音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■月光ソナタは、「遠隔転調」が次々と繰り出される劇的な音楽■

2016-02-18 23:57:49 | ■私のアナリーゼ講座■

■月光ソナタは、「遠隔転調」が次々と繰り出される劇的な音楽■
  ~第3回「月光ソナタアナリーゼ講座」は、3月16日~


              2016.2.18   中村洋子

 

 


★私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫は、

お陰さまで、好評です。

銀座山野楽器本店では、「女性作曲家特集」としまして、

クララ・シューマン、ファニー・メンデススゾーンとともに、

私のSACD「「無伴奏チェロ組曲1~6番」(GDRL1001/1002)が、

この本と一緒に、展示されています。

銀ブラをされた折、どうぞついでにお立ち寄りください。

 

 


★昨日は、金沢カワイで第2回「月光ソナタ・アナリーゼ講座」

開催いたしました。

私の本をご覧になって、初めて参加という方もいらっしゃいました。

とても嬉しいことです。


★講座では、 Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827)の

「月光ソナタ」と、 Chopinの「雨だれ」がどれだけ密接な関係にあるか、

さらに、両曲の 「Manuscript Autograph  自筆譜 」を

読み解くことで、演奏法までが、はっきりと浮かび上がってくる

ということを、具体的に、お話いたしました。


★表面上は「月の光が湖面に、淡々と降り注ぐような静寂な世界」です。

しかし、表面上の静けさとは正反対に、湖の水面下では、

「遠隔転調」が、次々と繰り出されているのです

共通音が非常に少ない「遠隔調」への転調が、息つく間もないほどに、

次々に繰り出される、これは≪劇的≫としか形容できません。

「ウルトラC和声」の連続技です。

それでいて、曲を聴くだけでは、それを全く感じさせないのです。


★この両曲の関係につきましては、

私の本の「ChapterⅠ」 P25~29で、

詳しく説明しましたので、どうぞ、お読みください。

 

 


★淡々と繰り返される分散和音のため、

穏やかで静かな曲と誤解されてしまいますが、

そうではありません。

冒頭の4小節を見てみましょう。


和声要約しますと、

1、2小節は、「cis Moll」 の

1小節 主和音 Ⅰ
2小節 主和音に第7音楽が付加した「Ⅰ₇」

この2小節で、cis Moll の主和音が確定されます。

 

 


★続く、3小節を要約しますと、

 

 

3拍目は何故 cis Moll の音階音の「dis¹」ではなく、

「d¹」(ナチュラルが付されています)なのでしょうか。

短調のⅡの和音は、減三和音なのですが、

cis Moll で説明しますと、

Ⅱの和音の根音「dis¹」を、半音下げて「d」にしますと、

やや不安定感のある減三和音が、ほんのりと“雪明り”のように

暖かみのがある長三和音に、変身します。

 

 


★この長三和音を「ナポリのⅡ」と、呼びます

そして、この「ナポリのⅡ」は、三和音の基本形(5の和音)ではなく、

第1転回形(6の和音)で使われることが多いので

「ナポリの6」とも、いいます。

 

 

4小節目の1、4拍目は≪属七の和音(Ⅴ₇)≫です。

 

 


★(2拍目はⅠの第2展開形(Ⅰ²)とみることも可能ですが)、

2拍目「e¹」は、

1拍目属七の和声音「fis¹」と、3拍目属七の和声音「dis¹」をつなぐ、

経過音(非和声音)と、みなすことができます。

2、3拍目の内声「cis¹」も、

1拍目と4拍目の属七和声音「his」に対する「刺繍音」です。


★このように、2、3拍目の和音は、非和声音によって、

偶然形成された和音のため、≪偶成和音≫と呼びます。


★2、3拍目は、偶成和音ですので、この4拍目は、大きく見ますと

≪属七の和音(Ⅴ₇)≫と、とらえることができます。


★そして、続く5小節目は、主和音(Ⅰ)なのです。

つまり、

1、2小節目    トニック(T)
3小節目      サブドミナント(S)
4小節目      ドミナント(D)
5小節目      トニック(T)  です。


★一見、何の変哲もない和声進行です。

しかし、3小節目をじっくり見ますと、

 


≪cis Moll 嬰ハ短調 のⅥ、ナポリのⅡ≫を

≪D Dur ニ長調 の Ⅴ、 Ⅰ≫と読み替えることも可能です。

 

 


Beethovenは、冒頭5小節の常識的な

cis Moll の T→S→D→Tのカデンツの中に

cis Moll からは遠い調(遠隔調)を、忍び込ませています。


★そして、 8、9小節目は E Dur (ホ長調)
      10小節目は e Moll(ホ短調)
      11小節目は C Dur (ハ長調)
      12~19小節目は h Moll (ロ短調)です。

めくるめく劇的な転調が、次々と繰り出されています。

 


 
「静謐な音楽」という美しい衣を纏い、波風立たせず、

大変に革新的なことをしているのです。


★この「月光ソナタ」の第3回アナリーゼ講座は、 KAWAI 金沢で、

3月16日(水)午前10~12時半です。

Beethoven ベートーヴェンの自筆譜と初版譜を基に、

Bartók Béla バルトーク校訂の「月光ソナタ」の楽譜に付された

ペダルによるアナリーゼも一緒に勉強いたします。

合わせて、Chopinのプレリュード「雨だれ」の自筆譜も参照します。


★ Beethoven 、 Chopin という天才を育てたBach の大きな翼が、

彼らの背中を覆い包んでいることが、深く実感できるのです。


2月24日(水)は、 KAWAI 名古屋での

≪平均律第1巻第2番≫アナリーゼ講座です。

カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

午前10:00 ~ 12:30です

 

 


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