札幌の若手水彩画家、石垣渉さんの8回目の個展。
鉛筆の線(あたり)がまったく見えず、透明な色彩で道内の風景を描いている。その清澄さには、だれもが驚嘆し、魅せられてしまうのではないだろうか。
今回はとくにテーマを設けず、そのつど心ひかれた風景を描いている。
また、これまであえて取り入れてこなかった水彩画の技法にも挑んでいる。
きっかけは昨年東京で見た東山魁夷の展覧会。
金箔などを用いているのだが、じつにさりげない仕方で、感じ入ったという。
石垣さんも今回の出品作で箔を取り入れているが、ちょっと見ただけではわからない絵も多い。
冒頭の右端は「恵みの雨」。
雨の絵は初めて-という石垣さん、
「線で雨を表現するとマンガのようになってしまうので、それはしたくなかったんです」
と言う。
水田の向こう側の山は霧にけぶり、たしかに雨を表現する記号はなくても、湿潤な雨天の空気感はじゅうぶんに感じられる。
奥行き感を出すためにあぜ道を斜めに入れている。安直な輪郭線を引くことを自らに禁じている石垣さんだが、構図を固めるには効果的な線となっている。線をひいたあとにすこし濡らして、硬い感じを薄めたり、さまざまな工夫をこらしているという。
モティーフになっているのは旭川近郊の水田。すこし遅れて咲いた桜の木が遠くに見え、これまた効果的なアクセントだ。
「樹陰」
色がやや赤みがかっている上に、曲がっているが、ガラスの反射をものともせず撮ったので、許してください。
雪解け時期の池。木々がつくる影が美しい。
昔から石垣さんは、白の諧調にかけてはうまいなあ。
これなどは、箔か雲母で反射を出したり、塩を用いたりしていると思われるのだが、ごく控えめなつかいっぷりである。
「空と畑とビニール帽子」
今回の個展で最大の作品。
日が傾いた時間帯を描いているため、畑の畝がつくりだす陰影はかなり濃い。その影が画面全体をきっちりと引き締めている。
(これも、マットの色からわかると思いますが、やや赤みがかって写っています。反省)
「何処へ飛ぶのか、何処へ行くのか…」
石垣さんいわく
「絵の具とあそんでみました、という1枚。ぼくとしては、かなり『攻めた』作品です」。
筆跡などは決して残さずにリアルさを追求する石垣さんとしてはめずらしく、絵の具のしぶきをとばしたりしている。
このように、石垣さんの画風は少しずつ変化している。
自分から変えていくのがいいのか、それとも自然に変わるのを待つのがいいか-など、悩みは尽きないようだが、いまの位置に安住せずさまざまな試行を続ける彼の姿勢には、大いに共感したい。すでに十分に力量を発揮している石垣さんではあるけれど、まだ画風を固定させるには若すぎるわけだし。
出品作は次の通り。
日よけ傘
反射鏡
朝のさえずり
陽光をあびながら
樹陰
空と畑とビニール帽子
空は高く
道端に目をやれば
神仙沼の神秘
春の訪れ
上を見上げて
照らされた道
何処へ飛ぶのか、何処へ行くのか…
若芽が吹き出す頃
日のあたる草原
松ぼっくり
時を待つひととき
アメジスト色の夜明け
恵みの雨
山桜
2009年7月21日(火)-26日(日)10:00-19:00(最終日-17:00)
ギャラリーエッセ(北区北9西3 地図A)
□行雲流水 石垣さんのサイト http://www.ishigaki-w.com/
■透明水彩展コロコニ(2009年5月)
■石垣渉 水彩画の世界展 (2008年4月)
■石垣渉 水彩画の世界展 -流れ-(2007年)
■竹津昇・石垣渉2人展(2007年)
道新夕刊の後志・小樽版に石垣渉さんがイラスト
■石垣渉風景画展(2003年)
・札幌エルプラザの北側、モスバーガーの北どなり