◻️55『岡山の今昔』明治時代の岡山県(産業の発展、紡績業)

2019-11-05 22:49:22 | Weblog

55『岡山の今昔』明治時代の岡山県(産業の発展、紡績業)

 こうした全国での動きにと歩調を合わせる形で、岡山県下でも養蚕が盛んになるとともに、近代紡績の勃興もみられるようになっていく。そもそも県南地域においては、近世以降の干拓によって、塩田などの展開があったが、やがて徐々に陸地へと姿を変えていった。
 とはいうものの、干拓地に含まれる塩分により米作などには適さなかった。そのためもあって、一部の地域によっては、綿やイグサが栽培されるようになっていたことがある。

   それから、時代は明治に入っての1880年(明治13年)、児島地区を拠点に岡山紡績所が設けられた。これは、旧岡山藩池田家からの士族授産資金で設立されたものである。
 また、1882年(明治15年)には玉島地区に玉島紡績所が開業した(設立は1881)。こちらは、それまで備中綿の集散地であった玉島に設けられた。政府から10基のうちの1基のミューレニチ錘の紡績機械の払い下げを受け、乙島に工場を建設したのだ。
 その後の1882年(明治32年)5月には、放漫経営が裏目に出て、同工場は債権者の実業家、阪本金弥の手に渡ってしまう。その阪本は、同年10月、資本金45万円の吉備紡績株式会社を設立する。

 さらに同年、綿織物の産地である児島においても、下村紡績所が設立された。
 続いて、1888年(明治21年)には、大原孝四郞が初代社長になっての有限責任倉敷紡績所(後の倉敷紡績、さらにクラレとなっていく)が民間ベースで設立され、翌年の10月20日に、イギリス式の、当時としては最新鋭の紡績機械を導入して操業を開始した。

 その場所は倉敷代官所跡で、当時の県知事の千阪高雅の助言もあり、大原は資金の確保をねらって1891年(明治24年)に倉敷銀行を設立した。将来を見据えた儲け話に、さぞかし頭が働いたものと見える。新会社では、当時の最新技術のリング紡績機を導入し、昼夜に二交代制を敷いた。
 それから、1894年(明治27年)には、柏崎紡績株式会社の設立、操業が開始される。玉島紡績の廃物の紡績機械2千錘を譲り受けるのだが、翌年にはそのうちのミュールー機械を廃棄する。それから、ブラット式リング機を買い入れ、1901年(明治34年)にはドブソンのリング機械を2688錘も導入するという具合で、投資を苦労継続する。その後、融資元との関係から、中備紡績株式会社、さらに半田綿行株式会社玉島工場と名前を変えて、生き延びていく。

 さて、1893年(明治26年)時点の倉敷紡績所の規模は、1万664錘、精紡機31台であって、その後の発展の基礎が作られた。人員の方も、1897年(明治)10月の調査によると、「倉敷の女工総数1436名、中、勤続年数1年以内のものが589名、2年目以内のものが464名で、両方あわせると70%をこえる。平均勤続年数は、約8か月であった」(岡山女性史研究会編・永瀬清子・ひろたまさき監修「近代岡山の女たち」三省堂、1987)というから、2年を越えては会社にいられないような劣悪な労働状況であったとも受け取れる。
 そして迎えた1907年(明治41年)には、かねてから経営が傾いてきていた阪本合資会社吉備紡績所と、倉敷紡績株式会社の大原孫三郎との間に、買収の交渉がまとまる。この年の11月、この事業所は「倉敷紡績株式会社玉島工場」と改名する。

 この紡績事業は、県南ばかりでなく、やがて勝田、真庭、赤磐などの山間地などでも盛んに行われるようになっていく。その生産のピークは皮肉にも1929年(昭和4年)の大恐慌の頃であった。北条県の津山では、養蚕を地域の産業として奨励する行政の後押しもあって、1880年(明治18年)浮田卯佐吉らによる浮田製糸工場が伏見町に立ち上がった(津山市教育委員会『わたしたちの津山の歴史』1998年刊行)。
 英田郡内においては、1897年(明治25年)に美作製糸合資会社が大原町に設立され、また大庭郡内の久世村においては、久世合資会社といった地元資本による製糸会社が立ち上がった。

さらに勝北地内においても、1898年(明治26年)、市場の竹内茂平らが「永盛製糸合資会社」(当時の勝田郡広戸村、現在の津山市広戸の農協広戸支所の敷地)を立ち上げた。この工場は、1910年(明治38年)まで市場地域にあったと伝えられている。その頃の「県下養蚕戸数は5万5496軒のうち勝田郡の養蚕戸数は5614軒、繭数量23万6384貫、価額163万2694円であり、県下22の年中第一位の順位であった(二位赤磐、三位真庭)」(勝北町誌編纂委員会『勝北町史』1991年刊行)であり、関係する農家と地域社会にとって貴重な現金収入となっていたことが覗われる。

(続く)

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★★☆★☆


コメントを投稿