「裁判所前の男」 映画が完成するよ
裁判所批判を続ける大高正二さんを描いた映画『裁判所前の男』の試写を観た。
2007年から松原明による撮影が始まり、七年間を記録したもの。自らの民事裁判で裁判所の駄目さを知り、雨の日も風の日もたった一人で拡声器を握って抗議し続ける。「裁判官は証拠資料をちゃんと読め」「裁判官の数を増やせ」「撮影・録音の自由を」など、ごくまっとうの訴えを東京地裁・東京高裁前で連日行ってきた大高さん。裁判所の目の上のタンコブ。奇しくも私が現在の法律事務所に入ったときからの映像だ。裁判所に入るたびに、あ、またやってるなと思いながら通ったものだ。
裁判所内にカメラ付き携帯を持ち込んだことを理由に十数人の職員が大高さんを暴力的に強制退去する事件があった。大高さんは被害者だったにも拘わらず、裁判所・警察は逆に大高さんが守衛を殴ったとして、なんと三ケ月後に「公務執行妨害、傷害」で逮捕・起訴した。大高さんはデッチ上げの微罪事件で「有罪」(一年一月の懲役)とされただけでなく、判決の二倍以上にあたる二年五ヶ月間、東京拘置所に勾留されたのだった。
嫌がらせ弾圧の様子が、公判を辿るうちにミステリーさながらに浮かびあがってくる。第二回公判では診断書を書いた医師の証人尋問において、医師ははっきり「触診したが問題なかった。検査の結果も異常はなかった。本人が痛いと言っていたので診断書を書いた」とあっさり、認めてしまった。
第五回公判で、さらに明らかになる事実。裁判所警備の責任者二名の証人尋問。彼らは事件の数時間後に、守衛長の頭部に「五百円玉くらいの赤いこぶがあるのを見た」と証言した。弁護士が追及する。「あなたは、この事件について丸ノ内署で何回か調書をとっていますね。そのときに大事だと思われることはすべて話していますか?」「ハイ」。弁護士「いまあなたは五百円玉のこぶを見た、と証言したが、警察の調書にはこのことは一言も書いていない。なんで、こんな大事なことを警察で話していないのですか?」。証人「・・・聞かれなかったから」。苦しい言い訳、怪しさ満開。
暴行を裏付ける二つの証拠(診断書・目撃証言)が崩れたら、「無罪判決」ということになるだろう。弁護団が門扉ごしに殴れるのかという「現場検証」を要求したが、裁判長の「却下する」の一言で終わり。公平な審理で真実を究明しようなどという雰囲気は微塵もない。映画では実際に殴れるかの再現実験をしている。無理だよ。触るくらいしかできないよ。
そして恐怖の警備法廷、429号法廷も捉えられている。傍聴希望者が多くても少人数しか入れない。「報道記者席五席」は空席。司法記者クラブに訊いたら、「報道席の要請」はしていないとのこと。だったら一般傍聴者いれろよ。身体検査を経た戒厳令さながらの警備法廷。公判の終盤で「おかしいね」と小声でつぶやいた女性が即「退廷」となった。退廷後、入れ替わるように丸ノ内署の警察官二名が、傍聴席の後ろに入って監視を続けた。傍聴人は犯罪人扱いだ。ジョニーH傍聴人の図解イラストで理解する。とってもじょうずな似顔絵。さらに秘蔵映像もありだ。
一三年5月の経産省前テントひろばの裁判のときには、警備法廷の使用に反対して原告たちが「座り込み」を行い、大法廷に変更させた実例も紹介されている。
二審では、控訴趣意書を被告本人が読むことを裁判所が認めない。本人が「発言させてください」と言った途端、裁判長は「退廷してください」と一言。それを聞いた二人の廷吏が大高さんの両手をわしづかみにして、嫌がる本人を引きづり出してしまったとのこと。
最高裁判所の場面もある。正門は裁判官の高級車が入っていく。ものものしい。ドイツの憲法裁判所のバイクで登庁する判事と、えらい違い。大高さんが入って行こうとすると衛視が止める。納得できない大高さんは喰い下がり、最後は堂々と正門から入って行く。かっこいいぞ。
下町育ちの年金生活者、孫もいるおじいちゃん。お連れ合いさんとの様子も微笑ましくて、等身大の大高さんが描かれている。
そして最後は、大高さんがオートバイで再び裁判所前に乗りつける。これからも続けていくのだ。