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■藤谷康晴ライブドローイング -踏み越えろ! 解放しろ!-

2007年08月14日 23時43分17秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 
 今年に入り、月イチという驚異的ペースで発表を続ける石狩の若手、藤谷さん。今回は搬入と搬出を含め「4時間1本勝負」です。

 ご存知の方も多いと思いますが、ガラスのピラミッドは、ビニールハウスや温室みたいなもの。風はほとんどなく、熱がこもり、夏はとても暑いです。しかも12日は札幌の最高気温が34.0度になった日。
 そんななかで、休憩もとらず、水を口にすることもなく、ひたすらマーカーやチョークを動かしつづけた藤谷さんの集中力には感服せざるを得ません。

           

 藤谷さんのライブドローイングの題は、内容を暗示していることがよくあります。
 今回は、「解放しろ!」というのは、ふだんはイサム・ノグチの作品とか、行楽地としてとらえられているモエレ沼公園を制作の現場にするぞ! ということなんでしょうか。はっきりとはわかりませんでしたが、「踏み越えろ!」のほうは、会場に入るなり、すぐわかりました。
 藤谷さんは、床面に置いた黒い紙の上を、スニーカーであるきまわっていたのです。

 もともと「ガラスのピラミッド」のアトリウムは、壁面がほとんどない空間です。
 いや、壁面はあるのですが、ほとんどが、三角錐の側面のガラス窓で、平面を展示したり、ライブドローイングの支持体を貼り付けたりするには、はなはだ不向きです。
 となると、かくための紙は床面に置く以外にありません。
 床は、古代ローマの円形劇場が正方形になったような形状をしています。
 つまり、四角形のすり鉢状の底面が、制作現場となり、見る人は周囲をとりまく石段から見下ろす格好になるのです。

           

 西洋では、絵は基本的にイーゼルに立てて描くものでしょうが、もともと日本では、書画は畳の上に紙などを広げて制作するものです。
 ただ、掛け軸などはともかく、日展や院展などに出品されている大作の場合、作品の中央部まで手がとどきませんから、絵の上に板などの橋を渡し、その上に乗って筆を入れます(洋画のように垂直に立てて描く日本画家も少なくありませんが)。
 板の橋が絵に触れないよう留意するのはもちろんです。
 ところが藤谷さんは、絵が汚れるのはおかまいなしで、じぶんがかいた線の上をどんどん踏みつけていきます。
 たぶん彼にとって、靴底も画材のひとつなのだと思います。さらにいえば、腰から下げた布もそうです。靴と布が、白と赤の線を広げる役割をはたしていたようでした。

           

 筆者が会場に着いたのは午後3時すこし前。
 すでに黒い紙の全面に白と赤の線が走っています。
 これまでのライブドローイングでも藤谷さんは具象物を書かない傾向が強かったのですが、今回は、有機的なフォルムなどもまったくみられず、とにかく曲線がランダムに、縦横無尽にひかれています。どうにも、視線がとまったり、ひっかかったりするところがありません。
 筆者が見始めたころにはすでに藤谷さんは線はひかずに、マーカーをたたきつけるようにして短い線や点を打っていました。黒い紙に黒でかくという行為を執拗(しつよう)につづける藤谷さん。せっかくかいた線を、つぎの絵の「地」として惜しげもなく使用するというのも、彼らしいところです(2月の、TEMPORARY SPACEでのライブドローイングがそうだった)。
 もちろん、黒の上の黒であれば見えないのですが、先に述べたように、靴底や布で延ばされた白や赤のまだらが、黒をひきたたせているのでした(つぎの画像を見ると、筆者の言っていることがわかると思います)。

           

 この3枚は、いずれもドローイングがおわったあとに撮影したものです。
 藤谷さんは終盤になって、点や短い線をやめて、ふたたび黒の線を自由に、どこまでもひいていました。
 午後4時12分ごろ、画材のそばに置いてあった、古典的なデザインの目覚まし時計がとつぜん鳴って、彼はかく行為をすっぱりと打ち切ったのでした。

                

 ところで、今回は光沢のある9枚の細長い紙? が支持体になっています。
 どうしてもっと大きな紙をつかわないのかと、いつも思いますが、なにか理由があるのでしょう。
 それよりも残念だったのは、床と支持体の間に、版画のマットに該当するような、すきまの空間がなかったこと。
 線を紙からはみださせまいとするので、紙の端が黒いまま残ってしまいました。
 紙の下に、すこし広めに新聞紙などを敷いておけば、もうすこしおもいきって線を走らせることができたのではないかと思います。




 もうひとつ。藤谷さんはとても真剣でしたが、見る側の一部に、その真剣さとむきあう態度が不足していたような気がしてなりません。すくなくても、アートマンギャラリーのときのような、ぴりぴりした緊張感は漂っていませんでした。大声で「暑い暑い」と言いながら会場に入ってきたり、ずーっと雑談に興じているような人が見受けられました。「オレは常連だよ」というようなふるまいは、せっかく、不特定多数の人にひらかれた会場を選択した作家の意思にそむく作用しかしないと思いますが。まあ、おまえだって途中から2時間弱しか見てないだろうと言われれば、それまでですけど。
 

07年8月12日(日)13:00-17:00
モエレ沼公園・ガラスのピラミッド内アトリウム2(東区モエレ沼公園1-1)


■7月のライブドローイング・個展
4月のライブドローイング
藤谷康晴ライブドローイング-呼吸する部屋-(3月)
藤谷康晴個展 CONCRETE FICTION (2-3月)
個展「路上でお茶を」(1-2月)


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