アボルダージュ!!

文芸及び歴史同好会「碧い馬同人会」主宰で歴史作家・エッセイストの萩尾農が日々の思いや出来事を語ります。

「赤!」―舟木一夫コンサート

2020-11-21 | 世情もろもろ
 赤は、勇気の色だ。
「負けるな」と、言っていた気がした。

 コロナ禍で、あらゆる分野で、大切な出来事が止まった。
 ひと月、ふた月、春が逝き、初夏、夏、秋と季節ばかりが、滞りなく過ぎた。
 そして、ようやく、動き出す時が来た時、もう、11月月だ。
 舟木一夫コンサート、感染防止のために、観客はマックスでも50%まで。
 構成された終盤のある曲で、赤の光が会場に満ちた。赤い照明。
 ステージをじっと見つめていた、その視線の先が、突然、赤い光に覆われた。
 外は季節外れの「夏日」、気温は25℃を超えた。それでも、空は、晩秋の青の濃い抜けるような快晴。空が高い。秋である。太陽光が満ちている。
 その太陽光より、赤い、強い光が、会場を満たし、我々を包んだ。
「負けるなよ」
「歩みを忘れるな」
 そんなメッセージが届く。
 ついと、下を向いてしまうような、この数か月の世情だった。
 目に見えない禍は、世界中を覆って、それまでの日常は、もう決して戻らないことを、私たちに突き付けた。
 もう少ししたら、数ヶ月過ぎれば…と、どこかで、かすかに願っていた望みも、叩き潰された、この数ヶ月、八か月、いや、九か月の長い時間。やはり、どうしたって、下を向く。
「一歩、その先の一歩へと、歩こう、負けるな」
 その赤い光はそうやって語り掛けてくるようだった。
 それは、「光」に乗せた「舟木一夫」の想いだろう。そして、「舟木一夫」プラス、バンドメンバー、コーラスの女性たち、スタッフの、この公演に携わった多くの人々の、「想い」「心」なのだ。
「負けるな」
と、赤い光は、私たちにそれらの想いを届け続けていた。
「赤」という色の力強さは、以前から承知していたものの、力強さにプラスした暖かさ(温もり)、他(た)を思う心遣い(思いやり)を、この色に感じたのは初めてだ。
 赤い光の中に流れてくる「舟木一夫」の歌の温もりが、それを届けてくる全員の心の温かさが、「赤」を強いだけの色としないで、いろんなものがプラスとなって、私の心に届いたのだ。
 私は、そんな風に確信して、何年振りかで訪れた奈良をあとにした。
「負けるなよ」
「敗れるなよ、次にまた会おう」
と、ステージからのたくさんの声が、夕暮れかけた中にも、ずっと、聞こえてきていた。


【付記】 
 三月から十月まで、私が心待ちにしていたものは、すべてが中止や延期になった。中には、再延期というものも…。
 舟木一夫公演に関して、一番残念だったのは、九月の新橋演舞場に於ける特別公演。演目は『壬生義士伝』。その発表があった時、私は、
「とうとう、新選組が来た!」
と、狂喜したのだが、コロナのやつ(怒!)が、奪っていった。
 六月は小栗旬クンの『ジョン王』(シェークスピア)。こちらは中止。延期は不可能だろう。
『壬生義士伝』は延期だ。舟木さんが並々ならぬ思いを持っている(と、私は信じる・笑)。
 新橋演舞場での次の公演は、「もちろん、壬生義士伝」と、明言した。
『ジョン王』は旬クンと吉田鋼太郎氏だから、二人のスケジュールがとれないだろう。
 七月、パルコ劇場、三谷幸喜作・演出の『大地』(大泉洋。山本耕史)は、観客を50%にして上演。ライブ配信もやってくれたので、見ることはできた。
 そして、上演を憂えていたのは、10月からの日生劇場『生きる』(鹿賀丈史・市村正親)。
 しかし、50%観客で開催できて、私は、鹿賀丈史の誕生日の10月12日に、九か月振りに会った仲間たちと観て、終盤は、鹿賀丈史の若いころと変わりない丸みをおびた柔らかな声と歌に、涙・涙。芝居も歌の内容も、生きるということへの思いだから、♪生きていることはそれだけで♪などと、歌が届くと、現在の世情がこういう状況下にあるから、胸が詰まる。
 さらに、出会いが、互いにまだ、俳優でも物書きでも無い、とても若い頃だったから、そこからの半世紀近い歳月の中での出来事が、それぞれの歩みが、脳裏を巡り、芝居に重なった。余計に胸が熱くなる、涙がこみあげてくる。
『生きる』の千秋楽は一人で観た。そして、また、泣いた((笑)。
 ちなみに『生きる』は日生劇場のあとは、地方公演。富山公演などは終わり、本日(11/21)と明日は、福岡。大千秋楽は、11/29と11/30の名古屋御園座。こちらはライブ配信をするそうなので、ライブ配信チケット(4800円)を買ってみてみよう。詳細は、ホリプロ。ライブ配信チケットはイープラスで販売している。(宣伝してしまった(笑)。
 その御園座。『生きる』の公演の後は、二日間の『舟木一夫コンサート』である。二日間3公演の日程が、夜の部は中止。コロナ禍は、しつこいくらいに、我々の望みや光を奪う。
 けれど、「負けるな」……である。「赤」の光を思い出せ…かな。
 因みに、この日の私は、赤い薄いセーターを着ていた(笑)