ぐらのにっき

主に趣味のことを好き勝手に書き綴っています。「指輪物語」とトールキンの著作に関してはネタバレの配慮を一切していません。

アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~

2009年11月14日 | 映画
観に行く予定なかった・・・というかこういう映画があること自体知らなかったのですが、なんかミュージシャンの皆さんのブログで結構話題になっていたので、観に行きたくなって観てきました。
長年吉祥寺のわりと近くに住んでますが、バウスシアターで映画観るのは初めてかも・・・
80年代のLAメタルブームとともに華々しく登場したものの、なぜかムーブメントに乗れずに売れなかったヘヴィメタルバンドANVILが、なんと30年経って50歳を越えた今でもアマチュアで活動しつづけている、しかも普段は給食配膳サービスや配管工の仕事をしながら・・・というドキュメンタリー映画。
私はANVILって知らなかったのですが、彼らの代表曲Metal on Metalはなんか聴いたことがあるような気がしましたが・・・気のせいかなあ。ありがちな感じの曲ではありましたから。
ファンキー末吉さんが観に行った時には女性やカップルがほとんどいなかったということですが、さすがにレディースデーだったので女性の方が多かったです。男性も結構いたけど。
しかし、どう見ても80年代からメタルファンでした、という感じの人ばっかり・・・(汗)やっぱり普通のレディースデーとはなんか違いました・・・(汗)
というわけで、この映画を観る人ってほとんどがメタル好きな人たちだち思うんですが、観てみて、一部のメタル好きな人しか観ないのでは勿体無いなあと思いました。ドキュメンタリー映画としてとても良くできてたと思うんですよ。
ファンキー末吉さんの奥さんがこの映画を観て、「バンドやったことある人なら誰でも経験してることだ」と言ったそうです。確かにそう思います。良い音楽やってるというだけでは売れないんですよね。良いバンドなのに売れないまま消えていったバンドがどれだけあることか・・・
たとえばそうそうたるメンバーが揃っているURUGOMEだって、メンバー一人ひとりはプロだけどバンド自体はアマチュアだという事実・・・他にもそういうケースたくさんありますよね。
でも私は観ていて、これってバンドだけの話ではないよなあ、と思いました。およそ芸術とよばれることを生業にしようという人は誰でも経験してることではないかと・・・
バンドが売れるためにはプロモーションや、世間に受け入れられるために路線を変更したりとか、そういう何がしかの手段が必要ですが、俳優とかでも同じことですよね。力のある事務所に所属していい役を手に入れなければ有名にはなれないという。そして有名にならないといい役も来ない・・・
クラシック音楽の世界にだってそういうのあると思うし、美術の世界にだって色々あると思うし・・・
そう思うと、決してヘビメタバンドという特殊な世界の話ではないんですよね。
メタル好きな人にはもちろんおススメですが、むしろヘビメタってあんまり・・・な人にこそ見てもらいたいなあと思いました。ダスティン・ホフマンのコメント、観る前には「ホントか?」と思っていたけれど、観終わったら納得しました。
ドキュメンタリーとして、過去の映像やインタビューを交えての構成も上手いんでが、何よりも、リップスさんとロブさんという二人の人間性を実に上手く描き出しているんですよね。
子どものようにピュアで熱いギター・ヴォーカルのリップスさん。目を輝かせてはしゃいでいる様子を見ているうちにとってもキュートに見えてくる・・・(笑)いや実際若い頃は結構かわいかったんですけどね。(どうでもいいけどリップスさんの下の息子ムチャクチャかわいいんですけど・・・!)
対するドラムのロブさん(ロブ・ライナーっていうと普通映画監督を思い出しますが・・・)は、絵を描く趣味があったりする、物静かな(メタルドラマーとしては・・・)思索家。笑顔でドラムを叩く10代の自分の写真を見て「笑ってるなんて珍しい」というほど日ごろからクールで笑わないんですね。
ANVILが30年続いた原動力は間違いなくピュアで熱いリップスさんの熱意なんですが、それにずっとついて来て「尽くした」ロブさんの物静かな友情がなければ成り立たなかったことでしょう。
この二人をめぐる家族の肖像もさりげなく掘り下げているのが上手いと思いました。
二人ともユダヤ人なんですが、リップスさんは真面目で厳格な家庭で育ち、兄弟も皆堅気の仕事についている。お母さんも「息子には学校を出て働いて欲しかった。音楽をやるこということを受け入れるのにはかなり時間がかかった」と話しています。兄と弟は、リップスさんを尊敬はするけれど、自分たちにはとてもあんな生き方はできないと・・・
家族で一番の理解者(奥さんを除けば)はお姉さん。「弟を愛しているから幸せになって欲しい」と援助を申し出ながら泣いてしまう姿にほろっと来ました。
一方ロブさんの両親はロブさんが音楽をやることに理解があり、ロブさんの家からはいつもクリームやグランドファンク・レイルロードなどの音楽が大音量で流れていたとか。
そのロブさんのお父さんは15歳くらいのころアウシュビッツの強制収容所にいて、生死の境を潜り抜けて来た、というエピソードを聞いて、泣けてしまった・・・自由に生きていられることがどんなに素晴らしいことか知っているお父さんは、ロブさんが人生を捧げられるほど好きなことを見つけたことを心から喜んで応援していたのでしょう・・・
こういう家族のインタビューが、皆話しているうちに涙が出てきたりして、そういう感情を引き出すのが上手い監督だなあと感心しました。
しかしリップスさんとは対照的に、ロブさんのお姉さんは「(ANVILは)もう終わっているのよ」と手厳しい。現実的に考えればロブさんのお姉さんの意見は常識的なものなのだけれど・・・
この映画を観ていて、私は羨ましかったですね。ANVILのファンが(笑)
売れなくても諦めずに、自分たちの音楽を変えることなくバンド活動を続けてくれるなんて、ファンにとっては一番嬉しいことですよね・・・
「売れないからバンドとしてやって行けない」とメンバー自身が諦めて解散してしまうバンドのなんと多いことか。ある程度の年齢になったら、バンドのみならず、音楽活動も諦めて、堅気の仕事につく人がほとんどだろうし、世間もそれが大人として当然の選択だと思っているし・・・
だから、メンバー自身がバンドを続ける意志を持って30年間も活動してくれるなんて、本当に羨ましいなあと思うのです。
ただ、彼らの特殊なところがあるとしたら、まあ30年ずっと同じバンドを続けているということもそうですが、それも「趣味の域」でひっそりやって行けばいい、というのではなく、本当に未だにビッグになって売れることを諦めていない、ということですが・・・
映画ではそんなANVILのトラブルまくり欧州ツアー(東欧やスペインはともかく、ドイツまであんないい加減だなんてびっくり・・・)や、再起をかけた13枚目のアルバムのレコーディングの様子とレコード会社に売り込む過程、そしてラストには東京のLOUD PARKに出演した時の様子、までが出ていました。
LOUD PARKに出ていたとは聞いてましたが、ついこの間だったので、まさかそこまで出てくるとは知らずにびっくり。それで冒頭に84年のイベントで来日したときの様子を盛んにやってたのか・・・
最後大勢の前で盛り上がってめでたしめでたし、という結末は見えていたのに、それでもリップスさんのモノローグとともにドキドキして、大勢の観衆の前で嬉しそうに演奏している彼らを見たらほろっとしてしまった・・・
エンドロールがまた良くて、リップスさんとロブさんが語る言葉を聴きながら、気がついたら泣いていました。
そして最後の方で85年にANVILの二人と一緒に記念撮影に収まる若き日の監督のサーシャ・ガバシ・・・ってあんたもファンだったんかい!(笑)
でもファンだからこそ、あんな愛情に溢れたドキュメンタリーが撮れたんだなあと納得でもありました。それを最後にバラすというのもちょっと粋な演出かなとも思いました。
ANVILは映画がきっかけでレコード会社とも契約できたって言ってました。映画を観る前にその話をきいた時は、ちょっとズルイな・・・と思ってたんですが、映画を観たら考えが変わりました。かつてのファンが映画に携わるようになり、彼らを撮りたいと思ったということは、結局は彼らの音楽が導いたことだったんだと思うようになったので。
ところでサブタイトルの「夢をあきらめきれない男たち」って、見終わるとなんだか結構失礼なタイトルに思えるんですが・・・
かと言って、誰かがコメントしていたように「夢を追い続ける男たち」とか「夢をあきらめない男たち」だとベタでまた面白くないのもわかるんですよね・・・難しいところですね。
そうそう、映画の中でも出てきた13枚目のアルバムThis Is Thirteenは日本ではソニーミュージックジャパンから発売中。映画館で流れてたと思うんですが、なかなかカッコイイんですよね。弟のためにレコーディング費用の大金を援助したお姉さんのためにも、後で買おうかな(笑)
でも今はレ・ヴァン・フランセの予習でプーランクとかラヴェルとか聴いてるんだけど・・・フランス物からヘビメタってのもすごいギャップだなあ(汗)
追記この映画に出てくるLOUD PARKは今年のじゃないんだそうです。今年は再来日だったんだそうで。確かになんか時間帯が違うな・・・とは思ったんですが(汗)
あと、サーシャ・ガバシはファンどころか一時期ANVILのローディーをやってたんだそうな。なるほどね~

てな訳で今年見た映画の順位。
1.インスタント沼 / 2.女の子ものがたり / 3.アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~ / 4.ウルヴァリン:X-MEN ZERO / 5.ハリー・ポッターと謎のプリンス / 6.トランスフォーマー・リベンジ / 7.ダウト~あるカトリック学校で~ / 8.ブッデンブローク家の人々 / 9.レッドクリフpart2 / 10.マンマ・ミーア! / 11.ウルトラミラクルラブストーリー / 12.カムイ外伝 / 13.スタートレック / 14.アラトリステ / 15.三国志 / 16.キラー・ヴァージンロード
1位も2位もありだったんですが・・・暫定3位ということで。

あと今年見に行く予定の映画のリスト。
第10回東京フィルメックス 「サースト~渇き~」
12月19日公開 「のだめカンタービレ最終楽章 前編」
今年は20本行かないことになりそうです。

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2 コメント

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おはようございます♪ (りどる)
2009-11-15 11:26:56
ぐらさんの記事を読んでて涙でちゃいました(笑)
この映画知らなかったです。
とても観たい!
うちんとこでの上映はいつかな・・・。
返信する
ぜひ観てください! (ぐら)
2009-11-15 19:55:57
この映画の良さが少しでも伝わったなら光栄です!
順次上映館増えてるみたいですから、お近くで上映の際にはぜひぜひ!
結構真面目な感想ばかり書いてしまいましたが、ドタバタ欧州ツアーの様子など、コミカルに描いていて笑えるところもあるんですよ。
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