よのなか研究所

多価値共存世界を考える

ダイヤモンド安保?

2013-01-16 21:50:29 | 時事

 

 

                  Photo ( インド国会前の襲撃者撃退用土嚢、ニューデリー )

 新政権が動き始めていろんなことが発表されているが、ことばのみが先走っている感を受けるのは私一人だろうか。首相は訪米が実現せず、かわりにベトナム、タイ、インドネシア訪問へと旅立った。首脳陣の相互訪問は良いことだが、あて馬のように来られても困る国もあるだろう。

首相は「戦略的外交」という言葉が好きなようで、その具体的な行動の一つは「自由、民主主義、基本的人権といった価値観を共有する」国々と連繋を強める「価値観外交」とのことのようだ。ちょっと耳にするともっともなように聞こえるが、今回最初に訪問するベトナムはれっきとした共産党一党独裁の国である。自由市場経済社会主義を民主主義とするなら中国はその先輩格である。こんな基本的な「ミス」をすら官邸の取り巻きは指摘することができないのだろうか。童話に出てくる「はだかの王様」を連想する人もいることだろう。

かと思えば、首相はウェブサイトProject Syndicate上に「ダイヤモンド安保構想」なるものを発表している。はじめは何のシャレかと思ったが、しごく真面目な構想のようである。その内容が16日付けの東京新聞朝刊に掲載されている。日本と米国ハワイ州とオーストラリアとインドを結ぶとほぼ菱形になる。この菱形ダイヤモンドに含まれる海域の安全について四カ国が連携すべく働きかけていく、というものである。あくまでも構想であって、実行性はまた別なのだろう。

一足先に東南アジア、豪州を訪問した岸田外相と会談した豪州のカー外相は「日豪関係は中国を封じ込めるものではない。日本との関係強化は豪中、日中の関係強化と共存できる」と日本の出方を牽制した(同紙)。 

菱形の尖がりのひとつはインドである。この国がこのような申し出に同調するかと問われれば、とてもそうは思われない。インドは日・米・豪と洋上での軍事共同訓練を行ったと思えば、すぐに中・ロと陸上の軍事共同訓練を行う国である。昨年六月には相模湾沖でインド海軍と海自の共同訓練があり、外務省・防衛省はこれを大いに評価していた。インド海軍は多くの国を友好訪問し、また訓練をしているのである。

現実に貿易額を比較しても、インド-中国間取引がインド-日本間の数倍規模となっている。「中国封じ込め」という用語が日本の政界とマスコミの独りよがりであることは、外国メディアに目を通すと容易に理解できる。

インドは確かに中国、パキスタンと戦火を交えた経緯がある。それゆえ、現政権は慎重に両国との外交関係を平静に保つべく最大限の努力しているところである。国防の基本は兵器の国産策であるが、先端兵器は広く多く国から輸入し、リスクの分散を図っている。つい先日もロシアからMig-29Aの導入を発表している。 

インドは外交交渉に長じた国であり、「価値観外交」と言われれば表向き賛意を示しながら、内心「なんじゃ、それは」と感じることだろう。核実験の強行に見られる通り、自国の信念を貫くに他国が口を挟むことを拒否する。「是は是、非は非」であり、友好国にも正面切って異議を唱え、また敵対している国であっても評価すベきところは正しく認める、そんな国である。

中国での暴動で日本の小売業や工場が甚大な被害を受けたことは記憶に鮮烈だが、その少し前にはインドで日本の自動車工場で暴動あった。最近インド国内での女性の暴行被害が続出してニュースになっているが、これまで問題化されなかったことが明るみに出てきた、という方が正しいだろう。基本的人権は大いに侵害されている。「自由、民主主義、基本的人権といった価値観を共有する」国々と連繋を強める「価値観外交」は響きは良いが、これを真に受ける国があるだろうか。

政権が何度代わっても、日本の外交センスは「ひよわな花」のごとくである。世界の外交舞台で周回遅れで走っている、と言ったら言い過ぎだろうか。

(歴山)