「北の彫刻展」は、札幌彫刻美術館が開館翌年の1982年から隔年でひらいている展覧会。2002年から大幅に出品作家を入れ替えました。今回は、11回目となる中江紀洋さんと、いずれも初登場となる小林重予さん、楢原武正さん、艾沢詳子さんの、過去最少の4人が出品しています。いわゆる「彫刻」というよりは「現代美術」のフィールドで道内を代表する作家といったほうがよさそうです。
今回の副題は
「感性を刺激する素材の魅力」。
4人とも、あまり「素材」というくくりで語られてこなかったと思うので、ユニークな見かただとはおもうんですよ。
ただ、みなさん、べつに素材のおもしろさを狙ってやっているわけではないでしょうし、素材のおもしろさを鑑賞すれば十分というような作家ではないと思うんですよね。いや、素材のおもしろさが主眼となっているような作品なんて大したことない、と言っているのではないんですけど、この4人は、素材うんぬんという表面的なものにとどまらない、意味の深さとひろがりのある作品を作っていると思います。
艾沢さんは、電話帳のページを熱したワックス(ろう)で固めたインスタレーション「オマージュ-無辜の民」を出品しています。
艾沢さんはもともと版画家で、インドの国際版画展でグランプリを受賞したことのあるほどの人ですが、近年は立体にも作品の幅をひろげています。今回のようなろうを使ったインスタレーションは、「札幌の美術2003」で初めて試み、一昨年には、札幌芸術の森の有島武郎旧邸でも発表しています。
「無辜の民」は、本郷新の彫刻で、会場には、エスキースの小品が置いてありました。反戦の強いメッセージが込められた作品を艾沢さんが取り上げるとはちょっと意外でしたが、紙とろうの集積は、ひつぎのようにもボートのようにも見え、不在のかたちが人間の生命をかえって浮き立たせているように感じられました。
周囲の仕切り壁の上には、1頁ずつが立てられ、こちらは人の姿に似ています。
力作だと思います。
日記風のドローイングなど、新しい展開を見せている小林さんですが、今回はわりと、小林重予さんらしい、南国の植物の種のような立体が多かったです。
出品作は「想いの庭に立ちあらわれて」(のハズ。ちらしの文字が切れている)「了解のしるし」「関係を与えあう」「言いわけを守る」「不可解なきもち」「根拠をひっそり願う」「想いの種」の7組、計34点。
すべて2005年作品です。
展示空間に、肯定的というか、生命感があふれているようです。
楢原さんは、毎年、ギャラリー大通美術館で巨大なインスタレーションを発表していますが、今回出品したのは、その一部分で、びっしりと釘を打ち付けた柱が横に並んでいるという作品(「大地/開墾2005-3」)です。
また「大地/開墾2006-8-26」は、庭園に設置されています。風雨にさらされているので、ちょうどいいぐあいに錆ついています。こういう自然の介入も、「大地開墾」の題にふさわしいような気がします。
打ち付けられたおびただしい釘は、楢原さんの日々の単純な行為の結実です(その意味では艾沢さんのインスタレーションと通じるものがあります)。その、とほうもなく、続いていく行為は、大地を開墾するという地道な行為(の記憶)に通じているのだと思います。
中江さんの「此岸の旅・彼岸の風」は1994年、「流れついた果て」は2003年。
いずれも、黒く塗った石膏の歯型をメーンとした作品。
釧路にお住まいで、そうしょっちゅう作品を見られる方ではないので、旧作というのはちょっとざんねん。
一昨年のギャラリー山の手の個展でも旧作がほとんどだったんですけど、中江さん、お元気なんでしょうか。
8月26日(土)-10月9日(月)10:00-17:00、会期中無休
札幌彫刻美術館(中央区宮の森4の12)
一般500円、高大生300円、中学生以下無料
■北の彫刻展2002
■北の彫刻展2004
今回の副題は
「感性を刺激する素材の魅力」。
4人とも、あまり「素材」というくくりで語られてこなかったと思うので、ユニークな見かただとはおもうんですよ。
ただ、みなさん、べつに素材のおもしろさを狙ってやっているわけではないでしょうし、素材のおもしろさを鑑賞すれば十分というような作家ではないと思うんですよね。いや、素材のおもしろさが主眼となっているような作品なんて大したことない、と言っているのではないんですけど、この4人は、素材うんぬんという表面的なものにとどまらない、意味の深さとひろがりのある作品を作っていると思います。
艾沢さんは、電話帳のページを熱したワックス(ろう)で固めたインスタレーション「オマージュ-無辜の民」を出品しています。
艾沢さんはもともと版画家で、インドの国際版画展でグランプリを受賞したことのあるほどの人ですが、近年は立体にも作品の幅をひろげています。今回のようなろうを使ったインスタレーションは、「札幌の美術2003」で初めて試み、一昨年には、札幌芸術の森の有島武郎旧邸でも発表しています。
「無辜の民」は、本郷新の彫刻で、会場には、エスキースの小品が置いてありました。反戦の強いメッセージが込められた作品を艾沢さんが取り上げるとはちょっと意外でしたが、紙とろうの集積は、ひつぎのようにもボートのようにも見え、不在のかたちが人間の生命をかえって浮き立たせているように感じられました。
周囲の仕切り壁の上には、1頁ずつが立てられ、こちらは人の姿に似ています。
力作だと思います。
日記風のドローイングなど、新しい展開を見せている小林さんですが、今回はわりと、小林重予さんらしい、南国の植物の種のような立体が多かったです。
出品作は「想いの庭に立ちあらわれて」(のハズ。ちらしの文字が切れている)「了解のしるし」「関係を与えあう」「言いわけを守る」「不可解なきもち」「根拠をひっそり願う」「想いの種」の7組、計34点。
すべて2005年作品です。
展示空間に、肯定的というか、生命感があふれているようです。
楢原さんは、毎年、ギャラリー大通美術館で巨大なインスタレーションを発表していますが、今回出品したのは、その一部分で、びっしりと釘を打ち付けた柱が横に並んでいるという作品(「大地/開墾2005-3」)です。
また「大地/開墾2006-8-26」は、庭園に設置されています。風雨にさらされているので、ちょうどいいぐあいに錆ついています。こういう自然の介入も、「大地開墾」の題にふさわしいような気がします。
打ち付けられたおびただしい釘は、楢原さんの日々の単純な行為の結実です(その意味では艾沢さんのインスタレーションと通じるものがあります)。その、とほうもなく、続いていく行為は、大地を開墾するという地道な行為(の記憶)に通じているのだと思います。
中江さんの「此岸の旅・彼岸の風」は1994年、「流れついた果て」は2003年。
いずれも、黒く塗った石膏の歯型をメーンとした作品。
釧路にお住まいで、そうしょっちゅう作品を見られる方ではないので、旧作というのはちょっとざんねん。
一昨年のギャラリー山の手の個展でも旧作がほとんどだったんですけど、中江さん、お元気なんでしょうか。
8月26日(土)-10月9日(月)10:00-17:00、会期中無休
札幌彫刻美術館(中央区宮の森4の12)
一般500円、高大生300円、中学生以下無料
■北の彫刻展2002
■北の彫刻展2004
なかなか色々なことを考えさせるよい展覧会でしたね。私が行った時は観覧者が1人きりで、あまり目立つ展覧会でもないと思うのですが、お好きな人にはぜひ見て欲しいなと思います。
道内の現代美術を代表する顔ぶれですし。