酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ルイーサ」が映す老いの形~どん底で射した光とは

2011-01-30 02:49:55 | 映画、ドラマ
 延長で決着したアジア杯決勝を深夜まで観戦した。川島の好セーブ連続と長友の頑張りを、李の決勝ボレーが結実させる。チーム全体の耐久力は国民性に即した個性といえるだろう。見ている側も疲れる消耗戦だった

 新宿シネマートで先日、「ルイーサ」(08年、ゴンサロ・カルサーダ監督/アルゼンチン=スペイン)を見た。良質な作品なのに、スクリーン2(定員62)の客は俺を含め2人だけだった。

 本作同様、ブエノスアイレスを舞台にした「瞳の奥の秘密」は社会状況、秘められた愛、ミステリーの要素が織り込まれた濃密なエンターテインメントだったが、「ルイーサ」は高齢者の孤独と再生をテーマにした水墨画の趣だ。主人公の年齢(60歳)に近くないとピンとこない<R50>といえる。

 夫と幼い娘を不慮の事故で亡くしてから、モノトーンの生活に自らを押し込めていたルイーサ(レオノール・マンソ)を突然の不幸が襲う……。正しくは十分不幸な彼女に更なる不幸が重なったというべきか。

 唯一の癒やしで、目覚まし時計代わりでもあった愛猫ティノが死んだ。ルイーサはティノの死骸を箱に詰め、一つ目の職場である霊園に向かった。30年目で初めて遅刻した朝、積極経営を企てる2代目にクビを宣告された。後釜は若い美人である。

 二つ目の職場は大スター、クリスタル・ゴンサレスの家だ。家政婦として20年働いたルイーサに、クリスタルは自身の引退と郊外への引っ越しを告げる。ルイーサの仕事はなくなったのだ。

 理不尽な展開だが、ルイーサの心の持ちようにも問題はある。先代経営者が非社交的なルイーサを雇ってきたのは恩情ゆえだろう。ルイーサが胸襟を開くタイプだったら、クリスタルも別の形を選んだはずだ。ルイーサはプライドが高く、ハリネズミのように身構える。気遣ってくれるホセ(アパートの管理人)にも冷淡な態度で接してきた。

 30年働いても退職金はスズメの涙で、質素に生活しても貯金ゼロ……。これが当地の過酷な現実かもしれない。失業によってルイーサの目に、社会と世間が見えてきた。

 ティノを荼毘に付すため、300㌷が必要だ。ルイーサは地下鉄に乗り込み、「私はHIVで……」とか「子供が7人……」とか偽りの口上でカードを売ろうとするが、誰も買わない。障害者を装って物乞いするうち、膝下を失ったオラシオと交流するようになる。

 オラシオとホセの優しさに触れ、ルイーザは再生のきっかけを掴む。ティノを正しく葬ることで、哀しい過去を吹っ切れた。ラストでルイーサは、駅構内で演奏する若者たちに声を掛けられる。ストップモーションの後、ルイーサはきっと音楽に合わせて踊っていただろう。自分の壁を破ったルイーサは、孤独から解放されたのだ。

 人は何歳になっても脱皮することができる。俺の余命は15年程度だろうが、「ルイーサ」を見て少し希望が湧いてきた。
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