共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はフランツ・リストの祥月命日〜ペダルがバッハの名を連呼する《BACHの名による前奏曲とフーガ》

2022年07月31日 12時34分56秒 | 音楽
今日は昨日にも増して暑くなりました。早朝から蝉の鳴き声で起こされると、その時点でゲンナリさせられます…。

ところで、今日7月31日はフランツ・リストの祥月命日です。



フランツ・リスト(1811〜1886)はハンガリー王国(当時)出身で、現在のドイツやオーストリア、フランス・パリなどヨーロッパ各地で活動したピアニスト、作曲家です。

1861年にローマに移住した後、1865年に僧籍に入ったリストは晩年、虚血性心疾患・慢性気管支炎・鬱病・白内障に苦しめられました。また、弟子のフェリックス・ワインガルトナーは晩年のリストのことを「確実にアルコール依存症」と証言していますが、それを裏付けるかのように、晩年の簡潔な作品には病気による苦悩の表れとも言うべきものが数多く存在しています。

1886年、バイロイト音楽祭でヴァーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》を観た後の7月31日に慢性気道閉塞と心筋梗塞で亡くなり、娘でヴァーグナーの妻であるコージマの希望によりバイロイトの墓地に埋葬されました。その時建てられていた廟は第二次世界大戦の空襲により崩壊してしまい、戦後しばらくは一枚の石板が置かれているのみでしたが、



1978年には新たな廟が再建されました。

そんなリストの祥月命日の今日は、リストにしてはちょっと珍しいオルガンのための作品をご紹介したいと思います。それは《BACHの名による前奏曲とフーガ》です。

バッハの祥月命日にご紹介した《フーガの技法》にもありましたが、この曲にも



『シ♭=B・ラ=A・ド=C・シ♮=H』

の『BACHの名による主題』が使われています。リストは以前からバッハの芸術に関心を示していて、1840年代にはバッハのオルガン作品の編曲を行い、更に1862年にはバッハの主題を用いたパッサカリアである《バッハの主題による変奏曲》も書いています。

この曲の作曲の直接のきっかけは、1855年に行われた



ドイツ・メルゼブルク大聖堂のオルガンの落成式で演奏されるための新作の依頼を受けたことによります。しかし実際には落成式までに作曲は間に合わず、1年後の1856年5月13日にメルゼブルク大聖堂のオルガンを用いてアレクサンダー・ヴィンターベルガーによって初演され、献呈も彼に行われました。

《BACHの名による前奏曲とフーガ》は1855年から1856年にかけてオルガン版とピアノ版の初稿が書かれた後、1869年から1870年にかけて改訂が施され、オルガン版とピアノ版双方の第2稿がほぼ同時に成立しました。現在この曲が演奏される場合は、オルガン版・ピアノ版ともにこの第2稿が使われるのが一般的です。

この作品はB-A-C-H主題を扱っていて後半にフーガも取り入れられていることから、ヨハン・セバスティアン・バッハへのオマージュであることは明らかです。その一方で、新ドイツ楽派の旗手であったリストらしい前衛的な響きも聴くことができます。

《フーガの技法》の中でのB-A-C-H主題は、3つのフーガのテーマのひとつとして響くものです。一方リストの《BACHの主題による前奏曲とフーガ》では冒頭からペダルでB-A-C-H主題が重々しく登場して、その後も転調を繰り広げながらあちこちでBACHの名前を何度も連呼しています(笑)。

そんなわけで、リストの祥月命日である今日はその《BACHの名による前奏曲とフーガ》をお聴きいただきたいと思います。超絶技巧ピアノ作品で知られるリストの、珍しいオルガン作品をご堪能ください。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする