酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「哀れなるものたち」~人造人間は自由を希求する

2024-02-19 22:24:02 | 映画、ドラマ
 週末は新宿駅南口で行われた<ウクライナ債務を帳消しに~民衆のための支援を>スタンディングに参加した。日本だけでなく世界で現在行われているのは貸し付けというべき財政支援だ。IMFや世銀は医療、福祉、教育といった公共サービス削減を条件にした融資を推進しようとしている。そのような動きに抗議したのが今回の行動だ。莫大な資源を背景にロシアの攻勢は強まっており、反プーチン派のナワリヌイ氏が刑務所内で亡くなった(恐らく暗殺)。日本人は自由、民主主義、平和の意味を考える時機に来ている。

 新宿ピカデリーで「哀れなるものたち」(2023年、ヨルゴス・ランティモス監督/英米愛合作)を見た。原作はアラスター・グレイの同名小説で、舞台はヴィクトリア朝時代のロンドンだ。ベネチア国際映画祭で金獅子賞、ゴールデングローブ賞でコメディー・ミュージカル部門作品賞に輝いた同作は、「オッペンハイマー」とともにオスカーの有力候補だ。

 「哀れなるものたち」は「フランケンシュタイン」を彷彿させる作品で、主人公のベラ(エマ・ストーン)は人造人間だ。本名はヴィクトリアだったが、支配欲の強い夫アルフィー(クリストファー・アボット)から逃れ切れず、胎児を宿したまま投身自殺する。その新鮮な遺体を目の当たりにした外科医ゴッド(ウィレム・デフォー)は〝マッドサイエンティスト〟としての欲望を刺激され、胎児の脳をヴィクトリアに移植し、ベラと名付けた。ゴッド自身も父に肉体を改造された人造人間だった。

 ゴッドは教え子マックス(ラミー・ユセフ)に、ベラの言動を邸内で記録するよう依頼する。見た目は30代だが頭脳と心は幼児のベラは、歩き方もおかしいし、イライラしたら皿を割るなど手に負えない。少しずつ単語を覚えるなど大人に近づくベラに、マックスは恋心を抱くようになる。ゴッドの勧めもあり婚約が決まったが、ベラは性への欲求を隠し切れなくなった。そこに現れたプレーボーイの法律家ダンカン(マーク・ラファロ)は、ベラを連れて旅立った。

 前半はモノクロで、ストーリーが進むにつれカラーが中心になる。成長によって知性と感性がベラの世界を豊饒にしていくことを映像で示しているのだろう。リスボン、パリ、そして船から見える光景の美しさとベラの姿態がマッチしていた。衣装も素晴らしいが、R18であるゆえん、セックスシーンがふんだんに織り交ぜられている。船上でのダンスシーンが印象的だった。

 本作に重なったのは「悪い子バビー」だった。ベラはゴッドに軟禁されていたが、母に35年間監禁されていたバビーは世界に触れるや、優しさや真理を吸収していく。ベラもまた、グローバルな格差と貧困の現実、哲学を学び、自由に価値を見いだすようになる。一方のダンカンは、前夫アルフィーのように支配欲と嫉妬に取り憑かれて破滅する。

 生計を立てるためパリの娼館で働くことになったベラは女店主のスワイニー(キャサリン・ハンター)と同僚のトワネット(スージー・ベンバ)からフェミニズムと社会主義を学ぶ。併せて男たちの愚かさに気付かされたベラはゴッド危篤の報を受け、ロンドンに戻った。冷徹に思えたゴッドにとって、ベラは父性愛の対象だった。

 ラストでゴッド邸の庭に、ベラ、マックス、トワネット、ゴッドの新しい被験者、アルフィーが集っている。明らかに様子がおかしいアルフィーは、医者を目指すベラによってヤギの脳を移植され、草を食んでいた。彼らは<哀れなるものたち>だろうか。自由を希求するベラをマックスとトワネットが支え、アルフィーは男性史上主義と支配欲から解放された。見ている側も<哀れなるものたち>……。エンドロールが終わった時、そんな感覚に陥ってしまった。
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