対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

楕円軌道の発見1

2017-07-04 | 楕円幻想
1 楕円上の最大視覚的均差

ケプラーが楕円軌道を発見したときの「束の間の瞬間」(バシュラール)は『新天文学』の第56章に述べられている。火星の軌道は円ではない。ケプラーは円から観測値が示す幅をもつ三日月形を切り取る理由と方法を考えていた。
(引用はじめ)
恐る恐るこういう考えに転じて、改めて考えてみると第45章では意味のあることは何ひとつ述べていなかったから、火星に対する私の勝利はむなしいものだったと思ううちに、全く偶然に最大の視覚的均差を測り取った5°18´という角度の正割に思い至った。この値が100429であることを見たとき、まるで新たな光のもと、眠りから目覚めたかのように、以下の推論をし始めた。
(引用おわり)
最大の視覚的均差5°18´の正割(余弦の逆数)が100429(100000に対して。1を基準にすれば1.00429)であると気づいたときが、楕円発見の瞬間である。
ケプラーの推論をとりあげる前に、この発見の瞬間を復元しようとした3つの図を見ておこう。図と出典。

『ヨハネス・ケプラー』(ケストラー著、小尾信弥・木村博訳、河出書房新社、1977)

『世界の見方の転換3』(山本義隆、みすず書房、2014)
この図には数値が書かれていないが、この図の説明のなかで∠BFAが5度18分と述べられている。

『高校数学でわかるアインシュタイン』(酒井邦嘉著、東京大学出版会、2016)

3つの図に共通するのは最大の視覚的均差(5度18分)が楕円上に想定されていることである。これはケプラーの楕円発見の「通説」になっているようである。あたかもケプラー以前に惑星の軌道が「円」と思い込まれていたのと同じように視覚的均差が「楕円」上にあると思い込まれている。しかし、これはケプラーの発見とは異なっている。ケプラーは視覚的均差を楕円ではなく、円(離心円)上に想定している。楕円軌道は後から描かれるのであって、最大の視覚的均差(5度18分)は楕円上にはないのである。
くわしく見ていこう。

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