前稿末のダービー予想は案の定、大外れとなった。アスクビクターモアは3着(7番人気)と健闘したが、1、2着馬を買っていないのだからどうしようもない。これからも年金生活者らしく、レースを絞って少額投資というスタイルを貫きたい。
ロシアのウクライナ侵攻以降、関連する内容を綴ってきた。ジョージ・オーウェルについては伝記を紹介した4月16日以降、2度目になる。今回は学生時代以来、40年以上を経て再読した「動物農場」(1945年)について記すが、NHKで放映されたドキュメンタリー2本を枕で紹介したい。
まずは「映像の世紀バタフライエフェクト~スターリンとプーチン」から。両者の連鎖を描いている。スターリンについては本題と重なるので、後半に記したい。興味深いのはプーチンの生き様だ。プーチンは1952年、レニングラードで生まれた。柔道に熱中し、岸惠子原案(出演も)の日仏合作映画「スパイ・ゾルゲ 真珠湾前夜」(1961年)に感動して諜報員を目指す。
KGB入局を果たし、派遣された東独でベルリンの壁崩壊を目の当たりにする。自身を支えていた理念の崩壊を覚え、KGBを辞めた。故郷でタクシー運転手をしていたプーチンに転機が訪れる。レニングラード市長選に立候補した恩師の右腕として市庁舎に入り、たちまち副市長に昇格や、その手腕が中央にも伝わり、96年には大統領府入りする。
クレムリンの汚職疑惑を追及する検事をえげつない手を使って失脚させ、エリツィンに恩を売った。首相就任後はテロの自作自演で人気が上昇する。タクシー運転手から9年、2000年に大統領まで上り詰めたのだ。オリガルヒ(新興財閥)を弾圧して喝采を帯びたが07年、EUとNATOに牙をむく。現在に至るロシアの闇を抉ったのが「ワグネル 影のロシア傭兵部隊」(フランス制作)だった。
ワグネルは傭兵部隊ながら実質はロシア軍で15年、親露派が力を持つウクライナ東部ドンバスに派遣された。創設者はヒトラー信奉者で元ロシア特殊部隊将校のウトキン、財政的バックボーンは下獄したオリガリヒのプリゴジンで、プーチンと親交が厚い。情報操作に長け、米大統領選でトランプに与したことでも知られる。
ロシア軍の戦争犯罪が問われているが、ワグネルはシリアなど各国で、ロシアの尖兵として残虐行為も厭わない。とりわけ中央アフリカ共和国では実質的な支配者として、資源確保に取り組んでいる。ちなみに、反プーチンの急先鋒も元オリガリヒのホドルスフスキーで、ジャーリストたちに資金を提供している。
プーチンの現在は、「動物農場」が戯画化したロシア革命に遡及する。内容について多くの方がご存じの通り、ロシア革命を導いた革命家が登場する。政治家に擬せられているのは豚だ。人間が経営する農場での収奪に抗議の声を上げたのは雄豚メージャーで、モデルはレーニンだ。
メージャーには2人の後継者がいた。狡猾で政治的根回しがうまいナポレオンのモデルはスターリンだ。戦争のヒーローでアイデア豊かなスノーボウルはそのままトロツキーだ。現実の通り、スノーボウルは裏切り者の汚名を着せられて追放される。権力掌握後、ナポレオンの代弁者として動物たちを騙すスクィーラーのモデルはモロトフだ。
亡命先のメキシコで暗殺されたトロツキーだが、世界革命を志向し、芸術に理解が深かった。死後も支持は国外に広がり、日本でも60年安保、その後の熱い時代を主導したのはトロツキーの流れを酌む者たちだった。オーウェルは義勇軍としてスペイン市民戦争に赴くが、加わったのはトロキストのPOUMだった。
映画「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」で描かれていたのは<ホロモドール>だった。1932年から33年にかけ、スターリンは計画経済の成果を改竄するため、ウクライナの農作物を強制的にモスクワに送る。1000万超の餓死者が出たジェノサイドを告発したのが英国人記者のガレス・ジョーンズだ。「赤い闇――」は、「動物農場」執筆中(1945年)のオーウェルのモノローグで始まる。
ガレスによってホロモドールの惨状を知り、スペイン市民戦争で共産党の醜い体質を体感したオーウェルが「動物農場」執筆に至ったのは必然の成り行きだった。本作に重なるのが、1940年に公開された「独裁者」だ。チャップリンはヒトラーを徹底的にこき下ろし、世界中で称賛を得た。
ところが、オーウェルは違った。<共産主義は未来への光>、<ドイツを敗戦の追い込んだスターリンはヒーロー>……。これは民主主義を標榜する知識人の常識だった。ガレスの告発も大メディアに無視され、オーウェルも〝反共主義者〟と叩かれる。伝記によれば、身の危険を感じたこともあったという。日本人では石川達三が、ソ連と中国を訪問後(56年)、<「一九八四年」というのは悪い小説だ。大変なデマゴーグである>と記している。
「動物農場」が発表された1945年、どこまで腐蝕がソ連内で進行し、伝えられていたのかわからない。多くはメディアの忖度で伏せられていたはずだ。オーウェルは想像力で、近未来SFを書き上げた。その内容は現在のロシア、そして中国を穿っている。
ロシアのウクライナ侵攻以降、関連する内容を綴ってきた。ジョージ・オーウェルについては伝記を紹介した4月16日以降、2度目になる。今回は学生時代以来、40年以上を経て再読した「動物農場」(1945年)について記すが、NHKで放映されたドキュメンタリー2本を枕で紹介したい。
まずは「映像の世紀バタフライエフェクト~スターリンとプーチン」から。両者の連鎖を描いている。スターリンについては本題と重なるので、後半に記したい。興味深いのはプーチンの生き様だ。プーチンは1952年、レニングラードで生まれた。柔道に熱中し、岸惠子原案(出演も)の日仏合作映画「スパイ・ゾルゲ 真珠湾前夜」(1961年)に感動して諜報員を目指す。
KGB入局を果たし、派遣された東独でベルリンの壁崩壊を目の当たりにする。自身を支えていた理念の崩壊を覚え、KGBを辞めた。故郷でタクシー運転手をしていたプーチンに転機が訪れる。レニングラード市長選に立候補した恩師の右腕として市庁舎に入り、たちまち副市長に昇格や、その手腕が中央にも伝わり、96年には大統領府入りする。
クレムリンの汚職疑惑を追及する検事をえげつない手を使って失脚させ、エリツィンに恩を売った。首相就任後はテロの自作自演で人気が上昇する。タクシー運転手から9年、2000年に大統領まで上り詰めたのだ。オリガルヒ(新興財閥)を弾圧して喝采を帯びたが07年、EUとNATOに牙をむく。現在に至るロシアの闇を抉ったのが「ワグネル 影のロシア傭兵部隊」(フランス制作)だった。
ワグネルは傭兵部隊ながら実質はロシア軍で15年、親露派が力を持つウクライナ東部ドンバスに派遣された。創設者はヒトラー信奉者で元ロシア特殊部隊将校のウトキン、財政的バックボーンは下獄したオリガリヒのプリゴジンで、プーチンと親交が厚い。情報操作に長け、米大統領選でトランプに与したことでも知られる。
ロシア軍の戦争犯罪が問われているが、ワグネルはシリアなど各国で、ロシアの尖兵として残虐行為も厭わない。とりわけ中央アフリカ共和国では実質的な支配者として、資源確保に取り組んでいる。ちなみに、反プーチンの急先鋒も元オリガリヒのホドルスフスキーで、ジャーリストたちに資金を提供している。
プーチンの現在は、「動物農場」が戯画化したロシア革命に遡及する。内容について多くの方がご存じの通り、ロシア革命を導いた革命家が登場する。政治家に擬せられているのは豚だ。人間が経営する農場での収奪に抗議の声を上げたのは雄豚メージャーで、モデルはレーニンだ。
メージャーには2人の後継者がいた。狡猾で政治的根回しがうまいナポレオンのモデルはスターリンだ。戦争のヒーローでアイデア豊かなスノーボウルはそのままトロツキーだ。現実の通り、スノーボウルは裏切り者の汚名を着せられて追放される。権力掌握後、ナポレオンの代弁者として動物たちを騙すスクィーラーのモデルはモロトフだ。
亡命先のメキシコで暗殺されたトロツキーだが、世界革命を志向し、芸術に理解が深かった。死後も支持は国外に広がり、日本でも60年安保、その後の熱い時代を主導したのはトロツキーの流れを酌む者たちだった。オーウェルは義勇軍としてスペイン市民戦争に赴くが、加わったのはトロキストのPOUMだった。
映画「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」で描かれていたのは<ホロモドール>だった。1932年から33年にかけ、スターリンは計画経済の成果を改竄するため、ウクライナの農作物を強制的にモスクワに送る。1000万超の餓死者が出たジェノサイドを告発したのが英国人記者のガレス・ジョーンズだ。「赤い闇――」は、「動物農場」執筆中(1945年)のオーウェルのモノローグで始まる。
ガレスによってホロモドールの惨状を知り、スペイン市民戦争で共産党の醜い体質を体感したオーウェルが「動物農場」執筆に至ったのは必然の成り行きだった。本作に重なるのが、1940年に公開された「独裁者」だ。チャップリンはヒトラーを徹底的にこき下ろし、世界中で称賛を得た。
ところが、オーウェルは違った。<共産主義は未来への光>、<ドイツを敗戦の追い込んだスターリンはヒーロー>……。これは民主主義を標榜する知識人の常識だった。ガレスの告発も大メディアに無視され、オーウェルも〝反共主義者〟と叩かれる。伝記によれば、身の危険を感じたこともあったという。日本人では石川達三が、ソ連と中国を訪問後(56年)、<「一九八四年」というのは悪い小説だ。大変なデマゴーグである>と記している。
「動物農場」が発表された1945年、どこまで腐蝕がソ連内で進行し、伝えられていたのかわからない。多くはメディアの忖度で伏せられていたはずだ。オーウェルは想像力で、近未来SFを書き上げた。その内容は現在のロシア、そして中国を穿っている。