以前に一度このルートを通った。調べてみると2010年6月だった。12年前だ。そのとき一度で十分だと思ったはずなのに、干支ひと回りで同じルートを辿ることになるとは……12年後どうなるか。
とある月曜日に有給休暇を取得して、土日月の3日間で富山・高岡・氷見を散策するつもりが2日間で完遂した。余りの月曜日、まっすぐ帰京するのも味気ない。せっかくの有休なのだから、富山から扇谷まで立山黒部アルペンルートでも通って長野から帰ろうと思ったのだ。
富山から1時間ほど富山地方鉄道(いわゆる地鉄)に揺られて立山へ。そこから立山ケーブルカーでおよそ7分、標高977m の美女平まで急勾配を上り、さらに立山高原バスで50分ほど除雪したての道路を標高2450mの室堂まで直行する。100mあたり気温が0.55℃〜0.65℃下がる。
いくらなんでも薄着じゃ寒いのではないかと思い、前の日に富山駅前の好日山荘でフリースを買っておいた。市街地でこれを着たら暑い。しかし標高2450mの雪壁の間を散策するには、せめてこれぐらいなきゃ凍えてしまうのではないか。
最初のうちは着込むことをせず、薄着で電車に揺られウトウト……気づいたら立山の手前で、すっかり山間の風景になっていた。満足したので引き返して帰京しようかと思ったけど、そのほうが面倒くさいので立山黒部アルペンルートをさらに先へと進むことにした。
立山ケーブルカーはこのように乗客のスペースと同じくらい荷物を載せるスペースがとってある。黒部ダムを建造する際このケーブルカーで資材の一部を運び上げたし、現在も整備の資材を上げたり下ろしたりしている。要するにダムの建造と保守のためのルートを4月15日から11月30日まで観光客にも開放してるわけだ。
標高977mの美女平で高原バスに乗り換える。バスの中で一応フリースを着ておく。終点はもう2450mの雪景色だから。この月曜日、ちょうどバスに乗り込んだ時間から会社の部会がGoogle Meetで行われ、休暇なんだけどスマホで視聴してみた。最初のうちは接続できたけど、やがて圏外になった。あたりまえだし、届けを出した休暇だから別にいいんだ。
車窓から、称名滝とかいう滝がよく見えた。スマホで撮った写真がそれなりの視認性があるくらいだから、肉眼だとなかなかの迫力で、すっかり満足したから引き返して帰京したくなったけど面倒くさいので高原バスにそのまま揺られていく。
除雪した雪が道の左右に積み上げられている。12月から3月まで雪に閉ざされているのだろうか。おそらく4月の初め(あるいは3月の終わり)から除雪を進めて、4月15日に立山黒部アルペンルートの観光がスタートする。ちなみにこの日は4月25日で、平日なのに観光客がいっぱい同乗していた。
窓から見てると雪の壁がだんだん高くなっていく。標高が上がるにつれて厚くなる。バスの車高など超えてしまうから、雪崩でも起きたら大変だ。命がいくつあっても、これが崩れてきたら一溜りもないだろう。そんな楽しい想像しながらバスに閉じ込められて登りつめる気分も、12年前とまったく変わらない。
車窓から見上げる雪の壁。これが崩れてきたら一溜りもないと、しつこいようだけど想像せずにいられない。地震が多い昨今だから、何があってもおかしくない。まあいいか、ここで死んでも……12年前にそう感じたから、立山黒部アルペンルートを通ることは金輪際ないと思ったのに、出来心でまた通り抜けている。
そうこうするうちにバスが終点に差しかかると、歩いて雪壁を見物しに下ってきた人がいっぱい。フロントガラスは上のほうが青くなってるので、そこまでが雪のように見えるかもしれないけど、そり立つ壁がフロントガラスには収まり切らない。この人たちも雪崩が起きたら一溜りもない口。
自分も同じように終点から歩いて下ってみる。フリース買っといて本当によかった。来ると思ってなかったから、そのまんまの装備でここまで来たら雪崩が起きなくても遭難していたかもしれない。防寒のほかに必須なのはサングラス。これはいつも携行してるので大丈夫だった。
除雪はこんなので行っている。ロータリー除雪車、その名も「立山熊太朗」……これ1台で全部やるわけじゃなくて、たくさんの重機で除雪する様子が公式の「立山黒部アルペンルート絶景動画チャンネル」で視聴できるらしい。だが見ない。
ここから立山の反対斜面、大観峰まで立山トンネルを10分かけてトロリーバスで通り抜ける。まったく景色が見えない。中間地点で対向車とすれ違う以外、トンネルの中を単調に走行する。坑夫はもっと単調な作業に耐えたはずだから、トロリーバスの中で10分じっと耐える程度どうということはない。
大観峰は標高2316m。終点の建物を雪が厚く覆い、出入り口から雪を掘り進んでトンネルができていた。これを通り抜けると黒部平まで下るケーブルカーを見下ろすことができる。
あんなのが落ちたら一溜りもない。命を危険にさらす立山ロープウェイの乗車時間は7分。月曜なのに団体ツアー客らと箱に同乗して、標高1828mの黒部平にたどりつく。黒部平はこれまで通過してきたポイントにくらべて人が少なくて、そば屋さんが空いてたので昼ごはんにする。
富山を出たのが9時21分、そばを食べたのが13時ごろ。バックパックにつけているカッパのキーホルダーがいつのまにか千切れてどこかへ消えていたので、売店で雷鳥のキーホルダーを買って代わりにつけた。いずれ千切れて消えるだろう。
13時20分の黒部ケーブルカーで5分ほどトンネルを下り、標高1455mの黒部湖へ。そろそろ飽きて帰りたくなってるから、ちゃんと時刻を覚えてる。ケーブルカーなのに土中を通るというのも、いかにも作業用の経路らしい。
ここから黒部ダムの上を10分ぐらい歩いて渡り、さらにトンネルを5分ぐらい歩いて通り抜けないといけない。じつは、歩いて抜けるトンネルの中がいちばん寒かった。いくら外が春の光に照らされようと、トンネルの中は冬の寒さ。フリースはトンネルの中でこそ役立った。
関電トンネルを抜ける電気バスに16分ほど揺られて扇沢へ。このトンネルの中も寒かった。コロナ対策で窓が開いてるから冷気がビュービュー吹き込んだ。夏は涼しいんだろう。電気バスって、関西電力のバスの愛称かと思ったら、ガソリンではなく電気で走るバスだから電気バス(そのまんま)だった。
終点の扇沢では、くろにょんが愛嬌を振りまいていた。標高は黒部ダムとそう変わらない1433mなのに、ここからはポカポカ陽気で暑いくらいだったのでフリースを脱いだ。長野行きの14時40分のバスに乗り、16時20分に長野駅につき、17時05分の新幹線かがやきで東京駅には18時35分についた。移動ばかりの1日だった。
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