音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■第 2回 「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻・アナリーゼ講座 」

2013-05-24 18:53:35 | ■私のアナリーゼ講座■

■第 2回 「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻・アナリーゼ講座 」
                    第 2番 c-Moll  BWV 871  prelude & fuga
~ Binary form の  2番 prelude 、圧倒的な密度の 2番 fuga ~
                 

                                        2013.5.24     中村洋子

 

 

★前回の講座では、 「 平均律 第 2巻 1番 」  が  「 平均律 第 1巻 24番 」 と、

どれだけ深く、結びついているかをお話しました。

そして、 「 第 2巻  2番 」 は、 「 1番 」 と表裏一体の関係にあります。

第 2巻 全 24曲の大河が、この1、2番から滔々と流れ始めたといえます。


★ 「 2番 prelude 」 は、 「 第 1巻 24番 」 と密接に関連しているとはいえ、

「 平均律 2巻 」 に特徴的な ≪ Binary form 2部構成 ≫ をとっています。


★また、 「 2番 fuga 」 は、28小節という短いなかで、

どれだけテーマを展開できうるか、逆にいえば、

28小節という短さを忘れさせるほど、圧倒的な密度です。

しかし、力が満ち過ぎて人を跳ね飛ばすような音楽では、

決して、ありません。

 

                                                                       (花梨)


★Bach の平均律クラヴィーア曲集第 2巻の ≪ 最終稿 ≫ は、

残っていません。

自筆譜として唯一、現存するのが

 「 ロンドン写本 ( London original manuscript

1739~1742 in The British Library ) 」 です。

現在、広く流布している実用譜の 平均律 第2巻は、

Bach の女婿 Christoph Altnickol アルトニコル (1719~1759) が、

1744年に、Bach のオリジナルを写したものです。


★「 ロンドン写本 ( London original manuscript ) 」 には、

妻 アンナ・マグダレーナAnna Magdalena Bach (1701~ 1760) の写本も、

含まれています。

「 ロンドン写本 」  の 「 第 2番 c-Moll 」 を、書き写したのは、

Anna Magdalena Bach です。

夫の原稿を ≪ 忠実に ≫ に、書き写したと思われますので、

この  「 第 2番 c-Moll 」 も、当然、Bach の意向に沿ったものとして、

学ぶことができます。


★大譜表で書かれた謎の多い 「 第 1番 」 は、Bach 本人の自筆です。

Bach と Anna Magdalena との筆写を比べますと、

何が異なり、そして、そこから何が分かるのでしょうか。

この点につきまして、講座で詳しくご説明します。

 

 


★この 「 ロンドン写本 ( London original manuscript ) 」 は、

残念ながら、24曲すべては、残っていません。

写本が存在する曲については、それを基に、

私の講座を進めていきたいと、思います。


★Bach の平均律クラヴィーア曲集を、

本当に読み解き、校訂できるのは、

Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) のような、

大作曲家のみ、といえるかもしれません。

Bartók の平均律校訂版は、かなり古いものですが、

その内容は、Bach の天才に迫るようなものといえます。

併せて、講座でご説明いたします。

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■第 2回 「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻・アナリーゼ講座 」
         第2番 C-Moll BWV870 prelude & fuga

■日  時 :  2013年 6月13日(木) 午前 10時 ~ 12時 30分

■会  場 :  KAWAI 表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

■ 要予約 :   Tel. 03-3409-1958

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■ 講師:作曲家 中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。

日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

2003年~ 05年:アリオン音楽財団 ≪ 東京の夏音楽祭 ≫ で新作を発表。

07年:自作品 「 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠

         W.ベッチャー氏演奏した CD 『 w.ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』

         CD ソプラノとギターの 『 星の林に月の船 』 を発表。

08~09年: 「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座」 全 15回を開催。

09年 10月: 「 無伴奏チェロ組曲第 2番 」 が、W.ベッチャー氏により

               ドイツ・マンハイムで 初演される。

10~12年: BACH平均律クラヴィーア曲集第 1巻の全曲アナリーゼ講座

        (24回) を、カワイ表参道で開催。       

10年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello  無伴奏チェロ組曲第 1番 」 が、

      「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・リース&エアラー社から

     出版される。

      CD 『 無伴奏チェロ組曲  第 3番、2番 』 W.ベッチャー演奏を発表

      「 Regenbogen-Cellotrios レーゲンボーゲン・チェロトリオス

      ( 虹のチェロ三重奏曲集 )」 が、ドイツ・ドルトムントのハウケハック社    

      Musikverlag Hauke Hack 社から出版される。

 11年 4月: 「 10 Duette für 2 Violoncelli 

        チェロ二重奏のための10の曲集 」

          が、「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・リース&エアラー社から

          出版される。

 12年12月: Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)

         チェロ4重奏のための10のファンタジー(第 1巻、1~5番)」が、

         ドイツ・ドルトムント Musicverlag Hauke Hack社から

                 出版される。

・ スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、

  自作品が演奏される

 

★上記の 楽譜 と CD は、

「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 

「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で、

販売中。

                                         

★第 3回  7月 9日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分 第 3番 嬰ハ長調 

 


        ※copyright © Yoko Nakamura    All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■Bach の自筆譜 ( London写本 ) から、ひしひしと伝わる作曲意図■

2013-05-18 17:30:21 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bach の自筆譜 ( London写本 ) から、ひしひしと伝わる作曲意図■
~5月21日に第 1回 「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻・アナリーゼ講座 」~
                      2013・5・18     中村洋子

 

                                    (忍冬蔓)

★Bach 「 Wohltemperirte Clavier Ⅰ平均律クラヴィーア曲集第 1巻 」

全 24曲を、約 2年半かけて、皆さまと一緒に、勉強いたしました。

その後、

「 Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲 」、

 「 Französische Suite フランス組曲  」、

「 Choral コラール 」 などの、アナリーゼ講座を経て、

いよいよ、5月21日に、Bach 「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ

平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」 の、

Analyze アナリーゼ講座を始めます。

第1回は、1番  C-Dur  prelude & fugue です。

 

平均律クラヴィーア曲集 1巻は、

決定稿といえる、Bach の自筆譜が存在します。

しかし、平均律クラヴィーア曲集第 2巻の最終稿は、

残っていません。

自筆譜として唯一、現存するのが ≪ ロンドン写本 ≫

( London original manuscript 1739~1742 

 The British Library 所蔵 ) です。

現在、広く流布している平均律 2巻は、

Bach の女婿 Johann Christoph Altnickol

ヨハン・クリストフ・アルトニコル (1719~1759) が、1744年に、

Bach のオリジナルを写したものです

 ≪ London写本 ≫ には、アンナ・マグダレーナAnna Magdalena Bach

(1701~ 1760) の写本も、含まれています。

 

                                   (鈴蘭)


★年代的には、 ≪  Altnickol アルトニコル版 ≫ が、

Bach の最終的な考えに、近いかもしれませんが、

Bach 自身の手による ≪  London 写本 ≫ を見ますと、

圧倒的な迫力、即ち、

Bach が、力をどこに込めて作曲したか、それが如実に分かるような、

音符の大小、レイアウトなど、

作曲した時点での意図が、ひしひしと伝わってきます。


第 2巻 1番 prelude の ≪  London 写本 ≫ と、

 ≪ Altnickol 版 ≫ とを比較しますと、 

≪  London 写本 ≫ は、 ≪ Altnickol 版 ≫ の、

いわば “ 骨格 ” のようなものであることが、よく分かります。

このため、 ≪ London 写本 ≫ を勉強した後、

 ≪ Altnickol 版 ≫ で弾きますと、

大変に、分かりやすく、弾き易く感じることでしょう。


★ ≪ London 写本 ≫ では、12小節目 2拍目~19小節目まで、

完成されていた楽譜を、大きなバツ印で末梢し、

それを、そのまま残しています。

1番 prelude は、見開き 2ページ 7段で書かれており、

上記の末梢した部分は、1ページの 「 6、 7段目 」 にあります。

Bach は、書き直した後の新しい「 6、 7段目 」 を、

右の 2ページ目の 6、 7段目に書き込こみ、

prelude は、きれいに 2ページで収まっています。

 

                                (忍冬蔓)


推敲前と推敲後の原稿を、これほど、明確に見ることができるのは、

珍しいことで、

後世の私たちにとって僥倖である、ともいえます。

その推敲前と推敲後の両者を、詳しく比較分析しますと、

≪ Bach が何故、平均律クラヴィーア曲集を 2巻まで書いたか ≫、

≪ どういう意図で、全体を作曲したのか ≫ という、

平均律クラヴィーア曲集全体の謎解きが、できるほど、

深い内容を、蔵しています。

興味が尽きません。

講座では、両者を弾き比べながら、詳しくご説明いたします。

 

                                 (苧環)


★さらに、平均律クラヴィーア曲集 1巻、 2巻とも、

現存している Bach の自筆譜は、

上段が 「 ソプラノ記号 」 、下段が 「 バス記号 ( へ音記号 ) 」 で、

記譜されていますが、

この第 2巻 1番に限り、

上段が 「 ト音記号 」 、下段が 「 バス記号 ( へ音記号 ) 」 の、

いわゆる ≪ 大譜表 ≫ で、記譜されています。


★これも、おおいなる謎ではあるのですが、

やはり、この第 2巻 1番が、この 1巻、 2巻の全 48曲の曲集の中でも、

実に、特別な地位を与えられた曲である、

ということが、分かってくるのです。

 

                              (八重桜&柳)    


このような解説を、私は決して、衒学的な知識として、

お話するつもりは、ございません。

ただただ、Bach の音楽を、作曲の意図通りに演奏し、

楽しむためには、どのように、勉強したらいいのか、

それを、お伝えしたいだけです。


さも深遠で意味ありげ、それを知っていないと、

“ 自分は Bach の門外漢ではないか ” と、思わせるような、

枝葉末節な知識に、惑わされる必要はありません。

そのような、これ見よがしの知識もどきや、

人を煙に巻く衒学的な、修辞学のような解説もどきは、

実は、Bach の音楽からは、最も遠く、

人々を、Bach の音楽から、最も遠ざけるものである、

といえます。

堂々と、無視すべきです。

 

                                  (躑躅)


      ※copyright © Yoko Nakamura    All Rights Reserved
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■私の 「 無伴奏チェロ組曲 第 6番 」 が、ドイツで全曲初演■

2013-05-16 00:25:36 | ■私の作品について■

■私の 「 無伴奏チェロ組曲 第 6番 」 が、ドイツで全曲初演■
~ 4月20日 Glambeck で、W.Boettcher 先生 ~
               2013.5.16       中村洋子

 

 

★多忙で、ブログの更新が滞っていますうちに、

5月半ば、となりました。

4月 20日夜、Berlin の Boettcher 先生から、

ファックスが届きました。

「 Today I played the Urauffürhrung of your Nr.6 Suite.

It was a good performance and success for your music ・・・ 」

と、書いてありました。

 

★プログラムは、

Glambecker Claviermusiken
          in der
Dorfkirche zu Glambeck
      20. April  2013

Boettcher Solo Konzert

 

★「Urauffürhrung 」 は、 「 初演 」 という意味で、

大変に、価値のある言葉です。

「 Ur 」 は、名詞につけますと、原初とか根源という意味になります。

「 Auffürhrung 」 は、 「 演奏  performance 」 です。 

お馴染の 「 Urtext 」 は、原典、原本、原文という意味ですが、

当ブログで嘆いておりますように、 楽譜の世界では、

「 Urtext 」 が、本来の ≪ Urtext ≫ ではないのです。

 


★当日のプログラムは、

・Johann Sebastian Bach  ( 1685~1750 )Suite d-moll Nr.2 (1720)

・Yoko Nakamura Suite  Nr.6  (2011)   Urauffürhrung 
( in Okinawa komponiert -Wolfgang Boettcher gewidmet)
Ⅰ. Praeludium ; Ⅱ.Lovesong ; Ⅲ.Happy fishermans song
(Okinawa-Swing) ; Ⅳ.Gebet ; Ⅴ.Rundtanz - Wiegenlied - Rundtanz; Ⅵ.”Ritmico“.Gigue

・Volker David Kirchner  ”Und Salomo sprach“ (1987)

・Johann Sebastian Bach  ( 1685~1750 ) Suite C-dur Nr.3 (1720)

 

★ Bach の Suite 2曲を含む、

壮大なプログラムです。

新聞の予告記事も、 faxで送って頂きましたが、

見出しは、 「 Glambeck で体験する初演コンサート

Erstmals  Suite Nr.6  von Yoko Nakamura 」 でした。

また、別の新聞の見出しは、 「 Brillant am Cello 輝かしいチェロ 」

と、なっていました。


★その後、Plakate und Programme  ポスターやプログラムも、

郵送で、送って頂きました。

 


                          
★私は、チェロ組曲を6曲書きましたので、

これで、一区切りとなります。

独奏チェロ組曲をさらに、書き進めたいという気持ちもあります。

5月 21日、KAWAI表参道 「 パウゼ 」 で、

≪ 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 ≫ の、

アナリーゼ講座を、開始します。

第 1回目は、第 1番C-Dur ハ長調  BWV 870 について、

お話します。


★Bach は、あれだけ完璧な 

≪ 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 ≫ を完成しながら、

なぜ、さらに ≪ 第 2巻 ≫ として 24曲を、作曲したのでしょうか。

チェロやヴァイオリン、フルートの独奏作品については、

6曲を書き終えて、その ≪ 第 2巻 ≫ は、作曲しなかったのです。

この大きな問いについて、講座を進めながら、

解明していきたいと思います。

 

 

≪ 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 ≫ は、

新たに作曲したものばかりではなく、

過去の作品も、組み込まれています。

それをもって、あたかも “ 第 2巻は、寄せ集めである ” という

ニュアンスを、におわせる解説書もあります。


★しかし、それを言いますと、

人類最大の傑作 「 Messe h-Moll  ロ短調ミサ 」 も、

寄せ集めである、ということになってしまいます。

≪ 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 ≫ は、

Bach の過去の作品を含めた集合体ですが、

その出典を、詮索することよりも、

Bach がそれらを、どのような構想で、

“ 大宇宙 ” にまとめ上げたか、

それを学ぶことが、

Bach を学び、音楽を楽しむ、

ということなのです。

 

 

        ※copyright © Yoko Nakamura    All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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