中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

質問に回答します⑧

2018年02月22日 | 情報

Q:弊社は中小企業ですので、メンタルヘルス対策は何もしていません。
でも、メンタルヘルス不調者は出したくありません。未然に防ぐ方法はありませんか? 何をすればよいでしょうか?

A:まず、「未然に防ぐ方法」について、回答します。医学には、「予防医学」という領域があります。
疾病の予防を目的とするだけではなく、傷害防止、寿命の延長、身体的・精神的健康をも目的とする学問のことをいいます。
その「予防医学」には、一次予防、二次予防、三次予防とがありますが、予防医学はその目的から、
第一次予防の健康増進、疾病予防または特殊予防、第二次予防の早期発見・早期措置、適切な医療と合併症対策、
三次予防のリハビリテーションに区分されます。即ち、この一次予防策の実施が、ご質問の回答になります。
因みに、厚労省が策定した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(H18)において、
メンタルヘルス領域での一次予防は、
1.メンタルヘルスケアを推進するための教育研修・情報提供
2.職場環境等の把握と改善  としています。
さらに、厚労省は、一次予防を目的としてH28年に、安衛法第66条の10に「心理的な負担の程度を把握するための検査等」、
即ち「ストレスチェック制度」の実施が規定しました。
このストレスチェックの実施により、不調の未然防止としてのストレスへの気づき、
及び集団分析結果に基づく職場環境改善等を目指しています。

二つ目のご質問、「企業は何をすればよいのか」への回答です。
結論を申し上げれば、経営トップが、経営におけるメンタルヘルス対策の重要性を認識し、
経営トップのリーダーシップのもとにメンタルヘルス対策に取り組むことを、社内に意思表示することが第一義です。
通常経営トップは、メンタルヘルス対策が企業経営に重大な影響を与えることを理解していません。
即ち、単なるリスク対策であり、メンタルヘルス対策が企業経営にどの程度貢献するのか疑問を持っています。
ですから、メンタルヘルス対策が単なるリスク対策ではなく、明日の経営に貢献する「先行投資」であることを、
先行する多くの成功事例や、厚労省・経産省等が提唱する「健康経営」政策を紹介し、
経営トップに認識させることから始めなければなりません。
担当部門が、あるいは担当者が、いくら問題提起しても、徒労に終わることは目に見えています。

さて、視点を変えましょう。第二の電通事件により、働き方改革が、同一労働同一賃金と長時間労働の削減に
焦点が絞られているのが現状です。
しかし、前述した第二の電通事件は、マスコミ報道から推測すると、長時間労働のみで、
うつ病を発症して自殺に追い込まれたとは到底考えられません。
厚労省が発出した「精神障害等の労災認定基準について」に従えば、
・達成困難なノルマが課された②
・ノルマが達成できなかった②
・新規事業の担当になった②
・仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった②
・1か月に80時間以上の時間外労働を行った②
・(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた③
・上司とのトラブルがあった②
等が該当すると考えられ、さらに
・サービス残業(社員らに月70時間を超える時間外労働を「勤務状況報告表」に記載しないよう指導していた)
・入社2年目の女性社員に対しては、能力・経験をはるかに上回る業務付加
等の要因が重なって、報道されているような悲劇になってしまったと推測します。

従って、長時間労働の削減だけでは、目的を達成することは困難と言わざるを得ません。
いま企業に求められるのは、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(H18)で示しているように、
働きやすい、働きがいのある職場づくりを目指すことが必要でしょう。


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