○〇549の19『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税回避のための財源(軍事費、公共事業費)

2019-03-31 08:30:29 | Weblog
549の19『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税回避のための財源(軍事費、公共事業費)

 2018年度の3月27日、総額で約101兆円もの大型予算としての2019年度予算が成立した。その中では、社会保障費の約32兆6605億円をはじめ幾つもの歳出の突出が話題となっている。特に、特段増額の必要でないと思われる防衛費(呼び名は、「軍事費」の方が合うので、以下これを用いたい)と公共事業費が、それぞれ約5兆2574億円(1.3%増)、約6兆9099億円(15.6%)と伸びていることがある。
 まず軍事費は、ごく大まかに軍需品の調達と運用、それに人件費などに分かたれる。軍事品生産はその中核だが、その性格をしっかり踏まえておくことが大切だと思われる。経済学者の富塚良三氏は、こう説明しておられる。
 「生産手段として生産的に消費されるのでなく、また個人的消費によって労働力の再生産を媒介するのでもない軍需品は、国家によるいわゆる「再生産外消耗」の対象であって、社会的再生産過程における軍需品生産部門の位置づけと役割は、奢侈品部門のそれと類似とみなすことができよう。(中略)
 軍需品は(労働力の価値どおりの支払いを仮定するとすれば、結局、)剰余価値の一部の転化形態たる租税による国家の財政支出によって購入される。(軍事支出をまかなうべき租税が賃金がかけられ、そして賃金がその負担分だけ騰貴しえなければ、労働力は価値以下に支払われたことになる。)」(富塚良三「経済原論ー資本主義経済の構造と動態」有斐閣、1976)
 さりながら、我が国の財政に群がる「死の商人」たちには、国内と国外との両方がいる。軍需品は、日本国内の兵器産業の中でつくられているのみならず、最近では、多くの額を日米安全保障条約に基づく同盟国のアメリカから輸入調達しているではないか。それにまた、防衛大綱などを試算の根拠に後年度負担にかかる国庫債務行為にて次から次へと購入の約束を与えてきている。
 そのまごうことないほどの対米追随の姿勢には、どこにこの国の安全保障の主体性があるのかと、嘆かわしい。しかも、この数年来は集団安全保障への肩入れ激しく、国民やその政府そっちのけで、米軍の作戦のお先棒を担ぐことにもなりかねないほどの盲従ぶりなので、驚きを禁じ得ない。
 それはさておき、このような歯止めなき軍事費の増大傾向は、否応なく、いわゆる自由財源を縛っていくことになろう。

 それから公共事業費のかくも大きな増額については、「またぞろ大合唱か」と、驚きを禁じ得ない。これの背景としては、東日本大震災では国土の脆弱性が露呈し、将来の大規模災害への備えも欠かせないというのは、世間に通りやすい。
 一方、デフレからの出口が見えない中で消費税を増税するに当たっては、景気対策が不可欠だ。いうなれば、国土強靭化計画の閣議決定(2018年12月)と消費税増税への対策とを抱き合わせることで、防災関連のインフラ整備に大型の投資をすれば、渡りに船というか、一挙両得ではないかと考えている筈なのだ。
 それはともかく、第一に問題となるのは、その中身である目的なり規模(金額など)であるに違いない。施政者たちが、それが私たちの社会にとって真に必要で価値のあるものと考えるなら、その理由を国民に認めてもらうべく、情報の開示などそれなりの努力をして見せるのが当たり前でなければ意味があるまい。もっというなら、その場合の評価に、現代的な意味での国民のチェックが十分に働くようなシステムづくりが肝要なのだ。
 第二に問題なのは、ここにいう消費税増税との関連性であって、政府は国民生活の安定と財政再建とを真面目に考えているのであろうか、と危ぶまれる程なのだ。増税で国民に痛みを強いるなら、歳出の方もそれなりの支出の見直し(復興財源の別項目での流用もあった昨今)なり縮減なりがあって然るべきなのだが、軍事費の場合と同様にそうした配慮、目配りがほとんど見当たらないのである。

(続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

〇549の20『自然と人間の歴史・日本篇』消費税の特例としての輸出免税

2019-03-31 07:59:54 | Weblog

549の20『自然と人間の歴史・日本篇』消費税の特例としての輸出免税

  これらのうち輸出事業者への特例については、以後も続くことになっている。消費税法の規定には、こうある。

 「第七条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
一 本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
二 外国貨物の譲渡又は貸付け(前号に掲げる資産の譲渡又は貸付けに該当するもの及び輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律(昭和三十年法律第三十七号)第八条第一項第三号(公売又は売却等の場合における内国消費税の徴収)に掲げる場合に該当することとなつた外国貨物の譲渡を除く。)
三 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる旅客若しくは貨物の輸送又は通信
四 専ら前号に規定する輸送の用に供される船舶又は航空機の譲渡若しくは貸付け又は修理で政令で定めるもの
五 前各号に掲げる資産の譲渡等に類するものとして政令で定めるもの
2 前項の規定は、その課税資産の譲渡等が同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、適用しない。
(輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税)」
 
 これについての事例として、現在の法制下において、輸出売上3億円の企業があるとしよう。この会社は、製品の全てを外国へ輸出しているとし、また、この輸出にかかる原価の合計を1億円、その全部を日本国内で仕入れているとしよう。それから、この会社はその他消費税のかかるものとして家賃など5000万円(ここまで、すべて税別)があるとしよう。
 この場合の税の算出式とは、製品の売上げで顧客から受け取った消費税ー(引く、マイナス)経費で支払った消費税=(は、イコール)納税する消費税なので、次のようになるだろう。まずは、輸出品に「内国税」であるところの消費税はかからないので、消費税はゼロとなろう。
 一方、この会社が経費として支払った消費税分は、原価の1億円+その他経費の5000万円との合計1億5000万円に、消費税率の税率8%を乗じて1200万円が導かれる。したがって、収めるべき消費税額は、ゼロから1200万円をひくことになるので、マイナスの1200万円ということになって、この額はこの会社が税務当局に支払うのではなく国庫から受け取ることになるだろう。
 とはいえ、国内の売上げがあっても、輸出分が還付されるのは変わらない。いま年間売上高が5億円の会社があって、うち輸出によるものが2億5000万円、国内売り上げも同額と仮定。すると、前者には2億5000万円×0%=0、後者には2億5000万円×5%=1250万円がかかることから、合計で1250万円となるだろう。
 次に、年間の事業にかかる仕入れを見ると、これを4億円として4億円×5%=2000万円が仕入税額控除としよう。したがって、この会社として支払うべき消費税額は、1250万円-2000万円=-(マイナス)750万円となって、差し引き750万円の差引還付金が得られよう。ただし、現行法で「簡易課税」となっている事業者や「免税事業者」については、かかる税還付の恩恵を受けられる対象から基本的に外されていることに留意されたい。
 今、上記と同じ売上・仕入構成で消費税が5%から10%に引き上げられたとしよう。それと合わせて、輸出は3億円に、国内売上げの方は2億5千万円の据え置きとになるかたわら、仕入れ額の4億円には変化がないとしよう。
 
 すると、輸出には3億円×0%=0、国内販売には2億5000万円×10%=2500万円の消費税がかかることから、合計で2500万円となるだろう。
 次に、年間の事業にかかる仕入れを見ると、これを4億円として4億円×10%=4000万円が仕入税額控除となろう。したがって、この会社として支払うべき消費税額は、2500万円-4000万円=-(マイナス)1500万円となって、差し引き1500万円の還付金が得られよう。
 およそこのような次第が予想されることから、この還付金は、消費税率が上がるほど、また輸出割合が高ければ高いほど多くなる仕組みに他ならない。
 
(続く)☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 

○〇549の18『自然と人間の歴史・日本篇』社会保障給付(2018年度~)

2019-03-30 10:05:02 | Weblog
549の18『自然と人間の歴史・日本篇』社会保障給付の状況(2018年度~)

 社会保障給付は、大きく分けて社会保険と社会保障費の二本立てとなっている。まずは、全体像をつかんでもらいたい。2018年度の社会保険給付の総額は、121.3兆円だ。これをGDP(国内総生産)の564.3兆円との比較でいうと、21.5%と、かなりの比率に違いない。
 そのうちの年金が占める割合がトップの56.7兆円であって、10.1%を占める。次いで、医療が39.2兆円で、7.0%。三番目の介護は、10.7兆円で1.9%を占める。さらに、子育て関係が7.9兆円で1.4%。それから「その他」が6.7兆円で1.2だとされる。

 次には、この給付がどのように負担されているか、つまり財源がどこにあるかが問題となろう。こちらは、大まかな姿としては、保険料によるものが70.2兆円である。たとえば、国民基礎年金においては保険料と半分ずつを、厚生年金では労使で保険料を折半している。
 一方、公費によるものが46.9兆円だという。その合計の給付額と比べての差は、これらのほかに年金制度の積立金を利用していることによる。
 後者の公費の内訳としては、「地方税負担等」が13.8兆円に33.1兆円の国庫負担が加わる。この国庫負担の出どころは、国債発行による収入と税によるものとで成り立たつことになっている(財務省主計局「社会保障について」2019.10)。財源調達手段が国債(内国債)であっても税の徴収であっても、現世代が背負わなければならない(前者ては主に投資が、後者では主に消費が犠牲にされるだろう)。
 この社会保障給付のうち医療費と介護の先行きについては、これに影響を与える、75歳以上の「後期高齢者数」(適切な呼び名とは言えないが)は2030年まで大幅に増加していく、その後ほぼ横ばいのあとの2040年頃から再び増加していく見通しだという。
 その一方で、保険制度の担い手(支え手)としての現役世代(財務省の説明中では、20~74歳)の人口は、今後中長期的に大幅な減少が続く。ましてや、15~64歳のいわゆる生産年齢人口の見通しとなると、さらに大きな減少幅となっていくだろう。たとえ、高齢者や女性などの労働参加が引き続きあったとしても、2030年頃からはそんな努力も虚しく、労働力人口は大幅な減少になっていくのであろう。もちろん、これには海外からの移民を大勢迎えたりすることで、ある程度緩和できるのかもしれない。
 少子高齢化で担い手がますます少なくなると、社会保障財源のうち保険料に関わるところでの財政破綻が取り沙汰されるようになっていく。加えるに、これまでのような大企業や大金持ちの利益を大事にする政府は、その分のしわ寄せを国民にもっていく。年金加入者の減少と受給者の増加への対策として「マクロ経済スライド」をしたのも、その一つだ。そして今回の消費税増税の後、参議院選挙が予定されていることから、その後になるだろうか、年金のさらなる改悪などによる国民負担の増加の企てが幾つも、虎視眈々と準備されている。

 改めていうならば、実は日本は、先進国の中では社会保障に財源をかけていないことで知られている。具体的には、例えば2013年での国際比較(先進5か国、社会保障財源の対GDP比)でいうと、日本は22%(公費負担が8.9%、被保険者本人負担が6.9%、事業主負担が6.2%)、イギリスは26.3%(公費負担が14.5%、被保険者本人負担が3.6%、事業主負担が8.2%)、ドイツは30.2%(公費負担が10.3%、被保険者本人負担が9.3%、事業主負担が10.6%)、フランスは32.4%(公費負担が11.7%、被保険者本人負担が6.8%、事業主負担が13.9%)、スウェーデンは30.6%(公費負担が16.2%、被保険者本人負担が3.0%、事業主負担が11.4%)となっている(資料は、日本が社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」、他はEurostat「European  Social  Statistics」)。

(続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

〇549の10の2『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税(2019.10~)の対案はあるか(予算均衡定理・後編)

2019-03-29 10:50:59 | Weblog
549の10の2『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税(2019.10~)の対案はあるか(予算均衡定理・後編)
 
 ここで、この予算均衡定数の定理につき、わたしなりに簡単に解説をさせてもらいたい。 
 まず、ここで(4)式はどのようにして導かれるのでしょうか。
     1
     ――――  △G     (4) 
     1-a  

ここでは閉鎖経済(外国との関係を捨象)を想定し、貯蓄が国民所得に平均貯蓄性向(s)を乗じたものだといたしましょう。そうなると、
S=sY=I
Y=(1/s)I

         1
 (参考)Y=  ――――  ×I(一般の教科書ではこちらの表現) 
         1-α  


 つまり新投資が決まると、需給が均衡に向かうように働き、Y=(1/s)Iが先ず決まります。そして、生産技術がいま短期分析で一定の場合でいうと、その生産技術に体化した雇用量が決まると考えるのです。
 ところで、この式のなかのsは、平均消費性向をaとすると(1-a)と置き換えられます。
Y=(1/s)I=(1/1-a)I
 そこでいま新投資需要Iが政府によって投入されると、その需要を満たすためにY=Iだけの産出高が生まれる。そうなると、aIだけの消費需要が派生し、それを満たすように同額の派生所得が生まれます。aIの所得からはaの2乗×Iだけの派生需要、そしてそれを満たすための新たな産出高が見込まれます。結局、Iだけの投資需要の追加は、
I+aI+aの2乗I+・・・・だけの需要と所得を生み出す理屈になります。
一般に、初項がa、公比がr(rの絶対値<1)の無限等比級数の合計Aは
A=a + ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 +...+ ar^n-1 + ar^n + ..①
ここで①式の左辺と右辺に r をかけます.
rA=ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 +....+ ar^n + ar^n+1 + ...②
その上で、①の両辺から②の両辺を差し引きます。②の方が最初の項aが多いだけなので次のように整理できます。

   A - rA = a                     ③

従って、次のとおりになります。

     a
  A = ---------                     ④
     1 - r

これから、初項が1、公比がa(aの絶対値<1)の無限等比級数の合計Sは次の通りになります。

S=1+a+a二乗+・・・・・+aのn-1乗=(1/1-a)⑤

 投資の持つ乗数効果の数学的説明には、つぎのようなアプローチもあります。
Y=C+I+G ⑥
ここでYとはGDP(国内総生産)、Cとは民間消費、Iとは民間投資、Gとは政府投資といたしましょう。
C=α+βY  ⑦
ここでCというのは一国の消費関数、α(アルファ)は基本消費、β(ベータ)は限界消費性向と呼ばれるもので、たとえていうとGDPが1万円増えれば消費支出はβ万円増えることになります。
0<β<1のことを限界消費性向といいます。
この2つの式からCを消去すると
Y=α+βY+I+G
この式を変形すると
Y-βY=α+I+G
(1-β)Y=α+I+G
したがって、Y=α/(1-β)+{【1/(1-β)】(I+G)} ⑧
この式で第2項に目を向けましょう。そこで1/(1-β)のことを乗数(m)といいます。この式で投資Iが10兆円増えるとGDPは10兆円×m万円だけ増えることになるでしょう。

 そこでいま、民間可処分所得が税金によって10兆円減ったといたしましょう。そのとき国民の貯蓄率(国民所得のうち貯蓄にまわす割合)が20%とすると、人々の消費需要は10兆円まるごとは減らず、10兆円×0.8=8兆円だけが減ることになるでしょう。

 したがって、その国の限界消費性向が0.8(80%)であるなら、政府が増税による収入増10兆円を財政支出に投じれば、それと同額である10兆円分の総需要の増加が見込まれることになり(上記の(7)式)、その場合には10兆円から8兆円を差し引いた2兆円分の総需要の増加が見込まれることになるでしょう。
 
 以上のことは、ケインズが(一般人の消費ではなく)投資こそが社会全体の所得向上の主要な手段であると考えていたことと一致しています。


○考えられる意見の検討、1番目

 関連して、仮に、政府支出の増大によって景気対策を行おうとしても、現在の国の財政状況をみると、その財源を消費税増税などで賄うしかなくなっているのではないか、という意見がありますが、どのように考えればいいのでしょうか。

 そこで、所得分配の階級的性格について考えてみましょう。

所得が増加(減少)するにつれ人々の消費の割合が減って(増えて)いくのは改めて証明を必要としない自明の事柄だと言われますが、それは心理法則でしょうか。そうではありません。理由は、同じ「所得」でも労働者の所得と資本家の所得ではそのあり方が異なるからです。
 いま貯蓄をS、労働者の所得をW、資本家の所得をP、労働者と資本家の所得に占める貯蓄の割合をそれぞれsw、spとすると、Sは両方の所得の合計したものですから、次式が導かれます。

S=swW+spP  ①
さて国民所得はY=W+Pなので、①式をこのYで割ると、

S/Y=sw+P/Y(spーsw)  ②
この式においてS/Yは国民経済全体に占める貯蓄の割合(貯蓄率)、
P/Yは資本分配率。

 ここで資本家の貯蓄率(sp)は労働者の貯蓄率(sw)より大きいと考えられることから、国民所得の分配問題とは優れて階級的な問題であることが分かります。

spーsw>0  ③

 もちろん、これには「資本家の貯蓄率(sp)は労働者の貯蓄率(sw)より大きいとは思わない」との反論が出されるかもしれません。


○考えられる意見の検討、2番目

(4)では、どのようにすれば国民経済を発展させるに足るだけの財源を確保できるのでしょうか。

 Y=α/(1-β)+{【1/(1-β)】(I+G)} ⑧
この式で第2項に目を向け、そこで1/(1-β)のことを乗数(m)といい、この式で投資Iが10兆円増えるとGDPは10兆円×m万円だけ増えることになる計算でした。

 そこでいま資本家階級の消費性向を0.5とし、労働者階級のそれを0.8と仮定してみましょう。
 なぜこんなに限界消費性向に開きがあるモデルを採用するのかといぶかる方もいるかもしれません。とりあえず、ここではそれは私たちの経験から言えることではないかと申し上げておきましょう。マルクスの再生産表式によれば、資本家階級は剰余価値Mのうち自らが消費支出したMKを除いた残余をつねに次期の蓄積需要に振り向けるとは限りません。
 通常、その一部は貨幣の保有増加や各種の金融資産の増加に振り向けられていると考えるのが自然の成り行きだと思います。一方、労働者階級は原理的には「裸一貫」、「食べるに追いつく貧乏なし」のたぐいで、大方の人がその日暮らしだと考えられますが、ここでは労働者階級の標準世帯で測ると消費性向が0.8ぐらいと仮定した方が、現実味があると考えます。
 いまある国に資本家階級が100万世帯、労働者階級が1000万世帯あるとしましょう。資本家階級の自由になる所得が各世帯で年当たり3000万円とすると、消費性向は0.5(50%)なので、3000万円×100万世帯×0.5=150兆円だけ消費することになるでしょう。一方、労働者世帯の消費支出は年当たり500万円として、消費性向は0.8(80%)とより高く、したがって500万円×1000万世帯×0.8=400兆円になると仮定しましょう。

 いま政府の需要追加策により、これらモデル世帯に各々10万円の臨時収入があったなら、両階級の消費行動はどうなるでしょうか。このとき、年収が3000万円の資本家階級ではその10万円の48%(βK)=4万8000円を消費にまわし、他方の労働者階級は10万円の79%(βL)=7万9000円を消費するといたしましょう。
 すると社会全体で測った追加所得の中から消費にまわった総額としては、次のとおりになるでしょう。

資本家階級:
10万円×100万世帯×0.48=4800億円
労働者階級:
10万円×1000万世帯×0.79=7兆9000億円
両者の合計は8兆3800万円となります。
 
 今度は、労働者階級世帯の追加所得を10万円から2倍の20万円に増やし、資本家階級に対しては高所得を理由に政府による追加所得の支給対象からはずしたといたしましょう。すると、増加分の消費総額はつぎのようになるでしょう。なお、そのときの労働者階級の限界消費性向(βL)を0.75としておきます。

労働者階級:
20万円×1000万世帯×0.75=15兆円

 したがって、この例では、両階級に対し等しく財政支援を行ったときに比べ、高額所得世帯としての資本家階級(自営業者のことではありません。)に対する財政支援を基本的に行わず、代わりに労働者階級をはじめとする勤労者にその分の財政支出を振り向けた方が、社会全体で見た消費需要の増加はより大きくなることがわかります。
 なお、このことは、当面資本家階級の社会での役割を否定する意味ではなく、国民経済が某かうまく回るようになることによって、この国の全ての人々に経済的恩恵が回るようになるのではないか、という道理を説明するものです。(以上は、ホームページ、丸尾泰司「戦後日本の政治経済社会の流れ」より転載。詳しい展開はそちらを参照されたい。)
(続く)
 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

○〇549の15『自然と人間の歴史・日本篇』消費税と所得税

2019-03-29 07:09:44 | Weblog
549の15『自然と人間の歴史・日本篇』消費税と所得税

 消費税の増税を避けるには、それなりの歳入増を考えないといけないだろう。その検討項目の一つが、所得税の課税強化であって、ここではまず、この間の所得税の推移を紹介しておきたい。

◎所得税にかかる税率表
〇1974年(17段階)
10.5%(~60万円)
12%(60万1円~120万円)
14%(120万1円~180万円)
16%(180万1円~240万円)
18%(240万1円~300万円)
21%(300万1円~400万円)
24%(400万1円~500万円)
27%(500万1円~600万円)
30%(600万1円~700万円)
34%(700万1円~800万円)
38%(800万1円~1000万円)
42%(1000万1円~1200万円)
46%(1200万1円~1500万円)
50%(1500万1円~2000万円)55%(2000万1円~3000万円)
60%(3000万1円~4000万円)
65%(4000万1円~6000万円)
70%(6000万1円~8000万円)75%(8000万円超)

〇1984年(15段階)
10%,5%(~50万円)
12%(50万1円~120万円)
14%(120万1円~200万円)
17%(200万1円~300万円)
21%(300万1円~400万円)
25%(400万1円~600万円)
30%(600万1円~800万円)
35%(800万1円~1000万円)
40%(1000万1円~1200万円)
45%(1200万1円~1500万円)
50%(1500万1円~2000万円)
55%(2000万1円~3000万円)
60%(3000万1円~5000万円)
65%(5000万1円~8000万円)
70%(8000万円超)

〇1987年(12段階)
10%,5%(~150万円)
12%(150万1円~200万円)
16%(200万1円~300万円)
20%(300万1円~500万円)
25%(500万1円~600万円)
30%(600万1円~800万円)
35%(800万1円~1000万円)
40%(1000万1円~1200万円)
45%(1200万1円~1500万円)
50%(1500万1円~3000万円)
55%(3000万1円~5000万円)
60%(5000万円超)

〇1988年(6段階)
10%(~300万円)
20%(300万1円~600万円)
30%(600万1円~1000万円)
40%(1000万1円~2000万円)
50%(2000万1円~5000万円)
60%(5000万円超)

〇1989年(5段階)
10%(~300万円)
20%(300万1円~600万円)
30%(600万1円~1000万円)
40%(1000万1円~2000万円)
50%(2000万円超)

〇1995年(5段階)
10%(~330万円)
20%(330万1円~900万円)
30%(900万1円~1800万円)
40%(1800万1円~3000万円)
50%(3000万円超)

〇1999年(4段階)
10%(~330万円)
20%(330万1円~900万円)
30%(900万1円~1800万円)
37%(1800万円超)

〇2007年(6段階)
5%(~195万円)
10%(195万1円~330万円)
20%(330万1円~695万円)
23%(695万1円~900万円)
33%(900万1円~1800万円)
40%(1800万円超)
〇2015年(7段階)
5%(~195万円)
10%(195万1円~330万円)
20%(330万1円~695万円)
23%(695万1円~900万円)
33%(900万1円~1800万円)40%(1800万1円~4000万円)
45%(4000万円超)(注)税制の抜本改革の一環として、2013年3月に、所得税法と相続税の法の改正が行われたことによる。


(出所)税務研究会「税法便覧」各年度版、等

 これによると、例えば2007年からの所得税額(国税)は、課税所得が
2500万円の人は、1800万円までの分についてはそれぞれのバケツ(5段階)が一杯になるごとにそれぞれの税率だけの税金がかかり、最後の6段階目、つまり1800万円を超え2500万円までの700万円について40%の税金がかかるように計算される。従って、この人の全体にかかる税額は6段階それぞれでかかる税額の合計額となる。

 続いて、2016年分の申告納税者の所得税負担率が、国税庁から発表されている。その中では、所得の大きさにより負担の実際がどうなっているかが示されている。
具体的には、次のようである。
 申告ベースでの合計所得金額が250万円のところでは2.8%、300万円のところでは3.1%、400万円のところでは3.8%、500万円のところでは4.9%、600万円のところでは6.4%、700万円のところでは7.9%、800万円のところでは9.2%、1000万円のところでは10.7%、1200万円のところでは12.8%、1500万円のところでは15.5%、2000万円のところでは18.5%、3000万円のところでは22.5%、5000万円のところでは26.6%、そして迎えた1億円のところで28.8%となるつている。
 この負担率のピークを越えてからは、負担率が徐々に下がっていく。合計所得金額が2億円のところでは28.2%、5億円のところでは25.3%、10億円のところでは22.6%、20億円のところでは同じく22.6%、50億円のところでは20.0%、100億円のところでは17.0%、そして100億円以上になると15.9%へと下がる(国税庁「申告所得税標本調査(税務統計から見た申告所得税の実態)、2016年の数値」)。
 すなわち、申告所得が1億円超の富裕層は、税負担率が下がることがわかっているのだ。それに至るまでの税率は徐々に上がっていくが、これは私たちがよく話をしているとおりである。ところが、1億円の山を超えると、そこはもう普通人にとっては「前人未踏」であるかのような税の世界であって、ここに捕捉されないでいる膨大な所得の手取り額こそが、年々にたまって巨額のストックへと成長を遂げていくのだと推察される。

(続く)
☆☆☆☆☆☆






○〇549の16『自然と人間の歴史・日本篇』消費税と相続税

2019-03-29 07:04:13 | Weblog
549の16『自然と人間の歴史・日本篇』消費税と相続税

 消費税の増税を避けるには、それなりの歳入増を考えないといけないだろう。その検討項目の一つが、相続税の課税強化であって、ここではまず、この間の相続税の推移を紹介しておきたい。

〇1987年12月改正、1988年1月~1988年12月まで(14段階)
課税価格(法定相続分に応ずる取得金額)、税率、控除額
200万円以下 10%
200万円超~500万円以下 15%
500万円超~900万円以下 20%
900万円超~1500万円以下 25%
1500万円超~2300万円以下 30%
2300万円超~3300万円以下 35%
3300万円超~4800万円以下 40%
4800万円超~7000万円以下 45%
7000万円超~1億円以下 50%
1億円超~1億4000万円以下 55%
1億4000万円超~1億8000万円以下 60%
1億8000万円超~2億5000万円以下 65%
2億5000万円超~5億円以下 70%
5億円超~ 75%
課税最低限2000万円+(400万円+法定相続人)


〇1988年12月改正、1989年1月~1992年12月(13段階)
課税価格(法定相続分に応ずる取得金額)、税率、控除額
400万円以下 10%
400万円超~800万円以下 15%
800万円超~1400万円以下 20%
1400万円超~2300万円以下 25%
2300万円超~3500万円以下 30%
3500万円超~5000万円以下 35%
5000万円超~7000万円以下 40%
7000万円超~1億円以下 45%
1億円超~1億5000万円以下 50%
1億5000万円超~2億円以下 55%
2億円超~2億5000万円以下 60%
2億5000万円超~5億円以下 65%
5億円超~ 70%
課税最低限4000万円+(800万円+法定相続人)

〇1992年12月改正、1993年1月~1994年12月まで(13段階)
課税価格(法定相続分に応ずる取得金額)、税率、控除額
700万円以下 10%
700万円超~800万円以下 15%
800万円超~1400万円以下 20%
1400万円超~2300万円以下 25%
2300万円超~3500万円以下 30%
3500万円超~5000万円以下 35%
5000万円超~7000万円以下 40%
7000万円超~1億円以下 45%
1億円超~1億5000万円以下 50%
1億5000万円超~2億円以下 55%
2億円超~2億5000万円以下 60%
2億5000万円超~10億円以下 65%
10億円超~ 70%
課税最低限4800万円+(950万円+法定相続人)


〇1994年12月改正、1995年1月~2002年12月まで(9段階)
課税価格(法定相続分に応ずる取得金額)、税率、控除額
800万円以下 10% なし
800万円超~1,600万円以下 15% 40万円
1,600万円超~3,000万円以下 20% 120万円
3,000万円超~5,000万円以下 25% 270万円
5,000万円超~1億円以下 30% 520万円
1億円超~2億円以下 40% 1,520万円
2億円超~4億円以下 50% 3,520万円
4億円超~20億円以下 60% 7,520万円
20億円超~ 70% 2億7,520万円

〇2002年12月改正、2003年1月~〇〇まで(5段階)
課税価格(法定相続分に応ずる取得金額)、税率、控除額
1,000万円以下 10% -
1,000万円超~3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超~5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超~1億円以下 30% 700万円
1億円超~3億円以下 40% 1,700万円
3億円超~ 50% 4,700万円
(使用方法)法定相続分に応じる取得金額×税率=相続税の総額の基となる税額


〇相続税率の改正により2016年1月1日からの実施(8段階)
課税価格(各法定相続人の法定相続分に応ずる取得金額)、税率
1,000万円以下 10% -
1,000万円超~3,000万円以下 15%
3,000万円超~5,000万円以下 20%
5,000万円超~1億円以下 30%
1億円超~2億円以下 40%
2億円超~3億円以下 45% 
3億円超~6億円以下 50%
6億円超~ 55%
(使用方法)法定相続分に応じる取得金額×税率=相続税の総額の基となる税額

注)税制の抜本改革の一環として、2013年3月に、所得税法と相続税の法の改正が行われたことによる。

 こうしてみると、今世紀に入ってからの相続税の税率からは、それまでの60%や70%といった高率の課税が姿を消してい。これでは、真摯なる「福祉国家」はいつまでたっても成立し得ない。
 そうなっている理由としては、「社会的合意」をうることが難しいことがあるだろう。とはいえ、今世紀に入って経済的格差がとみに拡大してきている中では、世代間移転の半面としての資産引継ぎについても、高齢者などの扶養を社会全体で引き受けることとの釣り合いで課税強化を進めるべきだろう。

(続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





○〇549の17『自然と人間の歴史・日本篇』消費税と法人税

2019-03-29 07:00:26 | Weblog
549の17『自然と人間の歴史・日本篇』消費税と法人税

 さて、消費税の増税を避けるには、それなりの歳入増を考えないといけないだろう。その検討項目の一つが、法人税の課税強化であって、ここではまず、この間の法人税の推移を紹介しておきたい。
◎法人税
〇法人税の税率表(1981年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には 30%
年800万円超の課税所得の場合には 42.0%
期末資本金1億円超企業 42.0%
協同組合・公益法人・特定医療法人 25%



〇法人税の税率表(1984年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には 31%
年800万円超の課税所得の場合には 43.3%
期末資本金1億円超企業 43.3%
協同組合・公益法人・特定医療法人 26%



〇法人税の税率表(1985年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には 31%
年800万円超の課税所得の場合には 43.3%
期末資本金1億円超企業 43.3%
協同組合・公益法人・特定医療法人 28%



〇法人税の税率表(1989年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には 29%
年800万円超の課税所得の場合には 40.0%
期末資本金1億円超企業 40.0%
協同組合・公益法人・特定医療法人 27%



〇法人税の税率表(1990年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には 28%
年800万円超の課税所得の場合には 37.5%
期末資本金1億円超企業 37.5%
協同組合・公益法人・特定医療法人 27%


〇法人税の税率表(1998年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には 25%
年800万円超の課税所得の場合には 34.5%
期末資本金1億円超企業 25%
協同組合・公益法人・特定医療法人 27%


 この法人税については1999年4月1日から開始する事業年度から、それまで34.5%であった基本税率が30%へ引き下げられた。また、法人事業税9.6%へ引き下げに加えて、株式交換などの課税の特例が設けられた。
 そのときの新法人税の税率の法的根拠は、法人税法本法の税率(本則税率)の規定にかかわらず、負担軽減法に定める税率(特例税率)とされている。その法人税の税率で、特定の共同組合等で、年10億円超の所得に対しては26%(本則税率30%)の税率が適用されている。
 また、その法人税率を適用される法人が1999年4月1日以後に解散(合併による解散を除く)をした場合の清算所得に対しては27.1%共同組合等の場合は20.5%の税率となる特例も設けられた。

〇法人税の税率表(1999年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には 18%
年800万円超の課税所得の場合には 30%
期末資本金1億円超企業 30%
協同組合・公益法人・特定医療法人 22%(26%)

(注)1.核事業年度の所得に対する税率のうち、普通法人に対する中小法人の軽減税率は、資本金1億円以下の法人所得金額のうち、年800万円以下の金額について適用される。
2.協同組合等の()書きの税率は、特定の共同組合等の所得のうち10億円を超える分のものである。

〇法人税の税率表(2011年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には 15%
年800万円超の課税所得の場合には 25.5%
期末資本金1億円超企業は30%
協同組合等
年800万円以下の課税所得の場合には 18%
年800万円超の課税所得の場合には22%

公益法人等
年800万円以下の課税所得の場合には 15%
年800万円超の課税所得の場合には19%または25.5%


〇法人税の税率表(2012年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には15%
年800万円超の課税所得の場合には 25.5%
期末資本金1億円超企業は25.5%
協同組合等
年800万円以下の課税所得の場合には 15%
年800万円超の課税所得の場合には 19%

公益法人等
年800万円以下の課税所得の場合には 15%
年800万円超の課税所得の場合には19%または25.5%


〇法人税の税率表(2015年4月1日以後開始の事業年度)
普通法人・人格のない社団法人
期末資本金1億円以下企業
年800万円以下の課税所得の場合には15%
年800万円超の課税所得の場合には 23.9%
期末資本金1億円超企業は23.9%
協同組合等
年800万円以下の課税所得の場合には 15%
年800万円超の課税所得の場合には 19%

公益法人等
年800万円以下の課税所得の場合には 15%
年800万円超の課税所得の場合には19%または23.9%

(続く)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

♦️363の7『自然と人間の歴史・世界篇』物理学とその思想(ド・ブローイの因果的確定不可能論)

2019-03-28 09:55:22 | Weblog
363の7『自然と人間の歴史・世界篇』物理学とその思想(ド・ブローイの因果的確定不可能論)
 
 さて、物事をだんだんに突き進めていくと、いったい何が見えてくるのだろうか。そのことを真摯に考えさせてくれるものに、因果の連鎖というものがあろう。それによると、いろいろな手段や方法を用いて思索というか、探求というか、努力によりだんだんに手繰り寄せていくうちに、その見極めようとする事象なりが、観察者にはっきり見えてくるというものだろう。
 しかし、物理学者のド・ブローイは、このような類の考え方に、直ちに反論というわけではないか、大いなる疑問を呈している。その中でも、興味深い一説には、こうある。
 「古典物理学は、観測する「主観」とは全く独立に記述することの出来る客観的実在が存在することを本質的に予想している。ボーアが鋭く観察している通り、古典物理学が厳密な科学という称号を要求し得た理由は正にここにある。ところが現代の微視的物理学においては観察され測定される現象を観察法及び測定法からきっぱりと離すことが出来なくなっている。(中略)
 すなわち、古典物理学は、観測する「主体」からは全く独立な「外界」と呼ばれる客観的世界の一部分と、この外界を主体がそれに変更を加えずに量的に認識しかつ研究する際に用いる測定器械や感覚器官のような客観的世界の別の部分との間に、人為的な切れ目をつけるに反して、量子力学は、そういう切れ目の性質を指摘して、我々が観測において用いる手段と全く独立に物理的実在を記述することが、厳密な意味においては不可能だということを証明した。」(ド・ブローイ著、本田喜代治・平岡昇による訳「物質と光」岩波文庫、1933)
 このような言い方には、人間の力では太刀打ちできないような、超自然的なものにぶち当たるというのではないところに、科学者らしい態度が覗えよう。ありていにいうと、ここにおいては「神」などというものを持ち出して述べていないので、かえってわかりやすい。一つには、人間の知の力がまだそこまで到達していないというという理解があってよいのだろう。言い換えると、それだからこそ、人間にとっての認識の現段階での真実味、有り難さが増してくるのではないだろうか。

(続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



○〇549の14『自然と人間の歴史・日本篇』消費税とインボイス

2019-03-27 08:46:38 | Weblog
549の14『自然と人間の歴史・日本篇』消費税とインボイス
 
 政府が今回の消費税導入から数えて4年後に導入しようとしているインボイス制度なるものは、これに関心を持っている税の専門家などが長らく待ち望んできたものであるようだ。例えば、こうある。
 「(前略)しかし、現在の帳簿方式では、税額の転嫁は不透明である。なぜならば、帳簿方式では、各事業者が独立して自らの帳簿に基づき仕入に係る税額を計算するため、売り手から買い手への税額の転嫁という意識は希薄であり、税の転嫁が曖昧になるからである。
 また、前述のように現行の制度では、消費者や免税事業者から仕入れについても仕入税額を認めている。裏を返せば、帳簿方式の場合には、仕入先が課税事業者か、免税事業者か、をインボイスの有無で確認できないため、これらの者からの仕入であっても、課税事業者からの仕入と同様に、仕入税額控除を認めざるをえないと考えられる。
 したがって、免税点制度と帳簿方式の二つの制度により、「前段階で税負担をしていないにもかかわらず、これからの仕入について税額控除を認めることによって付加価値税の持つ前段階控除方式を非理論的なものにしているだけでなく、税負担の公平性を阻害している」といえる。
 また、現行の帳簿方式で税の転嫁が不明確であれば、小規模事業者が次段階への売上先に対して経済的力関係(価格支配力)から適正に消費税を上乗せ転嫁できないという問題が考えられる。」(依田文人「消費税制度におけるインボイス方式導入の提言」)

 要するに、インボイスを導入することで、本来納められるべき消費税が事業者の手元に残る「益税」がなくなっていくであろうし、なによりも流通する中での「多段階課税」のプロセスが今より明確化されることで、ある段階で課税され、のちの段階で再び課税されるという「累積課税」を解消するとともに、脱税を自動的に防ぐ機能も果たすことになるだろうと。
 ついてはは、かかるインボイスの強制は、当該の財やサービスの購入事業者にとっては世の中に通用していく手形のようなものだから、中小零細事業者であっても、税額分だけ価格を引き上げるための道具になりうる訳なのだ。

 そんな欧州並みにして、「胸を張れそうな」制度らしいのだが、直ぐには実施できない。そこでまずは、食料品の譲渡を中心とした軽減税率の導入に合わせて、この10月から2023年9月までの間は、この仕入税額控除につき、現行の「請求書等保存方式」を維持しつつ、軽減税率の適用対象となる商品の仕入れかそれ以外の仕入れかの区分を明確にするための、記載事項を追加した帳簿及び請求書等の保存が要件とされるとのこと。これを、「区分記載請求書等保存方式」という。

 具体的に言うと、現行の請求書等保存方式において記載が必要な事項に、次のものが追加されるという。その1としては、帳簿に課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合にはその旨を記す。
 その2として、区分記載請求書等においては、課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合にはその旨を書く。
 さらに、 軽減税率と標準税率との税率の異なるごとに合計した課税資産の譲渡等の対価の額(税込み)を入れる。但し、入手した請求書等に上記の記載が無い場合でも、買い手側で追記してもよいとのこと。

(続く)

☆☆☆☆☆☆


○○539の13『自然と人間の歴史日本篇』消費税増税と国民負担率

2019-03-26 09:41:30 | Weblog

539の13『自然と人間の歴史日本篇』消費税増税と国民負担率

 それは、2019年2月28日のことであった。財務省は、2019年度の国民負担率の見通しを発表した。

 それによると、日本の値は、2年度続きの42.8%になる見通しだという。ここに国民負担率とは、国民所得に占める租税負担(国税・地方税)と社会保障負担(年金・医療・介護・健康保険など)の合計額の割合を示したものだ。

 同省が算出した国民負担率は、2016
年度に42.1%を記録した。以降は、42%台で推移している。この傾向を映して、2019年度も景気回復が続くことにより、前年度並みとの結果を得たらしい。ちなみに、その通りにならなくても責任を問われない、それでいて「日本での国民負担が少ない」のをアピールできよう。

 また、財務省は言わない、国民負担率に財政赤字対国民所得比を加算したのが「潜在的な国民負担率」であって、こちらの2019年度の値は幾分高まろう。

 国民負担率を国際比較(2016年実績)すると、どうだろう。財務省によると、、フランスが67.2%、スウェーデンが58.8%などが、日本よりもかなり高い。

 さらには、そもそもの国民負担率というのは、国民所得ではなく国内総生産(GDP)が分母にくるべきだ、との意見もあろう。

 なお、参考として、一国の経済状況を知るための、GDP、GNP関連指標のあらましを次に記載しておきたい。

 まずは、①国内所得を見よう。一国の経済活動を分配面からみたものに、国内所得(DI:Domestic Income)があり、それには2つの種類がある。一つは国内純所得(DNI:Domestic Net Income)であり、もう一つは国内所得(狭義)だ。

 ②として、国民所得として、一国の経済活動を分配面からみたものに、国民所得(NI:National Income)がある。これには2つの種類がある。一つは国民純所得(NNI:National Net Income)であり、もう一つは国民所得(狭義)だけど。

 その③として、三面等価の原則(国内総生産、国内総所得、国内総支出)を伝えよう。こちらは、一国の生産活動を生産面からみた国内総生産(GDP:Gross National Product)と、これを分配面からみた国内総所得(GNI:Gross National Income)、そして支出面からみた国内総支出(GDE:Gross Domestic Expenditure)がある。いずれも、は同じ大きさとなっていることから、この関係を三面等価の原則という。

 その④としては、国内純所得、国内所得がある。こちらでは、国内での生産には機械や建物といった設備を用いる。これらの価値はその使用によって時々刻々減少していて、その価値が尽きる時には新しいものと取り替える(更新)しないといけない。そこで、企業会計上は毎年更新の時のための資金を貯めておく。

 この毎年の積み立て分を減価償却(引当金)といい、一国の一年間の減価償却の合計を固定資本減耗と呼ぶ。国内総生産から固定資本減耗を差し引いたものが国内純生産であり、また、国民総所得から固定資本減耗を差し引いたのが国内純所得だ。

 こちらは市場価格表示になっていてる。国内総生産、国内総所得でいう総(グロス)と国内純生産、国内純所得でいう純(ネット)との区別は、その統計値が固定資本減耗を含むか含まないかの違いに他ならない。
 こうして得られた国内純所得は(間接税ー補助金)が控除されていないことから「市場価格表示の国内所得」ともいわれよう。さらに実体を把握するには、ここから間接税を差し引き、補助金を加算する必要があろう。言い換えると、純間接税(間接税ー補助金)を控除しなければならない。

 というのは、この場合の価格は、間接税の分だけ高くなり、補助金の分だけ低くなっている、換言すると、純間接税の分だけ高くなっている。こうして得られたものが国内所得(Domestic Income)であって、要素費用表示となっていることから、「要素費用表示の国内所得」ともいわれる。
 つまり、国内純所得は市場価格表示となっているものを指し、国内所得は要素費用表示となっていて、その区別は統計値が(間接税ー補助金)を含むか含まないかの違いだ。
 その⑤として、国民総生産、国民総所得がある。こちらは、一国の生産活動を生産面からみたものとして、国内総生産=国内総所得に海外からの要素所得を加え、海外への要素所得を差し引いたのものが国民総生産(GNP:Gross National Product)=国民総所得(GNI:Gross National Income)である。
 その⑥として、国民純所得と国民所得とがある。国民総所得から固定資本減耗を差し引くと、市場価格表示の国民純所得となる。また、そこから純間接税を差し引くと要素費用表示の国民所得となろう。

 後者の要素費用表示の国民所得は雇用者報酬、営業余剰・混合所得から成っていて、後者の営業余剰・混合所得は財産所得と企業所得から成り立つ。ここに財産所得とは、土地や資本設備及び資金などの生産要素の提供者に分配される要素としての地代や利子、配当などをいう、。

 それから、企業が雇用者に雇用者報酬を支払ったあとの企業の受取り分を企業所得といい、こちらは法人貯蓄や法人税の支払い、役員報酬などの支払いにあてられよう。

 なお、(参考例)として、1998年の国内総所得(=国内総生産)の構成(単位は10億円)は、以下の通りであった。
1.雇用者所得:282,541
2.営業余剰:90,612
3.固定資本減耗:83,194
4.間接税:43,801
5.補助金:3,048
よって純間接税=(間接税ー補助金)は40,753
6.統計上の不突合:1,398
7.海外からの要素所得の純受取:7,215
8.国内総生産=国内総所得:(1+2+3+4-5+6):498,499
9.国内純生産=国内純所得(DI:Domestic Income,市場価格表示の国内所得):(8-3):415,305
10.国内所得(DI:Domestic Income,要素費用表示の国内所得)
:(9-4+5):374,552
11.国民総生産=国民総所得:(8+7):505,714
12.国民純生産=国民純所得((NNI:National Net Income,市場価格表示の国民所得)
):(8+7ー3ー6):498,499+7,215ー83,194ー1,398=421,122
13.国民所得(NI:National Income,要素費用表示の国民所得):(10+7-6):380,369
14.(=13):国民所得(NI:National Income,要素費用表示の国民所得):(1+2+7):380,368
出所:経済企画庁「国民経済計算」より。

(続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


○○549の12『自然と人間の歴史、日本篇』消費税増税への各界の動き

2019-03-24 23:14:13 | Weblog

549の12『自然と人間の歴史、日本篇』消費税増税への各界の動き

 2019年3月現在、あと半年余りで消費税が上げられようとしている中、この政府方針の脇に追いやられつつある主権者たる国民は、どのように相対していくのだろうか。まずは、消費税に関わりの深い筋の動向に目を向けたい。

 「消費税率10%への引き上げに反対する税理士らが2月4日、東京千代田区の衆議院会館で会見を開き、全国の税理士400人が賛同する「消費増税と複数税率の導入に反対します」とするアピールを発表した。

 アピールでは、「10%への増税は物価を引き上げ、購買力を低下させ、貧困と格差を拡大する」として、国民生活と日本経済に大きな打撃を与えることを強調。さらに複数税率の導入は、「複雑な税制に加え、新しいポスレジの購入など負担は甚大」と、中小企業の経営に大きな困難をもたらすことを指摘している。」(「税理士新聞」2019年2月25)

 続いては、世論の動向をどう見たらよいのだろうか。まずは、読売新聞が2018年10月に実施した「電話全国世論調査」において、「消費税率は、来年10月に、8%から10%への引き上げが予定されています。予定通り、10%に引き上げることに、賛成ですか、反対ですか。」の問いに対し、賛成が43%、反対が51%、答えないが6%であったという。

 もう一つ、朝日新聞が2019年2月に実施した「全国世論調査(電話)」において、「消費税を予定通り、今年10月に、10%に引き上げることに賛成です。」の問いに対し、賛成が38%、反対が55%、答えないが6%であったという。

 このように見てくると、今回の消費税増税への国民の不満や怒りは、決して小さくないのである。「そうだ」としたら、次はどうしたらよいのか、ということになるだろう。

(追記の予定)

(続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


○○549の11『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税と対外資産

2019-03-24 21:11:29 | Weblog

549の11『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税と対外資産

 海外からは、日本は一体いくら溜め込めば止まるのだろうかと、びっくりされているのではないだろうか。そのことを顧みてか、消費税増税に反対する意見の中には、我が国の対外資産の一部を取り崩せばいいではないか、というものがありえよう。

 まずは、2016年末での資産の合計だが、対外資産が1017兆6766億円もある。そのうちには、外貨準備高が142億円、直接投資が159兆1940億円、さらに対外証券投資の454兆7682億円が含まれる。

 一方、同年末での対外負債の方は、668兆5646億円に上る。そのうち、債務証券として142兆9447億円の債務があり、日本の国債などによるものだ。また、直接投資の受け入れによるものが、11兆7480億円を数える。そういうことで、正味の対外資産、つまり「対外純資産」と呼ばれるものは、349兆1120億円ということであって、資本主義国では最大規模に膨らんでいる。

 関連していうと、我が国のストックとしての直接投資の額は、2017年末で174兆6990億円にもなっている。これに引き換え同負債については、28兆5550億円となっており、外国へ出て行っている投資の方が断然多い。

 さらに、アメリカの政府サイドの統計(インターネットのサイトで情報を入手)を見ると、アメリカで発行される国債などの保有者ランキングが載っている。これによると、2018年12月時点での保有トップは中国(本国)であって、1兆1235億ドルだ。そして第二位の保有主は日本であり、1兆423億ドル分を保有しているという。人口が中国の約十分の一の我が国が、中国と競り合いを演じる程に米国債を購入しているのは、驚きだ。

 それからもう一つ、民間が保有している資産と負債の残高を取り上げよう。2016年末での状況は、こうである。まず、非金融資産としての2116兆5781億円と、金融資産としての5695兆670億円であって、その合計としての総資産は7811兆6451億円に上る。大変な額だといえよう。その一方、負債は4584兆9731億円であるので、正味の資産としては3226兆6720億円が導かれる(内閣府「2018年版国民経済計算年報」)。

(続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


○〇549の9『自然と人間の歴史・日本篇』財政赤字の現状と見通し

2019-03-23 20:35:05 | Weblog

549の9『自然と人間の歴史・日本篇』財政赤字の現代と見通し

 今回の消費税増税がなぜ必要なのかの理由付けに最も高い頻度で使われるのが、フローとしての毎年の予算で取りざたされる基礎的収支そして財政赤字と、ストックとしての財政赤字であろう。

 前者においては、国債の発行に頼らなくても持続可能な財政が目指されるものの、近い将来そうはならないみたいだ。それというのも、さる3月27日に成立した2019年度予算では、歳入として国債発行による収入を32兆6605億円(前年度に比べ3.1%減少)あて込んでいる。一方、歳出では、借金の利払いなどでの国債費を23兆5082億円(同0.9%)も見込んでおり、どちらの面でも予算膨張に大いに寄与している。

 もう一つのストックの財政赤字については、もっと重大だ。日本は、先進国中で群を抜いて膨大な額が積み上がっているのだ。まずは、IMF(国際通貨基金)による2019年の見通し(2018年10月時点)で、財政状況の国際比較を行っている。

 これによると、各国のGDP(国内総生産)に対する債務残高の比率、債務は地方債を含む)は、日本が236.6で最大、次のイタリアが128.7、アメリカが107.8と、ここまでが百以上だ。それからは、フランスが96.5、イギリスが87.2、カナダが84.7、ドイツの56.0と続く。

 そこで、一般政府の部門別資産・負債残高を、2016年の実績で見よう。ここで「一般政府」というのは、政府部門を「公企業」とに二分したときのもう一方の呼び名で、国と地方の一般会計や、社会保障特別会計などが含まれる。また、公企業は事業特別会計に属し、「法人企業部門」に含まれる。

 まずは、一般政府の総資産は1302兆2803億円なのに対し、総負債は1284兆5933億円であって、差し引き17兆6870億円が正味の資産だという。そして負債の中では、債務証券の分が1056兆8907億円とほとんどを占めている(内閣府「2018年版国民経済計算年報」)。そういうことなので、2016年時点では「財政危機」が現実化しているとは言い難いのだが、これから先も負債がボンボン積み上げられていくようだと、危うくなっていきそうな感じがしている。

 こうまで肥大化してしまった日本の財政なのだが、この先どのような姿になっていくのかについては、現時点で半ばはわかりそうで、あとの半ばはわかりそうでない。かなりの確率でわかっているのは、今後しばらくの我が国の財政赤字の積み上がりが、人口の高齢化とそれに伴う社会保障費の支出拡大によるものであろう、ということだ。

 ここに「しばらく」とは、そのことで財政のやりくりの難しさ、つまり「綱渡り」を、少なくともあと20年くらいは味わっていかなくてはならないらしいのだ。やがては、おしなべての人口構造そのものがやせ細っていく。それに応じて、ネットでの日本の経済力も徐々に衰えていくであろう。

 なぜそんな予想が成り立つのかというと、経済がこの先しぼんでいくようだと、国の財政も小さくなっていかざるを得ないであろうからだ。そして、このことは、我が国の人口の行く末と大いに関係してくるのである。

 2042年までの推計にて、65歳以上の高齢者は3921万人まで増えよう。一方、15~64歳の年齢層は5978万人に減る見込みだという。その後は、高齢者も減りながら、若い世代を含めた生産年齢人口も、グーッと減っていくのではないかという。

 昨今の経済学者の中の一説には、我が国の人口は減り続けても生産革命を遂行すれば大丈夫だという向きもあるみたいだ。現時点では、その一途さは評価しつつも、そううまくは運びにくいのではないかという印象を禁じ得ない。

 そして、今からおよそ80年後の2100年にさしかかる頃には、我が国の人口は5千万人台に縮減してしまだろうと(厚生労働省傘下の国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集2019」による中位の推定)。

(続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


○〇549の8『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税の根拠が崩壊か(実質賃金のマイナス幅増大)

2019-03-22 10:21:10 | Weblog

549の8『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税の根拠が崩壊か(実質賃金のマイナス幅拡大)

 統計上の実質賃金というのは、厚生労働省の「毎月勤労統計」などに基づき、物価統計も取り合わせて算出されている。ところが、その信頼性に疑いが発生し、いまだに解決の目途が立っていない。とりあえずの議論には、例えばこうある。

 「厚生労働省が公表する「毎月勤労統計」の不正調査問題について、根本匠厚労相は2月5日の衆院予算委員会で、「2018年の実質賃金の伸び率が1~11月のうち9か月で前年同月比マイナスになる」との野党の独自試算について「名目賃金を機械的に消費者物価で割り戻すという前提の限りではおっしゃるとおりだ」と述べ、事実上認めた。(中略)

 安倍政権が各種増減税にあたって社会状況を示す根拠もこの統計にあり、今後の焦点となるのが、10月に予定されている消費税増税が予定通り実施されるかどうかだ。政府は「回復は続いている。だから消費税を上げる準備が整った」と説明した際の根拠もこの統計がベースになっている。

 統計の不正発覚によって、安倍政権が21年5カ月ぶりの高い水準だと盛んに自慢してきた18年6月の現金給与総額は、公表してきた「3.3%の伸び」は「2.8%の伸び」であったことが分かった。さらに毎月勤労統計調査の賃金変動は、前年と同じ事業所で比較する「参考値」で見るのが正しいことが、総務省の指摘で確認された。参考値ならさらに伸び率が縮み、計算すると1.4%になることが分かった。

 厚労省が下方修正した数値では、名目賃金の伸び率も18年1月から同年11月までの全ての月で、これまでの公表値を下回った。物価の伸びを差し引いた実質賃金でも、18年1月から同年11月まで、9月を除く全ての月で低下したのだから、増税の根拠は根底から崩れ去ったと言うしかない。」(「納税通信」2019年2月11日付け)

 (続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 


○〇549の7『自然と人間の歴史・日本篇』非正規労働者など低所得者の消費税負担

2019-03-21 21:19:42 | Weblog

549の7『自然と人間の歴史・日本篇』非正規労働者など低所得者の消費税負担

 今、くるべくしてやってきているのであろうか、「非正規労働者」とされる人たちの、総体としての貧困が。そしていったい、この日本で「非正規労働者」という場合には、就業者のどこからどこまでを指すのであろうか。まずは現に行われている政府統計2017年分で、その概略を示そう。ただし、昨今の統計不正の問題(厚生労働省の毎月勤労統計など)があるので、今はその発覚以前の値でのべさせていただくしかあるまい。

 以下では、とりあえず総務省の統計で話を進めよう。これ(全部を数えているのではなく、ある数を調べて、あとは統計的手法を用いることにより推計して出した数字)においては、全産業で6530万人の就業者が数えられている。まずは、自営業主の全体528万人の内訳からいうと、雇入れのある人が129万人、雇い入れのない人が400万人だ。二番目は、家族従事者であって、151万人だという。

 3番目は、ありとあらゆる雇用者というくくり方になっているのだろうか、かかる総数が5819万人となっている。その内訳としては、常雇、臨時雇、日雇い、それに「雇用者のうち役員を除く雇用者」に区切られる。

 そこで常雇から始めたい。こちらは、役員の349万人と一般常雇の5057万人の合計で5406万人だ。次なるは、臨時雇であって、343万人だという。そして次の次は、日雇いであって、70万人だとされる。

 ここからは、少しばかり分類の発想を転換しよう。雇用者分類の振り出し近くに戻って、その総数は5469万人だ。ここからが、重要だ。正規の職員・従業員に分類される人が3432万人に対し、非正規の職員・従業員が全部で2036万人もいる。その比率は、37.3%だ。

 その内訳としては、パート・アルバイトが1414万人であって、パートについては997万人、アルバイトが417万人がその内訳だ。次なる分類としては、労働者派遣事業所の派遣社員が134万人、契約社員が291万人、さらに嘱託(しょくたく)としての120万人とその他の78万人となっている(総務省統計局「労働力調査年報」2017年版)。

 それでは、ここに含まれる非正規労働者らの得ている賃金は、どのくらいであろうか。国税庁の説明には、「1年を通じて勤務した給与所得者に支払われた給与の総額」の2017年分の平均は、男性が531万5千円、女性が287万円だという。
 その内訳としては、「正規」の男性が547万5千円、同じく女性が376万6千円なのに対し、「非正規」の男性は229万4千円、同じく女性が150万8千円だという(以上は、「平成29年分民間給与実態調査結果について」(2018年9月、国税庁企画課)から引用)。
 

 今回の増税の負担は、だれの負担に向かうのであろうか。それは、第一に庶民にであって、これまでの状況を見ればわかろう。その一つの例として、非正規労働者を含む日本の低所得者層の消費行動への影響を考えたい。ここでは、京都大学研究チームの家計消費に関する論文を紹介したい。

 「・・・前節では、『家計調査』の集計データを用いて、食料価格上昇局面におけるエンゲル係数の変化についてみてきたが、本節では、5年毎に調査される大規模な政府基幹統計である『全国消費実態調査』(総務省)の個票データを用いて、長期的なエンゲル係数関係指標の変化をみてみよう。

 比較対象とする年次は、消費支出全体や食料消費支出がピークであった1990年代半ばに当たる1994年と、直近の調査時期である2014年をとる。また、対象世帯は-集計データでは所得階層別に把握できない-現役世帯(世帯主年齢が65歳未満の勤労者世帯)を取り出す)。(中略)

 すべての所得階層で、可処分所得が減少しており、これに対応して消費支出全体も減少している。所得階層別の増減額(中欄)をみると、高所得層中所得層低所得層の順に、可処分所得が、154.9万円→▲78.6万円→▲58.6万円、消費支出全体が、99.8万円→▲51.9万円→▲33.1万円と、両者はほぼパラレルに減少している。
 他方,食料消費支出については、12.4万円→▲16.8万円→▲15.2万円と、高所得層の方が減少幅を抑制している。変化率(右欄)をみると、食料消費支出と消費支出全体の対照的な傾向が顕著にみてとれ、所得階層が高くなるほど、消費支出全体の減少率が高まる反面、食料消費支出の減少率は抑えられる。

 他方,所得階層が低くなるほど、消費支出全体の減少率より食料消費支出の減少率が大きくなる。貯蓄率をみると、低所得層では低下(以下、略)。」(小嶋大造、大澤秀暁、村上太郎、福島宏祐、小池孝英「食料価格上昇局面における家計消費とエンゲル係数ー所得階層別の変化要因の分析」)

 これにうかがえるのは、この間の低所得者層は一方的に所得の減少をしいられてきた。そんな中、なんとか生活水準を維持すべく、食生活でいうと、低価格帯へのシフトで食料調達量を確保するとともに、その購買のために貯蓄を取り崩している姿なのである。

 

 (続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆