ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

日本の心46~天皇の権威で天下の統一を:織田信長

2022-01-04 15:48:32 | 日本精神
 応仁の乱より後、約百年の間、日本は戦国時代となり、国としての統一を失っていました。その分裂状態から、再び統一を取り戻すためには、抜群の力を持つ英雄の出現が必要でした。その英雄こそ、織田信長だったのです。
 信長は、桶狭間の戦いで、自軍の数倍もの規模の今川義元軍に奇襲をかけ、見事、その首を挙げ、一躍戦国のニューリーダーとして名乗りを上げました。また、徳川家康でも歯の立たなかった武田信玄の甲州騎馬軍団を一挙に滅ぼしました。長篠の戦いでの鉄砲作戦が功を奏したのです。馬防柵を作って敵の突撃を防ぎ、柵の後ろに数千丁の鉄砲隊を三列に並べ、代わる代わる一斉射撃させたのです。こんな戦法は、それまで誰もが思いつかなかった戦法でした。類似の戦法がヨーロッパで行われたのは、信長より55年も後のことだったのですから、彼の軍事的天才がわかります。
 しかし、信長は武力によってのみ、天下布武を推し進めたのではありません。信長は、統一には、統一の核となる中心が必要なことを知っていました。そして、その中心はもはや足利将軍ではない、天皇でなければならないと看破していました。ここに彼の政治的天才が見られます。
 信長は最初、足利義昭を将軍に立てて京都に入り、室町幕府を再興しました。しかし、幕府の再興は天下統一のための方法にすぎませんでした。適当な時機がきたら、将軍をご用済みにするつもりでした。中世的秩序を否定した新体制を構想していたからです。そのために、彼が注目したのが、古代以来続く朝廷の権威だったのです。 
 長い戦乱のうちに当時、朝廷は衰え、その権威はかすんでいました。しかし、信長は、わが国特有の国家構造をはっきり見抜き、朝廷の権威の復興こそ、天下統一の道であると考えていました。出兵して上洛に成功すると、信長は皇居の警衛に当たり、費用を献じて皇居を修理するなど、積極的に朝廷との関係を結ぶことに努めたのです。朝廷も信長を抜擢して、天正2年には参議、3年には権大納言、4年には内大臣、5年に右大臣に任命するなどして官位を授けました。足利幕府に抑え込まれた天皇の権威と権限は、信長によって不死鳥のようによみがえってきたのです。
 明治のジャーナリスト・徳富蘇峰は、名著『近世日本国民史』で、次のように評しています。「特筆すべきは、信長が、伝統的、因襲的ではなく、政治的に皇室の尊厳を認めたことである。皇室をもって、天下統一の中枢と為したことである。彼は天下を統一するには、力の大切な事を十二分に自覚した。しかも日本人の心は、いかなる力にても、力でさえあれば、帰服するものとは思わなかった。彼は皇室を中心とした力にあらざれば、日本を統一するあたわずと直覚した。この直覚的見識が、彼の政治的天才たる所以である」。
 こうした信長でしたが、権力に近づくに従い、生来の尊大な性格が増長し、それが災いをもたらすことになります。信長に接したルイス・フロイスの『日本史』は、以下のように伝えています。「彼を支配していた傲慢さと尊大さは非常なもので、そのため、この不幸にして哀れな人物は、途方もない狂気と盲目に」陥っていた、そして「自らが、単に地上の死すべき人間としてでなく、あたかも神的生命を有し、不滅の主であるかのように万人から礼拝されることを希望」し、「予自らが神体である」と公言したというのです。
 晩年の信長は、こうした恐るべき思い上がりにとらわれていました。部下にとっては、彼の気紛れによって、いつ自分の身が危なくなるかわかりません。疑心暗鬼に陥り、信長の一挙手一投足に神経を尖らせる状態でした。そして、信長の不遜と専制は、痛烈な反撃を受けることになりました。明智光秀の謀反です。本能寺の変でした。
 かくして、天皇を奉じて天下を統一しようとした信長は、志半ばで倒れ、天下統一という大事業は、家臣の秀吉に受け継がれることになりました。

参考資料
・徳富蘇峰著『近世日本国民史』(講談社学術文庫)
・百瀬明治著『信玄と信長 天下への戦略』(PHP文庫)

 次回に続く。

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