対話とモノローグ

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ティコの楕円

2017-09-12 | 楕円幻想
花田清輝の「楕円幻想」(『復興期の精神』所収)の「楕円」は、「地」においては詩人フランソワ・ヴィヨンだが、「天」においてはティコ・ブラエである。ヨハネス・ケプラーではない。
(引用はじめ)
円は完全な図形であり、それ故に、天体は円を描いて回転するというプラトンの教義に反し、最初に、惑星の軌道は「楕円を描くと予言したのは、デンマークの天文学者ティコ・ブラーエであったが、それはかれが、スコラ哲学風の思弁と手を切り、単に実証的であり、科学的であったためではなかった。プラトンの円と同じく、ティコの楕円もまた、やはり、それがみいだされたのは、頭上にひろがる望遠レンズのなかの宇宙においてではなく、眼にはみえない、頭のなかの宇宙においてであった。
(引用おわり)
これを最初に読んだのは1970年代の半ばくらいだったが、30年ほどたって読み直したとき、「楕円」はケプラーの楕円だと思い込んでいた。ティコの楕円と書いてあって驚いた記憶がある。それから10数年たっている。
ティコははたして花田が言ったように、最初の楕円の予言者だったのだろうか。花田清輝は出典を示していないし、鶴見俊輔は「実在のティコ・ブラーエの伝記とどういうかかわりがあるのかわからないが」(解説)と半信半疑である。
調べてみた。

山本義隆『世界の見方の転換』によれば、天に現れる物体の運動で円以外のものがありうることを最初に表明したのは、1472年、ポイルバッハ『惑星の新理論』である。そこには次のようにある。
「水星の周転円の中心は、他の惑星のように誘導円の円形の周を描くのではなく、むしろ平面上の卵形に似た形の周を描く」

次に表明したのがティコである。1588年、『エーテル世界の最近の現象』に次のようにある。
「わが彗星の太陽の周りの周回が申し分のない円ではなく、通常卵型と呼ばれているようないくぶん細長くなった円であるのか、それとも完全な円ではあるがその運動が当初は遅く次第に速められるのか、どちらかであろう。いずれにせよ彗星はたしかに太陽の周りを周回する。そのさい、〔その運動に〕ある程度の不等性がともなうにせよ、混乱したり不規則になったりするわけではない。」

この2人は卵形だが、ティコと同時期に、プトレマイオス理論の誘導円に楕円を用いた数学者がいた。フランソワ・ヴィエトである。楕円で対応させるなら、語呂もいいので、「天」のフランソワ・ヴィエト、「地」のフランソワ・ヴィヨンだろうか。

ティコは最初の楕円の予言者ではない。おそらくティコは楕円とはいっていない。円とは違う可能性があることを述べたのである。楕円はティコではなく、やはりケプラーなのである。

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