多く、このようなゲームに誘われた青少年の多くは知らず知らずのうちに心を破壊され、人間性を失っており~

 さて、国民の目線に立たない私がリベラルなポルノ通の視点を御紹介いたしましょう。ま、ポルノ通と言っても女性向けのポルノには精通しているわけじゃございませんし、男性の同性愛者向けのポルノも某野球選手が出演してた奴ぐらいしか見ていないわけで、基本的に男性の異性愛者向けのポルノが主たる守備範囲ではありますが。

 で、ここで言及されている「美少女アダルトアニメ雑誌やゲーム」ですが、皆様実態はどの程度ご存知なのでしょう? 少なくともこの発言の主である円より子氏は何か誤解したまま批判しているような気がします。ある意味で、朝日新聞を左寄りだと信じて、それを叩いているネトウヨと同レベルの勘違いがあるような気がするのですが、まぁそれも国民の目線でしょうかね。

 特にゲームの方ですね、美少女アダルトゲーム、通称エロゲーです。たぶん円より子やその他諸々の人が抱いているエロゲーのイメージと実際のエロゲーの中身は決定的に食い違います。規制を加えようとする人はエロゲーを反道徳的なもの、暴力的なもの、変態的なもの、陵辱色の強いものと、そういうイメージで捉えているのではないでしょうか。まぁ、そういうエロゲーもないでもありません。しかし、売上ランキングの上位30位くらいまでを制圧しているエロゲーというのは、全く違うのですな、これが。

 で、売上ランキングの上位を常時独占している主流派のエロゲー(以下、何の留保もなくただ「エロゲー」といった場合はこの主流派を指します)ですが、この辺を他のポルノと一緒にしてはいけません。一般にポルノと言ったらエロを追求する世界ですが、エロゲーは違うのです。他のポルノを叩くのと同じ感覚でエロゲーを叩いている、擁護している人もいるわけですが、それは概ね勘違いに基づいています!

 まず、売れ筋のエロゲーに暴力など存在しません。エロゲーの女の子達は「自主的に」男主人公に傅くのであり、力ずくで女性を服従させるようなエロゲーは売上ランキング上位には顔を出しません。大半のエロゲー購買層は明示的な力関係が顕在化されることを嫌い、それがあたかも本人の意思で行われ、双方にとって好ましい関係であるかのように描かれていることを好むわけです。エロゲーの中で描かれているのはヒロインが力ずくで屈服させられるようなシーンではありません、「喜びを持って」主人公に跪く世界なのです。

 ともすると、強制された関係よりも自主的な関係の方が好ましく、前者は規制されるべきだが後者は許容されるべき、そう考えられることもあるでしょう。エロゲー購買層の多くは実際にそう考えます。ところが違うのです。主人公にとって好都合な状況が、何らかの強制によって作り出されていることが明示されている場合よりも、それが隠蔽されている、自覚されない場合の方が遥かに危険なのです。

 たとえば植民地支配を考えてください。植民地の人が入植者を笑顔で迎える場面を想定してみましょう。その笑顔が支配者の強制によるものであると、そう理解されている場合と、それが全く自覚されず、「我々は歓迎されているのだ、我々の支配はよいことなのだ」と確信している場合、どちらが危険な考え方でしょうか?

 少なからぬエロゲー購買層は、女の子が「喜びを持って」主人公に跪く世界に共振しており、女性の性が一人の男性の管理下に置かれること、独占所有下に置かれることを当然と考え、これを双方にとって善い関係だと感じています。言うまでもなくこの関係は明白な支配関係なのですが、エロゲーの世界ではこれが力による強制に拠ってではなく、女の子の自主的な意思によって実現されます。そして自主的な意思によって実現されるが故に、そのような関係こそが正常なのだとをエロゲー購買層は確信を深めてゆくわけです。

 実際、エロゲー購買層の女性の性に対する考え方は驚嘆するほど保守的です。主人公以外の男性と(そう、売れ筋のエロゲーは常に一人の男性を中心に回ります)関係を持つような女性は売女として罵られますし、処女であるかどうかで評価が大きく変わります。セクシーであることよりも、貞淑であること、貞淑でありながら主人公にだけは積極的に奉仕すること、こういうモデルが求められているわけです。逆に言えば主人公の手の中に収まらないような奔放なヒロイン、開放的な性は憎悪の対象であり、堕落した罪ある女と見なされさえします。深夜に街をぶらついている女や米兵に声を掛けられて付いていく女などレイプされて同然、そういう思考をエロゲー購買層は強く持っていますし、中には名誉の殺人を肯定するような人さえいるのです。

 主流派のエロゲーは保守的な性道徳観を、男性の元に女性の性が管理されるべきとする閉鎖的な理想を鼓舞し続けています。私のようなガチの性解放論者にとってヴィクトリアニズムに侵されたエロゲー業界はポルノ界の同志であると同時に相反する敵でもあるのです。ですから私であればエロゲーを「女性の性を封じ込めようとしている、性を後宮に押し込めようとする思想を育てている」として批判したいくらいです。

 一方で政界の規制派は、どういう観点からエロゲーを批判しているのでしょうか? 常に一夫一婦で性はその内側に限定されるべきとか、女性は結婚するまで純潔を守るべきとか、そういう保守的な性道徳の信奉者であるならば、エロゲー批判は的外れです。自分と同じ性道徳観の唱道者を批判してどうする? 新自由主義者が朝日新聞を叩いたり、ネトウヨが中国政府を批判したり、それと同じような間抜けさを感じるのです。エロゲーってのは保守なのですから、保守派は自分達の同志を増やすためにエロゲーをむしろ薦めるべきなのです。まぁ某議員の性道徳観など知ったことではありませんが、エロゲーが煽っているのは何なのか、その辺を理解してから批判した方がより正確な問題提起は出来るかと。それが一般の理解を得られるかは、これまた知ったことではありませんが。

 

 ←応援よろしくお願いします

 

参考、エロゲー購買層の女性観は↓こちら↓が好例かも
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1134354.html

追記、関連記事としてこちらも
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/879d0cf0548330ca3282f6c6acb408e7


コメント (10)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 今は反省している | トップ | 変わらないもの »
最新の画像もっと見る

10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Bill McCreary)
2008-05-29 23:49:22
私はエロゲーには詳しくないのですが、基本的に保守的なものが人気があるという説には説得力があります。ある意味、「暴力」その他の物理的な圧力で他人を支配するよりは、「納得させて」支配する方がずっとやりやすいし、楽しいですしね。

次元は違いますが、確信的な稲田朋美などとちがって、円より子という人は、(たぶん)本気なんでしょうね。善意と誤解が他人に迷惑をかけるというのは、世の中珍しいことではありません。
返信する
この見方は (おさふね)
2008-05-30 02:21:30
完全に頭の中から抜け落ちてました。
確かに「自主的な献身」の考察は非常に重要だと思います。
これは全く頭にありませんでした。
返信する
「ウヨク≒ジェリド-モテ要素」という理解で良いですかね? (貝枝五郎)
2008-05-30 11:01:15
再度ゼータガンダムネタで申し訳ないんですが、ウヨクはおおまかにみて、ジェリド=メサからモテ要素をさっぴいたイメージでとらえて間違いないんですかね?

「ジェリド・メサ:セリフ一覧」
http://www1.ocn.ne.jp/~nihiro/jerid.html

いや、上記のページにあるような「オレはオマエほど人を殺しちゃいない!!」という、軍人としての無能ぶりを公言するほどのヒドイ矛盾ははさすがにないでしょうが(…いや、それくらいの矛盾もあるかな?)あまりに墓穴ほりまくりのウヨクの言動を見聞きするに、そう考えざるを得ないほどに違和感を感じるのです。そんなウヨクが一定程度支持される理由も、ジェリドがカミーユ以上にモテる理由と同じくらいに理解不能だ。
返信する
あえて規制派のいうことでただしいと思えるものを挙げると (貝枝五郎)
2008-05-30 11:25:15
たしかに『超エロゲー』(太田出版)の24~25ページに紹介された「天使たちの午後」のように、絵柄的には現代的なエロゲーに近いというか現代的なエロゲーの基盤となったと思われるのにストーリ-的には『戦前の少年犯罪』のように殺伐としている作品が一定程度の支持を得たことは認めざるをえまい。また、ファンを敵に回すという「エヴァンゲリロン」(http://anime.geocities.jp/manganomusi2006/mv2.html)もとい「ガイナックス」のような荒行をエロゲー黎明期に敢行した「ロリータ三部作」(完結編の「ファイナルロリータ」はもとより「下校チェイス」も十分ヤバい)の存在を認知しないわけではない。しかし、全般的にはむしろ、この「非国民通信」の記事自身や上記のBill McCreary氏の主張にあるようにエロゲーのイデオロギーは保守的であるといえよう。『電波男』など、本田透氏の一連の著作もその線上にあるように感じる。
その状況下で、表現規制推進のための方便ではなく本気でイデオロギー的に対立する集団としてエロゲーメーカーおよびユーザーを指弾するのなら、どう考えても根本的に矛盾しているとしか思えない。石原慎太郎が北京五輪に行くのと同じくらい矛盾しまくり。「タカマサのきまぐれ時評2」ではないが、露骨な矛盾を冷笑する気にさえなれない。
返信する
関連して、看過されていそうな問題 (貝枝五郎)
2008-05-30 11:46:32
今回の記事の本題は右派の矛盾を付くことにあるのだとおもうので少し筋違いかもしれませんが、実在する人物の場合であっても、「ポルノ」という定義が曖昧(もしくは不可能)な用語をつかうことの問題点を指摘いたします。

http://picnic.to/~ami/repo/youbousyo2.htm

以前にもここで書かせていただいたと思いますが、児童の性問題は(1)性的自己決定権(2)肖像権(3)児童労働の3点で解決できるとおもいます。仮にそれだけでは無理であっても「ポルノ」という用語には、そもそもその定義の困難性(あるいは不可能性)による問題があるので別の論法で立論すべきと考えます。
返信する
Unknown (kama)
2008-05-30 14:50:52
ハハハ、面白い視点だなぁ。さすがブログ主さん。
表現規制の面からしか考えてなかったけど、なるほどね。
日本会議プロデュースのエロゲが出る日も近い?
返信する
反中は『停滞の論理』 (単純な者)
2008-05-30 15:16:38
こんにちは。

〉新自由主義者が朝日新聞を叩いたり、ネトウヨが
〉中国政府を批判したり、それと同じよ〉うな間抜
〉けさを感じるのです。エロゲーってのは保守なの

いつもながら鋭いご指摘にうんうんとうなずくことしきりです。

「反中国」「反北朝鮮」の底のなさには常にうんざりしている方は多いのです。

「中国」「北朝鮮」は独裁で自由も民主もない「それに引き比べて『自由で(民主)』な日本政府与党を批判するのは「反日」だというものらしいです。

彼らの言葉に従って考えてみても可笑しいのは、否定している低レベルの不自由で非民主な国と比較して日本は『マシな方なのだからそれに我慢しているべきだ』というわけなのでしょう。足を引っ張るな、その程度のマシなだけで良いのか、もっと前に進んで良い社会を作ろうという考えがないんでしょうかね。この『停滞の論理』をもっと説明してくれよと思うのですが、彼らにもそれは無いものねだりで説明ができない。

そもそもこれらの国々への理解は何よりも東アジアの近現代史(学校教育では抜かされるので社会人として事故教育しないといけないらしい?これは人の環境と素質によるから更に難しい)に触れずして現実化する筈もない。アホらしくなるし可哀想になるし、ついついシーシーあっちに行けと追い払うことになる。

でもしかし、次の瞬間、他人についてそんな風に邪険にするのは自分の精神修養の出来ににかかわる、うんざりする気分になる原因はそんなところにあるのでしょうね。

今回もはずしてしまったかな?

では。
返信する
Unknown (仲@ukiuki)
2008-05-30 18:23:52
ここはやはり、稲田朋美議員にお得意の国政調査権発動へ動いていただき、国会議員の皆さまによる「売れ筋エロゲー」体験大会を開催していただくのが、一興、じゃなくて必要かも。「名誉挽回、起死回生の一手になりますよ」とか呼びかけたら、案外あっさり実現してくれちゃったりして。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2008-05-31 00:19:21
>Bill McCrearyさん

 円より子議員には「宣教師的態度」という言葉を思い出しましたね。検索してもさっぱりヒットしない言葉でしたので、私が参加していた大学のゼミの中でしか使われない言葉だったのかも知れませんが、要は「善かれと思って」現地住民に植民者の宗教を押しつける、それを全く正しいと信じ切っているわけです。無理解から異なる価値観を踏みにじる行為が、実は善意と組み合わされてより悪質なものになる、そんなところもあるのかと。

>おさふねさん

 極論すれば、(本当に)自主的な判断として行われたのであれば創氏改名だって免罪されるどころか正当化されてしまいますからね。そりゃ、創作物の中で(自分達にとっての)楽園を描くのは結構ですが、その楽園を自然なことと思いこむ人が増えると……

>貝枝五郎さん

 まぁ、あまり力作を書かれても十分にお答えできませんが、私が意図していたのは今回のエロゲー規制案は規制派の頭の中のイメージを叩いているだけで、実態を見つけることすら出来ていない、その辺の論点整理です。表現規制に反対する立場の人も、あまりエロゲーに詳しくはないでしょうから、概ね規制派の脳内イメージに基づいて擁護するようなことにもなってしまうわけです。そうなる前に、別の見方を展開できればと、その辺なんです。

>kamaさん

 実際、(売れ筋の)エロゲー購買層の自民党支持率、排外的な傾向は高いような気がしますし、麻生太郎なんかの持ち上げられ方を見るに、むしろ規制するより推奨した方が保守派にとっては好ましい結果に繋がるのではないかという気もします。日本会議が考えている理想的な男女関係と売れ筋のエロゲーで描かれる男女関係、この両者は重なる部分が多いはずですし。

>単純な者さん

 「ルック・イースト」ならぬ「ルック・チャイナ」でしょうか。何でも中国基準で物事を判断する、させようとする人がいますね。中国が基準だから日本は民主的であり、日本の貧困は許容範囲であり、日本の社会保障は十分すぎるとか、そんな風になるのかとも思います。まるで中国を世界の中心に据えるかのような価値観にも見えるのですが、それが「反中国」を語っているのもまたお笑いですね。

>仲@ukiukiさん

 男性中心の世界、女性の性が男性の独占管理下に置かれている世界、それが女性自身にとっても幸福な関係として描かれる世界が売れ筋エロゲーの必須要素ですが、この辺の性道徳観は稲田朋美も大いに共感するところでしょうから、実際に触れてみたらどうなるのでしょうね? 見る前から「反日」と確信できる人々ですから、実際に見たり触れたりしても、それで自分の考えを改めることはないかも知れませんけれど……
返信する
補足します。 (貝枝五郎)
2008-06-24 21:43:00
ある現象が社会にどれだけ影響を与えたかについての計測方法はいくつかあると思うのですが、『超エロゲー』の24~25ページでとりあげられた『天使たちの午後』が同書24ページで「『美少女ゲーム』というジャンルを打ち立てた元祖」と評されているのみならず、『かってに改蔵』(久米田康治・小学館)というマンガの12巻第3話「彼方からの手紙」(昔ほしかったものを今サンタクロースがプレゼントしてくれるという話)で描かれていたことは、その「彼方からの手紙」がエロゲーに特化した話というわけではないのにもかかわらず、他のエロゲーではなく『天使~』がネタとして使われていたわけですから、『天使~』が当時のほかのエロゲーとは一線を画す存在であったことを示す証拠の一つとして記述するに値すると思います。なお、『かってに~』の同じコマには『ウォーリーを探せ!』も昔ほしかったものの一例として描かれており、『天使~』と『ウォーリー~』が、製作された時代も分野もことなるのに、同列に描かれているのです。すなわち両者の社会的影響力は久米田氏によれば同列であるということを示しているといえるでしょう。『天使~』が「絵柄的には」「現代的なエロゲーの基盤となったと思われる」という私の指摘を補強する証拠としてageておきます。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

編集雑記・小ネタ」カテゴリの最新記事