世界を今、2人の10代が震撼させている。17歳のグレタ・トゥーンベリと18歳のビリー・アイリッシュだ。ポスト資本主義に立脚し、構造を変えることを志向するグレタの言動は、<1%>を苛立たせている。そのライフスタイル〝気候を変えずに自分を変える〟は世界に確実に浸潤している。
グラミー主要4部門で受賞したビリーは、<1%>に消費し尽くされそうな気配だ。彼女に重なるのはカート・コバーンである。ニルヴァーナが2nd「ネヴァーマインド」をリリースした1991年9月、カートは車上生活者だった。商業的成功に苛まれたカートは94年4月、ショットガンで自身の頭を撃ち抜いた。ビリーもカート同様、鬱に苦しみ、タナトスに憑かれているようだ。悪い予感を払拭出来ない。
東出昌大が大バッシングを浴びている。〝不〟と〝醜〟の否定的な文字が入っているように、芸能人の不倫や醜聞に厳しい日本人だが、常軌を逸した首相の国家私物化や虚言を許容しているぐらいだから、決して倫理的ではない。単なる〝願望の裏返し〟なのだろうか。
川上弘美の「古道具 中野商店」(2005年発表、新潮文庫)を読了した。以前に読んだ4作は、四季の移ろいを織り込んだ「センセイの鞄」、愛と喪失を描いた「夜の公園」(06年)、現実と仮想の淡い境界を追求した「真鶴」(同)、全章が一本のビーズで結ばれた創世記「大きな鳥にさらわれないよう」(16年)で、いずれも脳裏にしっかり灼きついている。
「古道具 中野商店」は古道具店が舞台だ。「開運!なんでも鑑定団」に登場するような骨董品やアンティークではなく、古くなった日用品やガラクタの類いを主に扱っている。主な登場人物は店主の中野さん、遊びにくる姉のマサヨさん、バイトで買い取り助手のタケオ、語り手兼主人公で店番を務めるヒトミだ。
12章それぞれの内容は「角形2号」、「文鎮」といったタイトルで象徴的に示されている。上記の4人は「こんな人、周りにいる」と感じてしまうようなありふれたキャラだが、読み進むうち、川上の繊細な筆致と会話の面白さで4本の糸は紡がれていく。
ユーモア溢れる中野さんは、ツッコミどころ満載のダメ男に映る。今の奥さんは3人目、愛人は由緒ある骨董店店主で美人のサキ子さん、さらにもう一人というから、羨ましいほどの艶福家だ。一見植物系だが、蜜に群がる虫たちをパクリという食虫植物の如くだ。アーティストのマサヨさんもアラカンながら発展家で、丸山という恋人がいる。
川上の作品では<女の生理>があけすけに語られる。20代後半で恋愛経験もそれなりにあるヒトミだが、マサヨさん、そしてサキ子さんの赤裸々さに圧倒されている。タケオもセックスに興味がなく、精力増強のため酢を飲むよう勧めた恋人と別れた。色の道の達人というべき濃密な中高年姉弟、薄めの若年層の対照が面白い。中野さんとマサヨさんは、恋人未満のままのヒトミとタケオをもどかしく感じている。
感性の塊であるマサヨさんは、平凡な丸山を「一生で一番愛していた」とヒトミに告げる。中野商店解散から2年、派遣社員として働くヒトミはタケオに連絡しなかった。絵がうまい以外、取りえもなく、不器用だ。平凡以下に思えるタケオはどこかで野垂れ死にしているのでは……。そんなヒトミの不安が杞憂だったことは最終章「パンチングボール」で明らかになる。
偶然が織り成す鮮やかなカタルシスに心が潤んだ。本作ではさりげなく、ささやかな気持ちの積み重ねの上に成立する愛が示される。俺は記憶の扉をそっと開け、愛と絆の意味を自身に問い掛けていた。
グラミー主要4部門で受賞したビリーは、<1%>に消費し尽くされそうな気配だ。彼女に重なるのはカート・コバーンである。ニルヴァーナが2nd「ネヴァーマインド」をリリースした1991年9月、カートは車上生活者だった。商業的成功に苛まれたカートは94年4月、ショットガンで自身の頭を撃ち抜いた。ビリーもカート同様、鬱に苦しみ、タナトスに憑かれているようだ。悪い予感を払拭出来ない。
東出昌大が大バッシングを浴びている。〝不〟と〝醜〟の否定的な文字が入っているように、芸能人の不倫や醜聞に厳しい日本人だが、常軌を逸した首相の国家私物化や虚言を許容しているぐらいだから、決して倫理的ではない。単なる〝願望の裏返し〟なのだろうか。
川上弘美の「古道具 中野商店」(2005年発表、新潮文庫)を読了した。以前に読んだ4作は、四季の移ろいを織り込んだ「センセイの鞄」、愛と喪失を描いた「夜の公園」(06年)、現実と仮想の淡い境界を追求した「真鶴」(同)、全章が一本のビーズで結ばれた創世記「大きな鳥にさらわれないよう」(16年)で、いずれも脳裏にしっかり灼きついている。
「古道具 中野商店」は古道具店が舞台だ。「開運!なんでも鑑定団」に登場するような骨董品やアンティークではなく、古くなった日用品やガラクタの類いを主に扱っている。主な登場人物は店主の中野さん、遊びにくる姉のマサヨさん、バイトで買い取り助手のタケオ、語り手兼主人公で店番を務めるヒトミだ。
12章それぞれの内容は「角形2号」、「文鎮」といったタイトルで象徴的に示されている。上記の4人は「こんな人、周りにいる」と感じてしまうようなありふれたキャラだが、読み進むうち、川上の繊細な筆致と会話の面白さで4本の糸は紡がれていく。
ユーモア溢れる中野さんは、ツッコミどころ満載のダメ男に映る。今の奥さんは3人目、愛人は由緒ある骨董店店主で美人のサキ子さん、さらにもう一人というから、羨ましいほどの艶福家だ。一見植物系だが、蜜に群がる虫たちをパクリという食虫植物の如くだ。アーティストのマサヨさんもアラカンながら発展家で、丸山という恋人がいる。
川上の作品では<女の生理>があけすけに語られる。20代後半で恋愛経験もそれなりにあるヒトミだが、マサヨさん、そしてサキ子さんの赤裸々さに圧倒されている。タケオもセックスに興味がなく、精力増強のため酢を飲むよう勧めた恋人と別れた。色の道の達人というべき濃密な中高年姉弟、薄めの若年層の対照が面白い。中野さんとマサヨさんは、恋人未満のままのヒトミとタケオをもどかしく感じている。
感性の塊であるマサヨさんは、平凡な丸山を「一生で一番愛していた」とヒトミに告げる。中野商店解散から2年、派遣社員として働くヒトミはタケオに連絡しなかった。絵がうまい以外、取りえもなく、不器用だ。平凡以下に思えるタケオはどこかで野垂れ死にしているのでは……。そんなヒトミの不安が杞憂だったことは最終章「パンチングボール」で明らかになる。
偶然が織り成す鮮やかなカタルシスに心が潤んだ。本作ではさりげなく、ささやかな気持ちの積み重ねの上に成立する愛が示される。俺は記憶の扉をそっと開け、愛と絆の意味を自身に問い掛けていた。