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20周年記念 北の日本画展

2006年03月23日 21時47分53秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 まず気がついたことは、これまで道展(北海道美術協会)の会員・会友・入選者にかぎられていた出品者に、小島和夫さんと伴百合野さんの両ベテランをはじめ、新興美術院の出品者がくわわったことで、道展以外にも広がりのある展覧会になったこと。道内の公募展で日本画部のあるのは道展だけですから、大半の日本画の描き手は道展に属しているんですが、笹山峻弘さんや浅野天鐘さんなど、道展にも北の日本画展にも出品していない人がいないわけではないのです。

 で、気になった作品。
 今橋香奈子「流れゆく先」
 植物や人物を描いた作品はたくさん並んでいたけれど、この絵はほかとちょっと違っていたと思います。右側を流れる川のような模様は、琳派を思わせますし、女性がすわっている布は、パッチワークキルトになっています。つまり、日本の絵画が伝統的に、西洋絵画にくらべてデザイン性、装飾性に勝っていた点について、この絵はかなり自覚的なのではないかと考えられます。

 上西友子「森(collage)」
 花や木を描いた正方形の支持体12枚と、同形のタイトルを書いた板をならべています。明暗を強調した描法にくわえ、葉の上を覆う雪や暗めの背景といった道具立てのために、植物画とは相当にちがう、むしろ写真のようにリアルなタッチです(支持体の形から、ハッセルブラッドを連想します)。マティエールも非常に洋画的で、この展覧会のなかでは異色の作品。

 加藤拓「嵐山周辺」
 わはははは。何の変哲もない住宅街を描いていながら、この題! この作家は、以前から都市風景というものにとても批評的なスタンスを持っていると思います。

 北口さつき「祈り・サンバハンの人々」
 224×543センチ! このサイズを破綻なくまとめるのは、大変です。

 小島和夫「風の門」「MALTA」
 画面のあちこちにうっすらと引かれた白い線が画面を上質なものにしています。

 高橋潤「border-水と空の間」
 ラファエロ前派の「オフィーリア」みたいで、モデルの女性は風邪をひかなかったんだろうかと心配になります。「零~久寿里橋」は、釧路川の風景をバックに、透明な衣に身を包んだ裸婦を配したエロティックな作品。リアルなタッチはあいかわらずですが、いつものこまごまとした日常性への接近が見られないのが変化した点といえるでしょうか。

 田村直子「ゴールはどこだ」
 あるいは、今展覧会いちばんの問題作かも。ハムちゃんずにそっくりのキャラクターが巨大迷路で右往左往。ざっと70匹。「水鏡」もおなじようなキャラクターが池のほとりにせいぞろい。草花がねじでとめられていたり、いろんな仕掛けがある絵です。日本画でこんなことをやってもいいんだと、新鮮さを感じました。

 陳曦「蒼-タウシュベツ」「北の浜」「モッコ岩」
 3点とも北海道の風景がテーマになっており、以前描いていたアジアの少数民族の絵はなくなりました。日本画で北海道の風景を描いている人は意外と少ないので(洋画はたくさんいるけど)、期待します。

 富山真祐「過ぎたあの日」
 ほとんど、石積みと、人の影だけで構成した画面。地味だけど、おもしろい取り組みだと思いました。

 中野邦昭「札幌夜景II」
 この絵を描くためには、円山の裏にある通称神社山に冬季に登らねばならないはずで、その根性に敬服です。絵自体は、根性よりも繊細さを漂わせるものですが。

 野口裕司「膜」
 ネットと樹脂を支持体にしたこの作品、1月の時計台ギャラリーでの個展にも出品されていたが、裏側を見たのは初めて。もう1点の「そう」は、8枚の障子に描いた大作。従来のいわゆる「日本画」の像を打ち破る意欲作が、野口さんと伴さんだけというのは、やはりいささかさびしい。

 伴百合野「風韻 -亜・己-」
 高さ505センチ、幅300センチ! 吹き抜けの天井から吊り下げられていました。文様と、絵の具の飛沫を大胆に配しています。

 平向功一「末裔たちの午後」
 182×460センチ。無人となった建設中のバベルの塔を描いた一連の作品の集大成といえるのかもしれません。

 谷地元麗子「しじまI」「しじまII」
 2点ともトップレスの女と、ブラジャーとパンティーだけを着けた女のふたりがモティーフ。「I」では、左のトップレスがたばこを持ち、「II」では、左がケータイを、右がたばこを手にしています。二人の下着がレースをおごった装飾的なデザインであること、背景がないこと、黒と朱の絵の具だけで描かれていることなど、エロティックにして意欲的な作品だと思います。

 61人、107点というのはたしかに壮観です。
 すくなくても、5年前の記念展よりも、それぞれの力量があがり、会場の華やかさが増しているのは、間違いないでしょう。
 しかし、このうち、1980年代半ばから盛んになっている日本画の見直し論(奥岡茂雄さんもあいさつ文でふれていましたが)の高まりを意識した作品がどれだけあるかというと、随所にきざしがあると見るべきなのか、あるいは、ほとんどが旧来の日本画をなぞっていると見るべきなのかは、意見が分かれそうです。
 筆者としては、草花と、人物をモティーフにした作品の2種類だけで、半数をかるく超えてしまうという事態に、あまり楽観的にはなれません。もうすこし、型破りな作品が増えてほしいと感じました。

3月17日(金)-26日(日)9:30-17:00(入場-16:30)、
道立近代美術館(中央区北1西17 地図D)。
26日午後2時からギャラリートーク。

□サイト


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
土曜日に行ってきます (川上@道都書房)
2006-03-24 01:12:30
ドラールさんの掲示板に全作品掲載ですね。驚きです。

羽生輝さんの2点が私としては注目です。

勉強になります。



技法の習得にもなりそうです。今から楽しみ。
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川上さん (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-03-24 18:10:55
が、羽生さんの作品をお好きなのは、とてもよくわかる気がします。

 「引き算の美学」という点では、木島さんに共通していますね。



 ただし「北の日本画展」もいいですが、やはり第一に見に行くべきなのは「北斎と広重」だと思います。
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Unknown (SH)
2006-03-25 17:11:29
ヤナイさん、こんにちは。

私も日本画のテーマがこれだけで良いのかいつも疑問に思っています。そう思いつつ結構面白かったのですが・・・

ハムちゃんずっぽい作品は、斬新で良かったですね。ちょうど来た子供が近寄っていって、慌てて母親が止めてました。
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花鳥風月 (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-03-26 20:13:38
だけが日本画のテーマでないと思うのは、筆者もおなじです。このままでは、北海道の日本画が、全国的な趨勢から取り残されるのではないかという危機感を覚えないでもありません。もちろん、おもしろい作品もあったことは事実ですが。

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