OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

目眩くイエス

2010-02-08 14:35:14 | Rock Jazz

Relayer / Yes (Atlantic)

1970年代のクロスオーバーからフュージョンに至る大ブームは、大衆音楽のあらゆる分野に影響を及ぼしましたが、それは緻密なアレンジとバンドアンサンブル、躍動感とリラックスしたアドリブを含む演奏能力、そしてもちろん素敵なメロディと歌の魅力が必須でした。

そして当然、ジャズ畑からの台頭が目立っていた現実にロック系の歌手やバンドは押され気味だったんですが、どっこい、プログレをやっていた連中にとっては、まさに水を得た魚!

本日ご紹介の1枚は、中でも特に凄まじい結果を出してしまったアルバムで、主役のイエスは説明不要、プログレの代表選手として本国イキリスはもちろん、世界中で決定的な人気があるウルトラテクニック集団!

これを出した1974年当時のメンバーは、ジョン・アンダーソン(vo,per)、スティーヴ・ハウ(g)、パトリック・モラーツ(key)、クリス・スクワイア(b)、アラン・ホワイト(ds,per) という、実はこれっきりの集合体でした。

というのも、前作の2枚組アルバム「海洋地形学の物語」を出した後の巡業をもって、人気キーボード奏者のリック・ウェイクマンが脱退し、その後任オーディションの最中も、グループはレコーディングをやっていたという事情のようですから、新参加のパトリック・モラーツにしても、本人の意向もあっての準レギュラー扱いだったのです。

ちなみにイエスの音楽性としては初期2枚が、テーマ~アドリブ~テーマという構成のロックジャズ系だったものが、ピーター・バンクス(g) やトニー・ケイ(key) からスティーヴ・ハウとリック・ウェイクマンが交代参加した3枚目以降のアルバムで聞かれるそれは、ひとつのテーマ曲の前後左右に緻密なアレンジや秀逸なアドリブで彩りを添え、歌と演奏全体を膨らませていく手法へと転換した、まさにプログレの王道をいくスタイルとなって作られた「こわれもの」や「危機」により、ようやく世界的にブレイクしたのですから、またまたのメンパーチェンジは如何に!?!

結論からいうと、リアルタイムで聴いたサイケおやじは、そのあまりのテンションの高さと完成度の凄さに圧倒され、唖然とさせられましたですねぇ~~。

 A-1 The Gates Of Delirium / 錯乱の扉
 B-1 Sound Chaser
 B-2 To Be Over

アルバム1枚で、全3曲! こういう大作主義はイエスの十八番とはいえ、ここで聴かれる演奏の恐るべき緻密さは、まさにフュージョン!

強烈な変拍子の嵐! アドリブの応酬と複雑なアレンジが施されたバンドアンサンブルの徹底的な追及! 緊張と緩和が見事な曲構成! 

それは当然ながら、スタジオ内の仕事ですから、綿密なリハーサル、テープ操作やダビング作業の繰り返しで仕上げられたのでしょう。しかしイエスの凄いところは、レコードに収められたものと大差の無い演奏がライプステージでもやれたことが、後に発売されたライプ盤「イエスショウズ」で証明されるのですから、圧巻!

まずアナログ盤A面全部を使った「錯乱の扉」からして、タイトルに偽り無しの劇的な演奏で、いきなり多重層的に絡み合うギターとキーボードのカラフルな導入部から、重心の低いドラムスとベースの蠢き、さらにメルヘンで哲学的な歌詞を爽やかな子供の歌みたいなボーカルで表現した後は、激しいテンションが満ち溢れた変拍子大会! 随所で自己主張する各人のアドリブプレイもヤバすぎますが、既に述べたように、これほどの緻密なモザイクジグゾーパズルがライプの現場では、ちゃ~んと再現出来るんですから、決してハッタリではありません。

例えばアル・ディメオラ(g) が在籍していた時期のリターン・トゥ・フォーエバーにしても、ここまで過激で緻密な演奏が出来るでしょうか!?

なんて冒涜的妄想が、至極真っ当に思えるほどですよ。

ちなみに終盤のパートは後に編集され、「Soon」と題されてシングルカットされたほどの和みも忘れていないのは流石です。

そしてB面が、これまた強烈に熱くて、目眩がするほどの完成度!

初っ端からビシバシにキメまくるメンバーの個人技の応酬から、フルスピードでブッ飛ばす「Sound Chaser」は、並みのフュージョンバンドには太刀打ちできない世界でしょう。本当に一瞬も弛んだところなんか、見つけようとしても無駄な抵抗です。

思わず、うぁっ、うぁぁぁ~、なんて唸ってばかりの私の気持は、何時聴いても変りません。

もちろん素晴らしい和みの時間も用意されているのは、憎たらしいほど♪♪~♪

それがオーラスの「To Be Ove」で、スティーヴ・ハウという天才ギタリストが如何にメロディを大切にしているかが実感出来ると思います。本当に全篇、夢見るようなギタープレイとアグレッシプな早弾き、幅広い音楽性に裏打ちされた一期一会の名演じゃないでしょうか。

ということで、サイケおやじは最初に聴いた瞬間から、何時までも驚きと新鮮な感動を持ち続けているわけですが、本当のイエスファンからの評判は芳しくありません。

というか、イエスの一連の作品の中では明らかに異なる色彩ゆえに、異端児扱いのようです。人気者のリック・ウェイクマンの後釜に入ったパトリック・モラーツのジャズフュージョン志向が目立ち過ぎるのも、その要因だと言われていますが……。

しかし、これまでよりもずっと前向きに過激なスティーヴ・ハウのギターに象徴されるように、フュージョンだろうが、ロックジャズだろうが、はたまたプログレだとして、イエスという超絶技巧集団には何時か通過せねばならない王道の儀式が、このアルバムだと断言しても、私は後悔しません。

それほど圧倒的な完成度、過激で濃密に仕上がったフュージョンアルバムだと思います。

特にドラムスとベースの存在感は凄いとしか言えませんし、辛辣なテンションで大活躍していた前任ドラマーのビル・ブルフォードと常に比較される宿命のアラン・ホワイトにしても、このアルバムでは常日頃の冷静さに加えて、ジャズならではの瞬間芸的な大技小技を周到に積み重ね、実は主役ではないかという嬉しい疑念も浮かんでくるほどです。

そしてイエスを語る時、必ず言われるのが、所謂「ロック魂」云々でしょう。

確かにロックはテクニック至上主義よりは、スピリットの問題とか、感性の鋭さがリアルタイムで求められているのは否定出来ません。しかし、だからといって、テクニックに優れて、それをウリにしているミュージシャンを貶すことで自己主張するのは、間違いじゃないでしょうか。

悔しかったら、やってみろっ!

なんてことをイエスの面々は言うはずもありませんが、現実的に残された凄い演奏は、何時まで経っても聴く人を圧倒するものがあります。なんというか、行きついたプログレが、一回転してロックジャズに戻ってきたのが、このアルバムかもしれません。

あとは、好き嫌い、それだけでしょうね。

私は好きです。

コメント (4)
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