Go straight till the end!!

世界一周の旅の思い出を綴っています。
ブログタイトルは、出発前に旅日記の表紙に書いた言葉です。

(94)ヴェネツィア③(イタリア)

2010-06-12 20:14:45 | イタリア


 Venezia (ヴェネツィア)( Venice (ヴェニス))滞在二日目に道に迷った際、一人の旅人に出会った。
 
 前述の BONO (U2)も道に迷ったそうだが、ヴェネツィアは道が複雑に入り組んでおり、突然進路を断たれることがよくあった。運河(水路)が行く手を阻(はば)むのだ。



 特にガイドブックの類(たぐい)を持っていたわけではなく、頼りになるのはツーリスト・インフォメーションでもらった地図だけだった。 とは言うものの、いちいち地図を見ながら歩くのは面倒くさかったし、今まで自分の勘で切り抜けてきたという自負みたいなものがあった。
 しかしこの街では自分の勘は頼りにならず、結果的に自分が今どこにいるのかさえ分からなくなってしまった。

 そんな時前方にいる一人の旅行者が目に留(と)まった。手には『地球の歩き方』を持っている。これは渡りに船とばかり、早速声をかけた。
 しかし、何と彼もまた道に迷っていたのだった。

 彼の名は大野さん(仮名)といい、スイスでフレンチのシェフをされているらしい。休暇を利用して小旅行に来たらしいのだが、異国を旅するのは初めてだそうだ。

 長期旅行者に初めて出会ったらしく、こちらに興味を持たれたようだった。
 いろいろ話をしているうちに意気投合して、一緒にムラーノ島へ観光に行ったりしている。



 夕方になり、夕食の時間が近づいてきた。
 「どこかで食事をしませんか。」と言うと、「是非私の作った食事を食べて下さい。」とのこと。こんなに嬉しい提案はない。早速食材を買出しに行くことにした。

 八百屋に着くと、大野さんはフランス語で会話を始めた。イタリア語とフランス語はもともとラテン語から派生した言語なので、通じる部分もあるようだ。
 とそこに、近所のおじさんが入ってきた。
 「 Buongiorno (ボンジョールノ)(こんにちは)と元気よい挨拶をするこのおじさんは、とてもダンディーだった。
 この時、イタリアのファッションのレベルの高さを肌で感じたように思う。この位のお洒落は一般的なのだ。観光地ということを差し引いても、そこに文化の深さを感じた。

 八百屋で野菜を買い、他のお店で肉とワインを購入した。
 しかも、代金は全て大野さんが払ってくれた。「お金を払います。」と言っても彼は聞き入れなかった。
 「そのお金で旅を長く続けて下さい。」と彼は言う。
 結局大野さんの好意に甘えさせてもらった。



 ペンションに戻り、食事を作ることになったのだが、何も手伝わなくていいとのこと(もし手伝ったとしてもかえって足手まといになるだけだっただろう)。
 それにしても手際(てぎわ)がいい。普段作っている量に比べれば2人分など朝飯前なのだろう。

 今となっては料理の写真を残しておかなかったことが悔やまれる
 サラダから始まりメインディッシュまで、この旅で一番美味しい食事を頂いたと思う。
 実はこの時食べたトマトのサラダがとても美味しかったおかげで、嫌いだったトマトが食べられるようになった。トマトがこんなにも美味しい食べ物だとこの時初めて知ったような気がする。

 買出しの帰りの光景として覚えている場面がある。
 とあるレストランの前を通り過ぎた時、中に日本人男性と思われる旅行者がいた。食事が出されるのを待っているらしい。特に何もすることなく寂しそうにしていた。
 それはまるで昨日の自分の姿だった。

 食事は単なる栄養補給ではなく、人生を楽しくするものなのだろう。
 楽しい食事が出来た時は本当に幸せを感じる。

 そして、美味しい料理を作る根底にあるのは、食べてもらう人に喜んでもらいたいという気持ちだと思う。大野さんは謙虚な方だがサービス精神旺盛で、料理は愛情だということを身を持って体現されている方だ。



 食事を終え、ワインを飲んでほろ酔い加減になった大野さんが、突然持って来たギターで流したいと言い出した。
 こちらはギターを弾けないのであまり役には立てないが、とにかくやってみることになった。
 しかし、いざ街中に出ると、結構恥ずかしいようだ。人の多いところではなく、静かな公園で落ち着くことになった。
 持って来たギターケースに少額の小銭を入れ、大野さんはギターを弾き始めた。

 彼はクラシックギターを習っていたらしく、弾き始めたのは『愛のロマンス』(スペイン民謡、映画『禁じられた遊び』(ルネ・クレマン監督)の主題歌)だった。他には、『スタンド・バイ・ミー』ビートルズの楽曲など。
 観客はいない。たまに通行人がいる位だ。酔っ払った若者がニルヴァーナの曲を弾いてくれと言ってきたりしたが、出来ないと断った。
 それでもコインを投げ入れてくれる人はいた。大野さんはとても気分よい時間を過ごせたようだ。



 その後宿に戻り、大野さんも同じペンションに泊まることになった。すでに他のホテルの部屋を借りていたが、こちらのペンションに空き部屋があったので借りることにしたのだ。



 翌日、一緒に ACヴェネツィア(現在の FBCユニオーネ・ヴェネツィア)とユヴェントスF.C.の試合を見に行くことになった。縁とは不思議なものだとつくづく思う。



 (写真は、ペンションで撮影したトイレ(外は運河)。下水がどこに流れるのか気になった。)



※地図はこちら