カタルーニャ「独立住民投票」前夜
ちきゅう座
<童子丸開(どうじまるあきら):スペイン・バルセロナ在住>
いま、スペインでは新しい改革のエネルギーが、思いもかけない形で、爆発しようとしています。
それは15M(キンセ・デ・エメ)以来、久々に感じる巨大な
大衆のエネルギーです。少々長い文章ですが、最後まで是非お読みください。
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http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-3/Catalunya_before_the_referendum.html
カタルーニャ「独立住民投票」前夜
8月17日のテロ(当サイト記事:こちら、こちら、こちら、こちら)の騒動が一段落して後、カタルーニャ州政府は住民投票州法と分離独立関連州法を立て続けに成立させ、10月1日に予定されるカタルーニャ独立の可否を問う住民投票の実施に向けて突っ走っている。
一方で中央政府は「10月1日に住民投票はない」と断言して、その阻止に向けた動きを本格化させた。
実際にこの住民投票がおこなわれるかどうかは未だに不明確だが、その前に、いままでの独立運動の様子と現在の状況について、若干の整理をしておきたい。まさか!そんな馬鹿な!と思われるような、ショッキングな内容を含んでいるかもしれないのだが。
2017年9月20日 バルセロナにて 童子丸開
小見出し一覧
《具体性抜き…独立を巡る議論の空しさ》
《2014年の「住民投票」を振り返る》
《今年9月に入って本格化した「独立戦争」》
《「パンドラの箱」を開けてしまった愚かな中央政府》
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《具体性抜き…独立を巡る議論の空しさ》
私が当サイト「シリーズ:『カタルーニャ独立』を追う」の方々で書いてきたことだが、ここで住んで生活する者として、特に外国人居留民の身としては、この「カタルーニャ独立」問題ほどに空しさを感じるものはない。
大不況にあえぐ2011年ごろから奇妙に盛り上がっていった独立熱に対して、私は、半分はカタルーニャ人たちの心情に同調する熱いまなざしで、半分は外国人居留民の立場からの冷めた眼で眺め続けてきた。
そして奇妙なことに気付いた。独立派と反独立派の議論、州政府と中央政府の議論が、何の交渉も妥協も成立しないまま激しく続けられてきた一方で、そのどちらからも、そこに住む人間にとって最も大切なことがスッポリと抜け落ちている点である。
カタルーニャの独立派と州政府は民族の自治権という理念を振りかざし、それに対して反独立派と中央政府はスペイン国の法律をぶつける。
そしてその双方が自分の主張を「民主主義だ」と強調する。
カタルーニャに住む者たちの独立後の将来がどうなるのかの具体的なイメージだけは、独立賛成派からも独立反対派からも、何一つ、全く語られてこなかったのだ。
カタルーニャが
独立国になれば否応なしにEUから出なければならない。
これはEUの機構上どうしようもないことだ。EU委員会は以前からその点を繰り返し強調してきた。
ところが独立派は「EUがその機構を作り直してカタルーニャを受け入れてくれるはずだ」という妄想を勝手に信じ込んでいる。
EUへの新加入の交渉はそこまで簡単ではない。まして、スペインを含む多くの諸国が
「独立」自体を認めない可能性が高い以上、半永久的に無理な話だろう。
もちろん各国国民の移動の自由を保証するシェンゲン条約域外となるため、今までなら自由に国境線を越えて移動できたEU内の他の諸国はもちろん、バレンシアやマドリードなどカタルーニャ以外のスペイン各地に行くにもパスポートと国境検問が必要となる。
ユーロ圏から外れてもユーロはそのまま使用できるかもしれない。
欧州にはモンテネグロやコソボのように、EUにもユーロ圏にも属さずにユーロを使っている(ユーロが作られる前に独自通貨を持たず、なぜかドイツ・マルクが使われていたので、自動的にユーロを使うことになった)例もある。
しかし、今までカタルーニャ経済を支えてきたEU内からの観光客の数は大幅に減るだろう。
さらに貿易で無関税を維持できる保証はどこにもない。
逆に
スペインは「報復」としてカタルーニャ製品に高い関税をかけ他の国もそれにならう可能性がある。
ではカタルーニャに進出している外国企業はどうなるのか?
カタルーニャがEU外にある以上、EUの市場を失いたくない多くの企業が本拠地をマドリードやフランスにでも移さざるを得なくなるだろう。
今まで住民たち生活を支えてきた社会保障制度はどうなるのか?
独立論者たちからは、こういった人々の生活に直接に繋がる具体的な未来像について、一度たりとも聞いたことがない。
ところがそういった独立派の態度よりもはるかに奇妙なことがある。
独立反対論者やマドリードの政治家たちの口からさえも、こういった独立後の予想やそれに基づいた反対論を聞いたことがないのである。
いずれにせよ、カタルーニャとスペインがどうなろうとも、
ますます富と力を得ていくのは上の「1%」であり、ますます生きるすべを失っていくのは下の「99%」の人間である。
《2014年の「住民投票」を振り返る》
カタルーニャ州政府が独立の是非を問う「住民投票」を手掛けたのはこれが初めてではない。
どこの国の憲法でも一地方の分離独立を前提に作られたものは存在しない。
まして、つい40年ほど前まで独裁国家であり、その独裁政権を支えてきた者たちが作った党が政権を握っているのである。
この国は、日本とは違って、選挙で選ばれた政権党が司法組織や官僚組織に対しても強い力を持っている。
こうして2014年11月9日に非公式の「住民投票」が行われたわけだが、230万人を超える有権者が投票所に向かい、その81%という圧倒的多数が
独立に賛成した。
しかし、カタルーニャの有権者数は約610万人である。さらにこの「住民投票」は、公式の18歳以上の有権者に加え、16歳と17歳の住民および外国籍の者にも投票権を認めたものだった。それらを含めた「有権者」の数はついに公表されなかったが、実際の投票率は間違いなく35%にも満たないだろう。
独立は結局は権力の問題に他ならない。ある国から分離して独立することは、どのような形であれその国の法を破ることであり、国家の機構を破壊することであり、その国を経済的に破綻させることである。
その国は最大限の力を振り絞って抵抗し独立派を潰そうとするだろうし、その周辺諸国も政治的不安定が自分の国に及ばないように様々な干渉や妨害を試みるだろう。「好き嫌い」の問題でも「善い悪い」の問題でもなく、それが現実の世界なのだ。
《今年9月に入って本格化した「独立戦争」》
しかし、いま現実に、スペインとカタルーニャは、10月1日を目指して突っ走っている。
住民投票の土俵の上で理念と法律が正面衝突しているわけだ。これはもう、行きつくところまで行かなければどうしようもあるまい。こちらとしてはその途中経過を書き留めたうえで、あとは10月2日以降になって、その結果を見てみることにしよう。
《「パンドラの箱」を開けてしまった愚かな中央政府》
2017年9月20日の朝、グアルディアシビルは州政府の副知事室、経済局、社会局、外務局などの11か所の主要な事務所を捜索し、経済財務総局長ジュゼップ・マリア・ジュベー、財務部長フランセス・ストゥリアス、副知事室事務局長ナタリア・ガリガなど14名を逮捕し、40点の押収物を出した。
14名もの大量逮捕!? 「人に手を出す」とは…、中央政府は思いっ切り愚かなことをしたものだ。もう収拾がつかないだろう。火に水をかけるつもりで盛大ガソリンをぶっかけてしまったのである。「愚かなことをした」というよりも、根っからの愚か者の集まりだとしか言いようがない。
それはカタルーニャにとどまらず、全国規模で、中央政府の求心力に致命傷を与える性格を持った反政府運動に繋がっていく可能性すら感じる。
http://chikyuza.net/archives/76741