イスラエル軍は26日、ヨルダン川西岸を急襲し、9人のパレスチナ人を殺害した。その翌日、エルサレムのシナゴーク前でパレスチナ人が銃を乱射し7人が亡くなった。ロシアのウクライナ侵攻が耳目を集めているが、現在は戦争・紛争の時代だ。世界で<正義>が角突き合わせ、多くの人々が犠牲になる悲劇が後を絶たない。
アルジェリアで起きた天然ガス精製プラント襲撃(2013年)もそのひとつで、同事件と多くのブラジル人が暮らす地方都市の二つの視座で描かれた映画「ファミリア」(22年、成島出監督)を新宿ピカデリーで見た。テーマは骨太で、世界を俯瞰し、日本という国の本質を抉っていた。
舞台はシナリオを担当したいながきよたかの出身地である愛知県の瀬戸市と近隣の豊田市だ。瀬戸といえば陶器で有名で、山あいで陶器を制作している神谷誠司(役所広司)が主人公だ。若い頃にぐれていた誠司を陶芸の世界に導いてくれた妻は亡くなっている。息子の学(吉沢亮)はアルジェリアで天然ガス合弁事業に従事しているが、難民出身のナディア(アリまらい果)と結婚し、帰郷する。
プロジェクト終了後、仕事をやめて一緒に陶器を作りたい……。こう申し出た学だが、誠司は首を縦に振らない。陶器産業は斜陽で、多くの工場が店を畳んでいる背景があるからだ。ある日、多くのブラジル人が暮らす隣町で、ブラジル人御用達のクラブが襲撃される。命からがら誠司宅に逃げ込んだ日系のマルコス(サガエルカス)を追い詰めたのは、半グレのリーダーである榎本海斗(MIYAVI)だった。
画面に登場した瞬間、MIYAVIの強烈な存在感に圧倒された。海斗は妻と子を酔っ払ったブラジル人のバス運転手にひき殺されたという設定で、町を支配する父の権力をカサにきてヤクザの組長(松重豊)さえ手を出せない。内外でギタリストとして評価を確立したMIYAVIは国連難民高等弁務官事務所から日本人初の親善大使に任命されている。立ち位置は演じた海斗とは真逆だったのだ。
誠司を軸に二つのストーリーが進行する。海斗ら半グレはブラジル人が暮らす団地(モデルはロケ地になった保見団地)を闊歩し、マルコスの恋人エリカ(ワケドファジレ)、友人でラッパーのルイ(シマダアラシ)にも危機が迫る。誠司は旧知の駒田刑事(佐藤浩市)に海斗の情報を尋ねた。役所と佐藤の同世代の重厚なツーショットに画面は引き締まった。
半グレのブラジル人襲撃、そしてもう一つの事件に誠司は直面する。学とナディアがアルジェリアで人質になったのだ。息子を解放する身代金として亡き妻の親族である金本夫妻(中原丈雄、室井滋)にも金を借り、首相官邸と外務省に乗り込んだ。最悪の結果を知らされ、誠司は深い悲しみに沈む。
本作に違和感を覚えたのは、あまりに役所の演技に頼っているように感じたこと。寡黙な職人、誰に対しても同じ目線で接する優しさ、そして激情……。類い希な演技力を誇る役所はラスト、任侠映画のヒーローのように単身アジトに乗り込んでいく。
日本人にとってブラジル人は切り捨て可能の道具だ。マルコスもクビになったが、リーマン・ショックの際、父が会社とブラジル人の板挟みになり、ビルから飛び降り自殺した。マルコスは誠司に父の面影を重ねていた。学が帰国していた時、「夢はある」と聞かれて困惑していたマルコスだが、ラストで夢を見つけた。学の代わりに誠司の下で修業し、エリカや家族と生きていくことだ。
二つの壮大な物語が誠司を交差して収斂する。ブラジル人のキャストは、実際に豊田市で暮らす若者たちで、だからこそリアリティーがある。家族とは、絆とは、夢とは……。温もりと癒やしを感じる作品だった。
アルジェリアで起きた天然ガス精製プラント襲撃(2013年)もそのひとつで、同事件と多くのブラジル人が暮らす地方都市の二つの視座で描かれた映画「ファミリア」(22年、成島出監督)を新宿ピカデリーで見た。テーマは骨太で、世界を俯瞰し、日本という国の本質を抉っていた。
舞台はシナリオを担当したいながきよたかの出身地である愛知県の瀬戸市と近隣の豊田市だ。瀬戸といえば陶器で有名で、山あいで陶器を制作している神谷誠司(役所広司)が主人公だ。若い頃にぐれていた誠司を陶芸の世界に導いてくれた妻は亡くなっている。息子の学(吉沢亮)はアルジェリアで天然ガス合弁事業に従事しているが、難民出身のナディア(アリまらい果)と結婚し、帰郷する。
プロジェクト終了後、仕事をやめて一緒に陶器を作りたい……。こう申し出た学だが、誠司は首を縦に振らない。陶器産業は斜陽で、多くの工場が店を畳んでいる背景があるからだ。ある日、多くのブラジル人が暮らす隣町で、ブラジル人御用達のクラブが襲撃される。命からがら誠司宅に逃げ込んだ日系のマルコス(サガエルカス)を追い詰めたのは、半グレのリーダーである榎本海斗(MIYAVI)だった。
画面に登場した瞬間、MIYAVIの強烈な存在感に圧倒された。海斗は妻と子を酔っ払ったブラジル人のバス運転手にひき殺されたという設定で、町を支配する父の権力をカサにきてヤクザの組長(松重豊)さえ手を出せない。内外でギタリストとして評価を確立したMIYAVIは国連難民高等弁務官事務所から日本人初の親善大使に任命されている。立ち位置は演じた海斗とは真逆だったのだ。
誠司を軸に二つのストーリーが進行する。海斗ら半グレはブラジル人が暮らす団地(モデルはロケ地になった保見団地)を闊歩し、マルコスの恋人エリカ(ワケドファジレ)、友人でラッパーのルイ(シマダアラシ)にも危機が迫る。誠司は旧知の駒田刑事(佐藤浩市)に海斗の情報を尋ねた。役所と佐藤の同世代の重厚なツーショットに画面は引き締まった。
半グレのブラジル人襲撃、そしてもう一つの事件に誠司は直面する。学とナディアがアルジェリアで人質になったのだ。息子を解放する身代金として亡き妻の親族である金本夫妻(中原丈雄、室井滋)にも金を借り、首相官邸と外務省に乗り込んだ。最悪の結果を知らされ、誠司は深い悲しみに沈む。
本作に違和感を覚えたのは、あまりに役所の演技に頼っているように感じたこと。寡黙な職人、誰に対しても同じ目線で接する優しさ、そして激情……。類い希な演技力を誇る役所はラスト、任侠映画のヒーローのように単身アジトに乗り込んでいく。
日本人にとってブラジル人は切り捨て可能の道具だ。マルコスもクビになったが、リーマン・ショックの際、父が会社とブラジル人の板挟みになり、ビルから飛び降り自殺した。マルコスは誠司に父の面影を重ねていた。学が帰国していた時、「夢はある」と聞かれて困惑していたマルコスだが、ラストで夢を見つけた。学の代わりに誠司の下で修業し、エリカや家族と生きていくことだ。
二つの壮大な物語が誠司を交差して収斂する。ブラジル人のキャストは、実際に豊田市で暮らす若者たちで、だからこそリアリティーがある。家族とは、絆とは、夢とは……。温もりと癒やしを感じる作品だった。